　マッチングアプリですって？

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　女と男がスマホのマッチングアプリを使って、出会いを求めるものなのよね。この世界の人間達は淋しいのかしらね。なぜ、女と男という性が一緒になりたがるのか、私には理解できないわ。

　この世界では、古来（こらい）から恋愛という概念が浸透しているのね。お見合い、自由恋愛、政略結婚……こんな古い価値観と習慣に縛られて生きているなんて、軽い奴隷制度みたいだわ。

　様々（さまざま）な形式の恋愛を経（へ）て結婚という形（かたち）にはまり、愛を育（はぐく）み、その集大成が、お互いの遺伝子を継承した子供という事なのね。

　そこまでして、互いの遺伝子を後世（こうせい）に遺（のこ）したい執着心は、どこからくるものなのかしら？　それも、この世界の人間という生物の遺伝子の特徴なのかもしれないわね。

　そうして生まれた後継遺伝子体（こうけいいでんしたい）、つまり子供でさえ、ひとりで生きていける成長体になるまで、数十年（すうじゅうねん）という年月（ねんげつ）を消費するのよね。

　未成熟体、幼児期の時から、あらゆる事、生理現象や食事に教育を施すなんて、非効率で個の人生を無駄にしているとしか思えないわ。

　それに、後継遺伝子体を創るのに、性交渉という行為を行うのでしょう？　そんな、女と男が生身で互いの遺伝子をやりとりするなんて、私達の世界では考えられない思考と行為だわ。

　もちろん性交渉というアメニティは存在するけれど、それはあくまでも、パーソナライザー・イメージリング・アクティビジョナライズ・アステルの世界で行うものなのよ。簡単に言うと、脳内ヴァーチャル世界での行為ね。

　仕組みは以前に説明したから省（はぶ）くけれど、好みの異性や同性をカスタマイズして、楽しむのよ。いわゆる快楽も脳神経から全身にゆき渡るから、心地よい疲労感が余韻として残るわよ。

　そして以前にもざっくりとふれたけれど、後継遺伝子体を欲（ほっ）したい時は、シンギュラリティ・フォーメイテッド・レセルーション・システム管轄下の年齢抑制プログラムオプションと同様に、シンギュラリティ・フォーメイテッド・アドバンスド・レセルーション・システムセンターに赴（おもむ）き、自身の遺伝子を抽出し、性別・容姿・体型・髪の色・性格などをデザインして、最適な他（ほか）の個の登録されている遺伝子がマッチングされて、新たな後継遺伝子体が誕生するのよ。

　すぐに後継遺伝子体を求めなくても、自身の遺伝子の登録は可能だから、みんな結構、気軽に登録だけは済ませているわね。遺伝子のマッチングは異性に限らず、最近になってようやく同性同士の遺伝子でも後継遺伝子体は創る事が可能になったわ。

　私達は、完全な個という存在なので、この世界における家族・家庭という形態と概念が、ないのよ。その形態を構築する個と個のカップリングも、いない事もないのだけれど……また、少数ではあるけれど、稀（まれ）に直接的な性交渉を経（へ）て妊娠、出産するという個同士もいるのだけれど、エターナリンク星系同盟連邦の総人口の０.５%にも満たない少数派ね。

　そんな進化の過程で、互いの生殖器は退化してないものとなってもいいはずなのに、なぜか残されているのは、やはりこの世界の人間達と繋がりがあるのかしら。

　確かに、あなた達の常識と価値観に照らし合わせると、遺伝子をアップデートした私達の存在は、忌（い）み嫌われるものなのかもしれないわね。

　遺伝子操作は、あなた達の世界では、神への冒涜（ぼうとく）として認知され、それをいい事に思考停止してしまうのよね。前にも言ったかしら？

　人間には否定して、動植物には肯定し、都合のいい、言い訳と解釈をするのね。

　ここで、あなた達人間の進化は、終わりかしらね。

　まぁ、家庭に家族……親から子へ、そして孫へと、家系と遺伝子が継承されてゆく事象は、あなた達の世界においては、喜びと美徳と、ロマンに溢れているのかしら。

　それにしても、この尋常（じんじょう）でない通知の数（かず）は、なんなのかしら？　遊び半分でマッチングアプリに登録したら、こんなにもの通知って、驚いたわ。

　プロフィールなんて、適当よ……ただ、面白そうだから、私の出身地などは正直に入力したわ。顔写真は少し加工したけれど、その他（ほか）の項目は、もちろん、出身地は首都星（しゅとせい）エルメローナ・レスティアーナって入力して、エターナリンク星系同盟連邦からやってきました。なんて入力しても、誰も信じないと思っていたら……まったく、私を馬鹿にしているのかしら？　淋しい男ばっかりね。