本作は、少女達の未成熟で繊細な心情を描きながらも、突き放すように硬質な文章でつづられるハードボイルド百合SF戦記ライトノベルです。特にダークな世界観でかつ読み応えのあるライトノベルを求める方には、一読をお薦めします。
当初は緋音《アカネ》とアリアの二人のカップルが終わりの見えない闘争に身を投じる中で、絆を見出していく物語なのではないかと思っていました。
ところがどっこい。
物語が進むにつれ、恋愛や友愛というより巨大感情のぶつけ合いがそこかしこで起こり、銃声、爆光、怒号、幻聴……などが飛び交う中〝鳥〟と呼ばれる少女傭兵達はときに世界の命運を背負って命を燃やします。
そして、鏖殺《おうさつ》。すなわち皆殺し。サブタイトルに冠せられたこのとげとげしい言葉は、第4部にあたる「偽りの音」で初めて結実します。
序盤の暗闇の中を手探りで進むかのような感触は、主観視点となっている緋音《アカネ》の繊細すぎる精神とシンクロし、〝鳥〟と呼ばれる少女傭兵達が生きる世界の残酷さをまざまざと描き出しています。しかして、世界の残酷さはわかるものの、そこがどんな世界なのかがわからず読んでいて不安に駆られたのですが、後々になってこの見せ方はにくいな、と思いました。
群像劇でもあるため、主観視点となるキャラクターが何回か変わるのですが、その際に個々のキャラクターごとに世界の見え方——あるいは見方——が異なるため、これまでわからなかったことがじわじわとわかるようになっているのです。この〝じわじわ〟と見せていく世界の描き方(情報の出し方)が実に巧妙で、読者の情報処理能力を圧迫することなく、群像劇の特徴を長編における世界の描き方に落とし込んでいるのだな、と感じ入りました。
多くの個性的なキャラクターが登場しますが、みんなの風紀委員長みたいなツンツンメガネ小鳥遊小鳥《タカナシコトリ》と上司には慇懃・仲間には砕けた態度で接する淘金《ユリガネ》が好きなキャラですね。
それから「偽りの音」Part5以降に登場するキラメキ隊のはっちゃけぶりには、大いに楽しませられました。
世界の全容はいまだつかめず、いくつもの謎をはらんだまま物語は続いていきます。
鳥、先駆入植人類、促成兵、X保有者、普通の人間……キーワードはいくつか提示されていますが、これらの点をつなぐ線は見えていません。
そして、多くの読者が感じるであろう疑問。
そもそもこの世界における人間とは、我々の知る人類と同じ存在なのか。
これがこの物語のあるいはこの世界の全容を知る鍵となるでしょう。
緋音やアリア達にとっては当たり前すぎて考えるまでもない「人間の定義」が彼女達の前に立ち現れるとき、それは彼女達が行き着く先を見出したときではないかと思うからです。
その時が来るまで、彼女らの生き様を見守りたいと思いました。