Part 6
報告書は支部から本部に回されることが決まりました。
私も目をとおしましたが、既知の災害級ディズであると仮定するなら、スリーは
すこしはおちつきましたか?
どうも待ち切れないようですから、本題に入りましょうか。
NRSで間違いありません。それもあなたとおなじか、それ以上に重篤な症状が出ています。ですので、彼女にもレッドバンドが支給されます。
問題はここからどれほど再生するかです。あなたの場合は喉が欠けていた。あの
ですが、私たちには知見がある。あなたのおかげで組織の研究は進んだ。それだけ彼女は幸運だったといえるでしょう。
そんな顔をしないでください。みじかいつきあいですが、あなたに悪い話を持っていったことはなかったはずです。
ですよね、緋音さま。
はい? 呼び方が気にくわない?
ではどうしろと。
いっておきますけど、私にはもう相手がいるんです。独身の鳥を呼び捨てにするような倫理観は持ち合わせていません。いいですね。
納得したのでしたらよろしい。
……
でも、条件はそろっている。
またそういう顔をする。
あのレベルの損傷が
それに、あなたも相当ですけど、あの娘はまだ
むしろ、都合がいいのでは。
いえ、だって、あの娘を危険にさらしたくはないのでしょう。だったら戦闘能力は回復しないほうがいい。復讐心を折るのに戦傷はじゅうぶんな理由づけになる。
もちろん知ってますよ。人事部ですので。彼女が鳥になったのは
失礼。つまり、あの娘には素質がありました。それがなにに起因するかわかりませんが、能力と戦意があるなら鳥になる資格があります。軍隊の兵士としてはメンタルセットに問題があろうとね。
だからいってるんです。
回復しないほうがいい。
だって、あの娘に戦闘能力が戻ったら、絶対に戦場に戻ってしまう。
そのとき、あなたにあの娘が止められるんですか。
もう一度、あの翼と戦って、生き残れると思ってるんですか。
……国家や企業にとって、人間はリソースです。組織にもおなじ考えがある。ですが、組織にいれば自殺の権利さえ手に入る点は違う。ほとんど無秩序に近い性質を持つにも関わらず、自由意志を持つヒトによって成り立つ存在。それが鳥と組織です。
生が義務でなく権利にすぎないなんて、本来なら狂ってる。
人間は
その犠牲が、もしも組織そのものだったとしても。
なんです、その目つきは。
いいんですよ。思想信条の自由です。あなたには他言できる声がないですし、まあなにかの間違いで他に知られても、それはそれでしょう。
あの娘の話はここまでにしておきましょう。いくら話しても、これから起きることに影響を与えることはできないと思いますので。
そうそう。ついでですが、あなたの遺言書について。あれは破棄しますか。それともこちらであずかっておきますか。先日説明したとおり、私に任せていただければ、戦闘中に行方不明になり一定期間が経過した場合など、戦死扱いになり次第、遺漏なく執行します。特例上位ランカーの待遇をそのまま継承させることはできませんが、あなたがこれまで得てきた資産はすべて、アリアさんが相続することになります。師弟関係があれば理由としてはじゅうぶんですしね。
わかりました。ひきつづき責任を持って保管します。
ええと、では伝えたことを確認します。
アリアさんにNRSが発症したこと。
喪失した右腕部については
遺書は私のほうで管理すること。
他になにかありますか。伝言とか。
ああ、変な心配はしないでください。費用なんて取りません。年下の後輩からまきあげるほど困ってないので。なによりあなたは同好の士ですからね。
また変な顔をして。私は覚えています。自分の目で見たものなら。だからあなたがどんな本を読んでいるのか、おおまかには把握している。そういうことです。
……はい。なるほど。わかりました。
では、タイミングを見て渡しておきます。
しばらく会えなくなるのはさみしいですが、あの娘がいるかぎりあなたはきっと帰ってくる。そう信じていますよ、緋音さま。
それでは、お元気で。
*
ノイズをはなつラジオのように、わたしの心は歪んでる。
きっとこのこころは、あの子にいっさい届かない。
でも、その逆も怖かった。
もしもあの子に、わたしのこころが聞こえてしまったら。
きっとひどく軽蔑されるだろう。
もしもあの子が、わたしをただの武器と思っているなら。
きっとひどく失望するのだろう。
わかりもしない、もしもときっとの波にさらわれる。
レッドバンドをはずしたとき、起きるすべてが怖かった。
それが戦場なら逃げればいい。
日常だっておなじだった。
極光を仰ぐ。
風に揺れるようにして移り変わる、光の帯を仰いでた。
ひどい寒さでしずくが凍る。
流れることを許さぬように。
ひとつの戦いが終わり、多くが死んだ。
なのにほっとしている自分がいる。
他人の大切なんてどうでもいい。
わたしもやはり鳥だった。
自分で望んでそうなった。
新しい空に向けて渡る。
この翼が、寄り添って飛ぶにふさわしいほど強くなるまで。
ねえ、アリア。
わたしは決めたよ。
あの翼を共に墜とす。
これはその力を得るための離別だ。
死んでも悔いのない恋。
わたしの胸のなかで、その花はたしかにつぼみをつけていた。
岩如翼撃墜作戦 / Operation Eater Down ————END
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