Part 4

 ヤンスの子をリーダーとし、出撃することとなった。夕刻が近い。

 鳥にはランクがある。Sを頂点とし、A、Bとつづき、Eがスタート地点となる。いつまでもヤンスではかわいそうなので、緑髪の本名、さきほど知った、鎧塚ヨロイヅカカナメという名前を出そう。ファン二号の金髪は鎧塚夕陽ユウヒという。彼女たちの間に血縁関係はないが、ファミリーネーム、苗字を持っているということは、連帯を結んでいるという証だった。どんな馴れ初めなんだろうか。肉体関係は。我ながら俗なことを考えた。

 わたしは特例上位ランカーとしてS扱いになっているが、これは昇蜘蛛を討伐する戦いで生き残ったこと、そのとどめを単独で刺した功績を大として祭りあげられているにすぎない。それに声が使えない。よってリーダーを務めることはできなかった。

 カナメもユウヒもランクBの鳥だ。戦闘経験はそれぞれ七年、六年。リーダーを任せても問題ない。他、二名がついてくる。アリアとわたしは最後列を担当することとなった。いい位置だ。

 防寒具と銃器、弾薬、なにかあったときのための食料や寝具などを合わせると重量は相当なものになる。長射程の銃器を二本持つとそれだけで合計20キロを超えてしまうのだから、これらを徒歩で持ち歩くとそれだけですさまじいことになる。わたしには苦ではないが、カナメでさえ「できるだけ軽くが基本でヤンス~」なのだから、もちろんアリアにも「できるだけ軽く、ですね」を実行させた。軽量化の代償はわたしが持てばいい。

「重くないですか?」

 アリアが言う。背負いでもしているときに、そんなことをささやかれてみたいな。ぜんぜんそんなことないよ。そう答えることのできる喉はないんだけれど。わたしは首を横に振って否定した。

 空の色がオレンジに染まりつつある。

 極光雪原は平坦な地形のためフロートボードで移動を行う。飛行能力を持ったキックボードというところだが、標準的なものでも耐荷重量が200キロ、時速70キロで走行可能だ。超小型のレシプロエンジンでプロペラを回すことでこの高速移動を実現できる。燃料切れなどの緊急時は自転車の要領で駆動させることも可能。画期的な発明だと思う。主材が飛行型ディズの甲殻でなければな。

 わたしたちはその材料集めに駆り出されていた。観測されたディズの群体は100匹以上になるという。昇蜘蛛のように名のある災害級ではないので駆除の優先度は低いが、いずれ絶滅させねばならぬ相手だ。殺せるときに殺し、いただけるものはいただく。

 進行中にスカウトと合流した。示し合わせたわけではないので偶然だ。名は聞かないがAランクらしい。そいつは敵の正確な位置を共有すると、挨拶もなく離脱した。鳥らしい行動だ。

 アカネはこの人物のことを日記に書いておこうと決めた。

 ディズの先頭集団を発見する。カラスのような姿のものが29か。こちらに気づいている様子はない。気づくとしても仲間が撃たれてからだろう。スコープを覗いて敵の型を確認しておく。アリアの肩を叩いた。鳥のハンドサインで、攻撃型だと伝えておく。

「光を放つタイプでヤンス。各自、攻撃タイミングを合わせるでヤンスよ」

 カナメは望遠鏡で敵を確認すると、リーダーらしく命令した。よくキャラづくりがブレないで済むな。わたしは笑みを作ってトリガーに指をかける。アリアの方をチラ見する。実戦はまだ片手の指で数えられるほどしか経験していない。表情が硬かった。わたし以外の全員がその場に荷を降ろし、銃身置き場に使う。

 カナメが腕を横にまっすぐ伸ばす。射撃準備の合図。

 ばっと掲げられた。

 銃声が連続する。5匹を撃墜。だれかが外した。移動目標に対する練度が足りていない。連射。次々とディズがおちていく。

 5匹が振り返ってこちらに攻撃態勢。優先して狙う。

 撃つ。撃つ。

 弾倉を外して再装填。発射。

 一匹がくちばしを開く。

 光が見えた。

 ひとり倒れるのが見える。連帯していたのだろう、見知らぬ誰かがカバーに入った。悪手だ。

「攻撃優先でヤンス!」

 いい判断だ。アリアがリロード中。わたしはくりかえし指に力をこめた。反動など知ったことか。当てればいい。弾数を数え、ゼロに達するたびにリロード。連射。15匹墜とした。

 第一陣の殲滅は完了。次の集団が来る前に態勢を整える必要がある。

「分散隊形でヤンスよ。そこのふたりは後ろで待機でヤンス」

 どこかおどけたような口調に、表情がこわばった少女たちがうなずいた。質量のある光の直撃を受けたひとりは、銃が破壊され、右肩がちぎれそうになっていた。自力での復帰は困難だろう。いまのうちに処置しておかねば手遅れにもなりかねない。

 昔のことを思い出す。もし一点集中で撃たれていれば、わたしも間違いなくそうなっていたから。

「了解」

 アリアが震えながら答える。

 ユウヒがゴーグルのズレを直して追加の指示を出した。

「アカネさん、アリアさん。こちらの援護に徹してください。前衛として、できるだけ敵をひきつけます」

 ありがたい。わたしひとりならともかく、アリアのフォロワーシップは育っていない。もし自己判断で行動すれば攻撃を優先しかねない。光の攻撃を避ける位置取りもわかっていないだろう。実際、自分の先輩が撃たれたことに彼女は動揺しているように見える。

 狙撃銃を軽量のものへ変更しろ。ハンドサインで命じる。二度やった。応じるまで時間がかかった。やはり彼女は戦場で冷静さを欠いている。

 徒歩で位置を変えながら索敵する。位置がわからない。帽子に触れた。ヘッドバンドのあるところを無意識のうちに撫でていた。外したいと考えるのはエゴだった。ひとりならやっていただろう。

 そうこうしているうちに、目視。2000メートル超か。こちらには向いていない。警戒状態が伝播していないのはいいことだ。いまなら対ディズ用の弾頭で一方的に撃ち殺せる。わたしなら。

 日がだいぶ傾いている。空が茜色から紺に変わりつつある。

 アリアの肩を叩いて敵の位置を共有。そして手の形で追加の指示。

「敵発見!」

 アリアが叫び、銃口を敵の方に向けた。味方に伝わる。カナメとユウヒから射撃準備の指示。それはつまりまだ撃つなということだ。しかしアリアはトリガーに指をかけている。

 やめろ。

 わたしはアリアの指をはずそうとした。

 遅かった。銃声が響く。遠い。命中しなかった。

 ディズの集団は自分たちの近くを通り過ぎた敵性物質を感知する。

「ここからは力戦になるでヤンスよ!」

 そうだろうな。向こうに見える粒の数は50を超えていた。

 空に輝く線が引かれる。

 死ぬなよ、アリア。

 わたしは予備の弾倉に手をつける。

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