第21話

「お待たせしました。ご注文お伺いします」


「……ふふっ。なんだかいつもと違う瑛太さんで面白いですね」


 俺は今日バイト先であるファミレスへとやってきてバイトをしていた。

 キッチン担当で料理を作るのがメインではあるものの、お客さんは少なく従業員も俺と店長の二人だけということもあり、ホールに出て心姫相手に接客をしていた。


 心姫がハンバーガー屋からの帰り道、車の中で俺の自宅に到着する直前に言ってきたお願いというのは、『瑛太さんのことが知りたい』というものだった。

 そうお願いされた俺は、自分がまだ心姫に見せていない一面を考え、自分がバイトしているところを見てもらうのはどうだろうかと考えた。


 バイトしているところを見たからといって何がわかるもんでもないよなとは思ったが、部活もやっていないしずっと純花のために生きてきた俺には好きなものなんてなかったので、俺が心姫に見せていない一面なんてバイトをしているところくらいしかない。


 バイト先での姿を見られるのは恥ずかしかったのでできれば来てほしくなかったのだが、心姫からいじめの相談を受けて『なんでも言ってくれ』と言った手前、お願いされたことを断ることはできず心姫をバイト先に連れてきたのだ。


「俺は店員で心姫は客なんだから、いつもと違って当たり前だろ」


「そうですね。私が知らない瑛太さん一面が見れて私はとっても満足です」


 俺がバイトをしている姿を見るだけで何が満足なのかはわからないが、本当に満足そうな表情を見せているのでまあ良しとしよう。


「満足ならよかった」


「その、えっと……制服姿も大人っぽくてすごく似合っていますよ」


 恥ずかしそうにして何を言うのかと思ったら、突然バイト先で指定されている制服姿を誉めてきたので俺も思わず赤面してしまう。


「あっ、ありがとう……」


「いっ、いえ。本当に似合っていたので……」


「ほっ、ほら。注文は?」


「あっ、はい! えーっと……」


 そうして心姫の注文を受けた俺は厨房へと戻り、汚れた皿を皿洗い器へセットしてから心姫が注文した料理を作り始めた。


「ねぇ、あれってもしかして前から言ってるイーティーの彼女?」


 そう質問してきたのは店長の柏崎三月かしわざきみつきだ。

 心姫と親しそうに話していると店長から変な詮索をされそうな気がしていたので、でできれば心姫と親しく会話をしていることに気付かれたくはなかったのだが、心姫以外の客は二組しかおらず忙しくもないため気付かれてしまった。


 店長にはまだ純花と別れたことを伝えていないし、純花と付き合っていた時に結構相談に乗ってもらっていたので、俺が珍しく同年代の女子と親しく会話をしていれば、あれが俺の元カノである純花だと思ってしまうのも無理はない。


 ちなみにイーティーとは瑛太のアルファベット、EITAからEとTを取って店長がつけた店長しか使っていない俺のあだ名である。


「あの子は前から言ってる彼女とは別人でただの友達ですよ。ちなみに前付き合ってた彼女とは僕が車に轢かれる直前に振られて別れました」


「ええ!? そうなの!? ただの友達同士って雰囲気には見えなかったから前から言ってる彼女なのかと思ったんだけど……」


「それは店長の感想でしょ? どう見えたのか知りませんけど、俺とあの子は本当にただの友達です」


「ってか車に轢かれる直前に振られるとか可哀想すぎない? 今年のおみくじ大凶だった?」


「おみくじは大吉でしたよ。待人来るって書いてありました。もう来てるけどなって思ってたんですけど、どっか行っちゃいましたね」


「そりゃ大変だったね。ほら。店長の胸に飛び込んでおいで」


「胸がデカすぎて邪魔なので遠慮しておきます」


「それって褒めてるの貶してるの!?」


 俺は大きい胸が好みではないので、貶してはいないまでも、抱きつきたいとは思わないのだ。

 ちなみに心姫は胸が小さく、俺の胸の大きさの好みドストライクであるという話はただの余談である。


「どっちでもないですね。まあ拒否してるのは間違いないですけど」


「へぇー。そんなこと言っていいんだ。じゃあ私サラダ持っていきがてらあの子にイーティーとどんな関係なのか訊いてくる」


「えっ、ちょ、ちょっと店長!?」


「安心してよ。本当に彼女じゃなくてただの友達だっていうならイーティーのこと売り込みしといてあげるから」


「余計なことしないでください! そんなの売り込みされる方は迷惑に決まってるじゃないですか!」


「ほら、イーティーは早く料理作ってね! 料理の提供が遅れたらこのお店の評判が落ちちゃうんだから!」


「くそっ……」


 俺には料理を作るという仕事があり、店長にはサラダを心姫の元まで運ぶという仕事がある。

 知人を連れてきて職場にプライベートを持ち込んできたのは俺なので、これ以上仕事の時間に仕事以外のことはできないと俺は渋々料理を作り始め、心姫と店長が会話しているところをただ眺めることしかできなかった。

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