第48話
純花さんに川へ指輪を投げ捨てられてから一週間が経過し、私は自分の部屋のベットで横になり、指輪を投げ捨てられた日のことを考えていた。
指輪を投げ捨てられたあの日、私たちはみんなで川の中に入って指輪を探したが、結局指輪は見つからなかった。
大切な指輪を投げ捨てた純花さんのことはどうしたって許せないし、少なくとも謝罪をしてほしいとは思っている。
しかし、私は指輪を投げ捨てたこと以上に、みんなを侮辱し危険に晒したことが許せなかった。
純花さんのせいで、みんなが風邪を引く可能性もあったし、溺れてしまう可能性もあったのだから。
自分勝手に他人を危険に晒すなんてあってはならないので、二度と同じようなことはしないでほしものだ。
指輪を投げ捨てたれたこと以上にみんなを危険に晒したことが許せないのは本当だが、だからと言って指輪を投げ捨てられて、無くしてしまったことにショックを受けていないわけではない。
あの指輪はお父様がお母様に婚約を申し込む際に渡した指輪で、大切な指輪だった。
そうはいってもなくなってしまったものは戻って来ないので、瑛太さんには『もう川に入って指輪を探すのはやめてください』とだけ言い聞かせておいた。
そうしなければ瑛太さんはまた絶対に川に入って指輪を探そうとするだろうから。
私がそうきつく注意をしたのは、瑛太さんが優しすぎることを知っているからだが、私には今回の件で一つだけわからないことがある。
それはあの日、瑛太さんがなぜ私が渡した婚約指輪をカバンに入れていたのかだ。
あの日指輪を投げ捨てられた時は、指輪がなくなってしまうかもしれないという焦りから気付くことができなかったが、普通に考えて何も理由がなければ瑛太さんがカバンの中に指輪を入れているはずがない。
「ああああーーーー‼︎‼︎ なんで指輪持ってたのぉぉぉぉおお‼︎‼︎」
私はベッドの上で転げ回りながら、瑛太さんが指輪を持っていた理由について考えていた。
指輪をカバンの中に入れているということは、私に指輪を渡そうとしたとしか考えられない。
指輪を渡そうとしたということは、私にプロポーズしようとしたってこと⁉︎
いやまだ焦るな私、プロポーズはぶっ飛びすぎだ。
仮に指輪を渡してくれるにしても、プロポーズではなく告白をしてくれると考えるのが妥当だろう。
えっ、もし告白されたら私嬉しくて死んじゃうんだけど。
だって私、気付いていなかっただけできっと車に轢かれそうになっていたところを助けられた時点で、瑛太さんに気を惹かれていただろうし、もう瑛太さんのことを好きになってから半年近く経つわけで。
それだけの間想いを寄せていた相手が、私に告白をしてくれるなんて幸せ極まりない。
自分の命を顧みずに私を助けてくれた瑛太さんとなら、結婚した後の生活も、それこそ子供ができた時のことだって想像できる。
自分の命を顧みず私を助けてくれるような人、子供に対しても絶対優しいに決まっている。
瑛太さんと私たちの子供がじゃれ合っている姿、なんて微笑ましいんだろう……。
--って何考えてるの私⁉︎
告白されて付き合うまでだけではなく、結婚して子供が産まれるところまで想像するなんて、いくらなんでも気が早すぎるでしょ……。
まあそれだけ瑛太さんのことが好きってことなんだろうけど。
……というか冷静になれよ私。
今もう完全に告白される気でいたけど、瑛太さんが私に指輪を渡そうとしていたからって、告白されると決まったわけではないな。
婚約指輪なんてある程度高額なものなわけだし、『こんなものを持っているのはプレッシャーで煩わしいだけだからもう返す』と言って指輪私に返すために持ってきていただけかもしれない。
その理由ならまだしも、根本的に私のことを好きになることができず、『結婚して一緒に生活していく未来が見えないからもう返す』と言って指輪を返すために持ってきていたのかもしれない。
後者の可能性も十分あるな……。
そもそも高校生という年齢で、女の子から『いつか私に渡してくれ』と言われて婚約指輪を、それもその女の子の両親の婚約指輪を渡されるなんて迷惑極まりないしプレッシャーでしかないだろう。
そう考えると私に告白をするために指輪を持ってきたと考えるより、ただ私に指輪を返すために持ってきていたと考える方が妥当だろうな……。
「はぁ……。どっちなのかな……」
結局私は寝るまでずっと瑛太さんが指輪を持ってきていて理由について考え、その答えが見つかることはなかった。
◆◇
翌日の朝、目を覚ました私は身支度を終え、優奈さんの運転する車に乗り込んだ。
結局瑛太さんが指輪を持ってきていた理由は分からずじまいだが、もう指輪がなくなってから一週間も経つんだし、これ以上考えるのはやめておこう。
これ以上考えたところで答えは出ないんだし。
そう決意した私のカバンの中でスマホが震え、私はスマホの画面を見た。
私にLINEでメッセージを送ってきていたのは瑛太さんだった。
瑛太『ごめん、ちょっと体調不良で今日は休むから迎えは大丈夫』
「えっ--」
体調不良……?
確かに寒くなってきてはいるし風邪を引く可能性もあるが、これまで私と関わるようになってから風邪を引いたことの無い瑛太さんが風邪?
そう思った私の頭によぎったのは……。
「……まさか」
そうして私は瑛太さんに電話をした。
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