第41話
瑛太と別れて高宮先輩と付き合い出してから半年が経過した今日、私は高宮先輩からファミレスへと呼び出されていた。
そしていつも通り高宮先輩より先に待ち合わせ場所であるファミレスに到着した私は、高宮先輩が来るのを待っていた。
普通好きな女の子とのデートなら男の人の方が先に来るのが当たり前のはずなんだけどな……。
正直高宮先輩と私の関係は上手くいっているとは言えない。
それは私が付き合ってしばらくした時、高宮先輩から体の関係を求められたのを断ったからだ。
高宮先輩の噂は付き合う前から聞いていたが、まさかあれだけかっこよくてみんなから人気のある人が女癖が悪くて女の子に無理やり関係を求めるような人だとは思っていなかった。
高宮先輩から体の関係を無理強いされた私はその時理解した。
瑛太は私を引き止めるために適当な嘘をついていたのではなくて、本当に私のことを思ってくれての発言だったのだと。
しかし瑛太と別れて高宮先輩と付き合うことになってからそれに気付いたところでもう遅い。
瑛太と別れた私には高宮先輩と上手く付き合っていく以外に幸せになる方法は無かったし、高宮先輩と別れてしまえば瑛太を喜ばせてしまうかも知らないと考えると別れるわけにはいかなかった。
だから付き合ってすぐ体の関係を求めてきた高宮先輩とは、本当は別れてしまいたいのに別れることなく付き合い続けたのだ。
しかし、高宮先輩の酷い行動は体の関係を求めてくるだけに留まらなかった。
私との予定を急にすっぽかしたり、私以外の女の子と遊んだり、嘘か本当かは知らないが、私と付き合っている時に私以外の女の子と体の関係を持ったなんて話を耳にしたこともある。
それでも私は、いつか本当に私のことを好きになって、瑛太との時よりも素敵な関係を気付けるようになると信じてここまで付き合ってきた。
そして今日、珍しく高宮先輩からファミレスに誘われた私は、ついに高宮先輩から私に歩み寄ろうとしてくれているのではないかと胸を弾ませていた。
このまま私たちの関係がいい方向に向かって行くといいのだけど……。
そんなことを長々と考えていると高宮先輩がファミレスに到着し、私の座っている席へとやってきた。
「あっ、高宮先輩。お疲れ様です」
「ああ、お疲れ」
高宮先輩の表情と声で、私は高宮先輩が決して私と過ごす今日を楽しみにしていなかったことを察した。
「あっ、あの、今日はどうしたんですか? 急に高宮先輩の方から私を誘ってくれるだなんて」
「芳野に伝えたいことがあってな」
「伝えたいこと?」
「俺と別れてくれ」
「……へ?」
高宮先輩が冷たい表情をしていることには気付いていた。
それでもまさか別れを切り出されると思っていなかった私は、驚きを隠すことができない。
「俺はもう芳野とは付き合えない」
「なっ、なんでですか⁉︎ 私何か悪いことでもしましたか⁉︎」
「いつまでたっても俺に心を許してくれないからだよ。今時の高校生なんて半年も付き合ってれば大半が心も体も交わってるもんだ。それなのに芳野ときたらいつまでたっても俺に心を許してくれないから。こっちだって勇気いるんだぞ? 体の関係を求めるのって。その度断られるこっちの身にもなってくれよ」
体の関係を断り続けたから振られる?
そんな理由がまかり通っていいのだろうか。
私の友達の中でも、性の話が好きで興味津々な子もいれば、苦手な子だっている。
どちらかと言えば私は苦手な方なので、高宮先輩とそういうことをするにしても、もう少しお互いのことを知って仲を深めてからにしたいと考えていた。
それなのに、体の関係を断り続けただけで振られるなんて、それでは高宮先輩はただ自分の性欲を満たすためだけに私と付き合っていたみたいではないか。
「そっ、そんな理由で振られるなんて私納得いきません!」
「納得も何も俺は最初からお前とはただヤリてぇなぁとしか思ってなかったからな。顔は可愛いし胸もでかいからしばらく待ってやったけど、ここまで体の関係を許してくれないならもう用はねぇよ」
「そっ、そんな! 酷いです! 私は本気で高宮先輩のことが好きだったのに!」
「芳野が俺のこと好きかどうかなんて俺には関係無いからな。それじゃ、俺もういくから」
「えっ、ちょっ、高宮先輩⁉︎ 高宮先輩⁉︎」
そして高宮先輩はファミレスから出て行ってしまった。
えっ、私もう高宮先輩と付き合ってないってこと?
たったあれだけで、もう高宮先輩とはお別れになったってこと?
私は呆然としてしまい、涙を流すことすらできなかった。
……いや、そうじゃない。
私自身もう高宮先輩のことが好きではなくて、振られても悲しいという感情が無いんだ。
なんなのよ、なんなのよもう。
結局瑛太と別れて高宮先輩と付き合っている間、私にとって幸せな思い出は無い。
私が幸せじゃないのに瑛太はヘラヘラと学校生活を送っているので、嫌がらせとしてあらぬ噂を流してやったのに、それでも瑛太の心が折れることはなく、折れるどころか私よりも幸せそうに生活をしているのが腹立たしくて仕方がない。
なんで私だけがこんな目に……。
そうして私の頬を伝った涙は悲し涙ではなく、自分は不幸せなのに瑛太が幸せそうに生活を送っていることに対する悔し涙だった。
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