第28話
「今日は突然呼びだしてすみせんっ。ご迷惑かと思ったのですが、最近瑛太さんに元気が無いなって思ってたタイミングで瑛太さんが学校をお休みされたのでいてもたってもいられなくて……」
心姫は先日瑛太とドーナツ屋に行った時、瑛太が気力喪失してしまったように元気が無いのが気になっていた。
それだけなら気になる程度で済んでいたかもしれないが、心姫が賢人と花穏を呼びだす決め手となったのは、ここ二日間瑛太が風邪だと言って学校を休んでいること。
風邪だと言ってはいるものの、休み出したタイミングが瑛太に元気が無かったタイミングと重なっており、学校を休んだ理由が本当に風邪なのかが気になった心姫は賢人と花穏を呼び出したのだ。
「やっぱり心姫ちゃんの目から見ても元気無さそうに見えちゃったか」
「はい。この前瑛太さんとお会いした時に、瑛太さんが珍しく生気の無い顔をされてて--いや、生気が無い顔してるのはいつもなんですけど、明らかに普段より元気が無かったのでいてもたってもいられなくて」
「ふふ。心姫ちゃんも瑛太のことがよくわかってきたね」
花穏からそう褒められた心姫は少し照れながらも話を進めた。
「す、少しずつではありますけど……。それで、そちらの方は?」
心姫の前には今日心姫が呼び出した賢人と花穏の他にもう一人、見知らぬ人物が座っていた。
「こちらは同じクラスの麻衣ちゃんです」
心姫の前に座っていたのは純花の友人である麻衣だった。
心姫は初対面の麻衣に「ど、どうも……」と言いながらペコリと軽くお辞儀を見せる。
「……可愛い」
「へ?」
「礼美がめっかわって言ってたけどこんなに可愛いなんて……。これは純よりも……」
「そうなの、心姫ちゃんは外見も中身も純花ちゃんの何倍も可愛いんだよ」
「いやなんでお前が誇らしそうなんだよ」
「自分の友達が可愛いのは自慢したくなるし誇らしいじゃん」
「まあわからなくはないけど」
心姫は花穏が自分のことを友達だと言ってくれたことに、花穏さんは私を友達として見てくれているのだと胸を弾ませた。
「そ、その、今日はなぜ麻衣さんも来てくださったのですか? 瑛太さんのことと何か関係あるのですか?」
「麻衣ちゃんに来てもらったのはね、瑛太のことを理解して味方してくれる人が私たち以外にもいるってことを心姫ちゃんに知ってほしかったからなんだ」
「瑛太さんの味方……?」
心姫は花穏が麻衣のことを瑛太の『友達』ではなく『味方』と表現したことに疑問符を浮かべた。
瑛太から麻衣の話なんて聞いたことが無いし、友達ではないのだろうか。
「--というかまず瑛太に何があったのか説明しないとね」
「やっぱり何かあったんですね⁉︎ 私が大丈夫かと訊いても大丈夫としか答えてくれなくて……」
「多分瑛太は心姫ちゃんに心配をかけたくないから何も言わないようにしてるんだと思う」
「瑛太さんは本当にお優しい方なので、私に心配や迷惑をかけないようにって考えるのはよくわかります。でも私としては瑛太さんに何があったのかを知って、何かできることがあるなら瑛太さんの力になりたいと思っているんです」
「瑛太に何があったのか、心姫ちゃんに説明する気で来たけど本当に説明していいのかどうか……」
賢人は瑛太の身に起こっていることを心姫に伝えることが、正しいかどうか判断することができないでいた。
賢人は全校生徒から虐げられて元気を失っている瑛太のために、心姫に瑛太に何があったのか伝えるべきなのではないかと考えている。
しかし、そうなれば心姫に迷惑がかかるのは避けられないし、瑛太が心姫に迷惑をかけたくないと思っているのに瑛太に何が起きているのか心姫に話すべきなのかどうか決めきれないでいた。
「瑛太今ね、元カノの純花ちゃんにクラスメイト全員の前で『瑛太と別れたのは瑛太が無理矢理性行為を迫ってきたからだ』って嘘をつかれて、それから学校で不当な扱いを受けてるの」
「えっ--」
「ちょっ、花穏⁉︎ それ今俺が心姫ちゃんに言うべきなのかどうか悩んでたところなんだけど⁉︎」
「いいじゃん別に。減るもんじゃないし」
花穏は賢人の考えを理解していた。
花穏にも瑛太が心姫にあえて言っていないことを自分たちが伝えるべきなのかどうか悩んでいる部分はあったし、瑛太に何があったかを伝えれば心姫に迷惑がかかるのも理解していた。
それでも花穏は瑛太がいじめられてる事実を心姫に話すべきだと考えたのだ。
「減るもんじゃないって、そういう問題じゃないだろ……」
「瑛太に何があったのか心姫ちゃんに言わないって選択肢が正解だとは限らないでしょ? それにね、もし私が心姫ちゃんの立場なら絶対に言ってほしいって思うもん。賢人が困ってる時に力になれないなんて絶対に嫌だから」
花穏の話を聞いた賢人は、花穏が心姫に瑛太の話を伝えた理由に納得するとともに、花穏に惚れ直すことになった。
「花穏……」
「というか麻衣ちゃんにきてもらってるのに言わないってわけにもいかないしね」
「花穏さん、教えてくださって本当にありがとうございます。花穏さんが教えてくれなかったら何も知らないまま瑛太さんに辛い思いをさせてたと思うので」
「私からしたら心姫ちゃんには謝らないといけないんだよ。瑛太に何があったか知っちゃったら心姫ちゃんにも大変な思いをさせちゃうと思うから」
「いえ、謝罪なんていらないです。瑛太さんの力になりたいですから」
花穏の謝罪を聞き、隣に座っている麻衣も口を開いた。
「私からもごめん。純が嘘を言ってるって気付いたのに何もできなくて、矢歌君が陥れられるのをただ見ていることしかできなかったの。あの状況で矢歌君を助けられるのは私しかいなかったのに……」
心姫に対して謝罪をした麻衣をフォローするように花穏は話し始めた。
「麻衣ちゃんね、純花ちゃんの一番の友達なの。それでも純花ちゃんは嘘を言ってて瑛太は悪くないって理解してくれてて、瑛太を助けたいって私たちに声をかけてくれたんだよ」
花穏のフォローを聞いた心姫は、微笑みながら麻衣に話し始めた。
「……詳しい状況は把握できていませんけど、クラスメイト全員の前で純花さんの話を嘘だって証言する勇気なんて普通誰も持ち合わせていないのであまり気に病まないでください。純花さんとの関係もあると思いますので、純花さんとも上手くやりながら瑛太さんの味方をしていただけると嬉しいです」
「……え、心姫ちゃんって天使なの?」
「そうなんだよ、心姫ちゃんは天使なんだよ」
「そ、そんな大層なものでは……」
「純の中身が心姫ちゃんだったらよかったのに……」
「ほんとそれな」
「俺たちもなんとか頑張るけど、瑛太を頼む。心姫ちゃん」
「はいっ」
「ねぇ、心姫ちゃん、ドリンクバー取りに行こっ」
「はっ、はい」
そう言って二人でドリンクバーに行くと、花穏は訊いてきた。
「ねぇ、心姫ちゃん」
「な、なんですか?」
「初めて私たちと会った時からさ、瑛太に対する気持ちは変わったりした?」
そう訊かれた心姫は、これまで瑛太と一緒にいた時間を思い出し、今の素直な気持ちを伝えた。
「……はい。わたしは--」
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