第18話

 俺の視界に写ったのは、今日遊びの誘いを断った賢人と、相変わらず仲良さげに賢人の腕にしがみつく花穏だった。

 俺と心姫が二人でハンバーガーを食べている姿を目にした二人はどちらも目を丸くし、驚きで言葉を失っている。


「えーっと、色々難しい状況だとは思うんだが、俺の前に座ってるのは新屋敷心姫、俺の友達だ」


「「瑛太に女友達ぃ⁉︎」」


 予想通りの反応をありがとう、そしてそのままぶん殴ってもいいだろうか。

 確かに俺は女友達が少ない--というか男友達も少ないんだけど、とはいえ心姫の前でそんな反応をされると、俺が友達の少ない人間みたいに見えるのでやめてほしい。いや少ないんだけど。


「俺にだって女友達くらいいるわ」


「えっ、いやっ、だって……瑛太に女友達ぃ⁉︎」


「混乱しすぎて同じこと繰り返してるだけになってるぞ」


「いやぁ、瑛太も隅に置けないねぇ」


「最初から隅に置いとけよ。……ごめん心姫。この二人は俺の学校で唯一の友達で賢人と花穏っていうんだ。二人は付き合ってて、こう見えても良い奴だから安心してくれていいぞ」


「こう見えてもってお前には俺たちがどう見えてるんだよ」


「うーん……悪魔?」


「そんなに印象悪かったのか俺たち⁉︎」


 実際俺は毎日のようにこの二人のイチャイチャを見せつけられており、特に純花と別れてからはそのイチャイチャがやたらと目に付いており、俺の目からは悪魔のように見えていなくもなかっと。

 彼女に振られたばかりの俺が仲睦まじい姿を見せつけらられば、悪魔の様に見えるのも仕方がないだろう。


「あっ、あの、こんにちわっ。新屋敷心姫と申します」


「「……」」


 心姫が挨拶をすると、賢人と花穏は驚いたように言葉を止めてしまう。


「えっ、あっ、あの、何か失礼なことをしてしまいましたか⁉︎」


「いや可愛すぎるだろ!」「いや可愛すぎるって!」


「……へ?」


 心姫は呆気に取られた様子で目を丸くしているが、二人があまりにも予想通りの反応をしたので俺が驚くことはなかった。


 二人の驚きの言葉の中には、ただ単に心姫が可愛すぎるという意味の他に、俺の女友達にしては可愛すぎるという意味も含まれているのだろう。


「いやだって同じ高校生でこんなに身長が小さくて声も高くて、髪もサラサラで礼儀正しい女の子見たことないぞ⁉︎」


「私もこんな可愛い子見たことない……」


 そうだろうそうだろう、心姫は可愛すぎて思わず目を奪われてしまうだろう。

 俺のことを褒められているわけではないのに、心姫が二人から褒められているのが自分のことのように嬉しく誇らしかった。


「そっ、そんな、身に余るお言葉ですが……」


「友達の友達は友達理論ってのもあるし、心姫ちゃんが瑛太の友達なら俺たちももう心姫ちゃんとも友達ってことで一緒にハンバーガー食べていいか?」


 俺自体は瑛太たちが一緒にご飯を食べることになっても、心姫と二人の時間ではなくなってしまうだけだし、何より今日予定を断っていることもあり断りづらいのでそれでも構わないのだが、問題は心姫がイエスというかどうかだ。


「……まあ心姫がいいなら」


 そう言って心姫の方へと視線をやると、心姫は慌て気味に二回首を縦に振った。


「よし、そうと決まったら急いでハンバーガー注文してくるから!」


 そう言って二人は慌ててハンバーガーを注文しにいった。

 いやそんなに慌てなくても逃げないけどな俺たち。


「なんかごめんな、急に」


「いっ、いえっ。それに瑛太さんのご友人には会ってみたいなと思っていましたので」


「ならいいけど」


 こうして俺たちは賢人たちがハンバーガーを持ってくるのを待った。




 ◆◇




 ハンバーガーを購入して帰ってきた賢人たちに、ハンバーガーを食べながら俺から心姫と知り合った経緯を説明した。


「ってことがあってだな……」


「なるほど。そんな奇跡があったからこんなに可愛いこと瑛太が知り合えたんだな」


「おい奇跡が起こらなかったら可愛い女の子と知り合えないみたいな言い方するのやめろ」


「でも実際そうだよねぇー」


「……お二方とも、あまり驚かれないのですか?」


 心姫は俺の話を聞いてあまり驚きを見せていない二人の反応が疑問だったようだ。


 そんな心姫の疑問を聞いた賢人と花穏は顔を見合わせた。


 まあ確かに俺としても車に轢かれそうになっていた女の子を助けたという非現実的な話を、疑いもせずに聞き入れられたことについては多少驚いている。


「そりゃまあ瑛太って俺と知り合った時からそんな感じでよく身代わりになって誰かを助けたりしてたから、今回の話も数ある話のうちの一つというか」


「そうなんだよね。私も瑛太には何回も助けられたことあるし、今更驚く必要もないかなって」


「そ、そうなんですね……」


 二人の話を聞いた心姫は俺の方へと チラッと視線をやってから、恥ずかしそうに逸らした。


「だからこそ瑛太には純花ちゃんじゃなくて、心姫ちゃんみたいな恋人ができるといいなとは思ってたんだよ」


「こっ--」


 心姫は恥ずかしさから赤面している。


「おい、誰だって急にそんな話されたら恥ずかしいし迷惑だろ」


「……私ちょっと心姫ちゃんと二人で雑貨屋でも見てくるね! 野郎たちは野郎たち同士仲を深めといて!」


「あ、ちょ、花穏? あっ、心姫⁉︎」


 花穏は何か思いついたように突然席を立ち、そして心姫の手を引っ張ってハンバーガー屋から出て行ってしまった。

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