第10話
今日は交通事故で怪我をして以来久しぶりに登校する日。
元カノである純花と同じクラスの俺は、どう頑張っても純花と顔を合わせることは避けられないので少しだけ緊張していた。
せめて別のクラスであれば避けようもあるのだが、同じクラスではどう頑張っても俺の視界には純花が入ってくるし、逆に純花の視界から逃れることもできない。
純花と付き合っている時は、課外授業で同じバスに乗れたり、体育祭や文化祭などの行事でも同じ時間を過ごせたりと、同じクラスであることにかなりの恩恵を感じていただけに、同じクラスであることがこれほどまでにネックになるとは思っていなかった。
「浮かない顔をされていますがやはりギプスを巻いての学校生活はご心配ですか?」
そう言って心配そうに俺の顔を覗き込んできたのは、俺の隣に座っている心姫だ。
あまりにも可愛い表情で俺の顔を覗き込んでくるので思わず赤面しそうになるが、ギリギリのところでなんとか耐えた。
心姫が武嗣さんと一緒に俺の家にやってきた日に決まった俺への恩返し、『体が全快するまでの身の周りのお世話』の一環として、俺は心姫の家が出してくれている車に乗り込み心姫と一緒に登校していた。
とは言っても心姫は俺とは別の学校に通っているので、俺を先に送り届けてから心姫は自分の通う学校へと向かって行く。
それにしてもこの車が俺の家の前に止まった時は驚いたな。
艶のある上品な黒色の車でサイズ感も大きく、運転しているのが武嗣さんではなく使用人の
心姫がお嬢様学校に通っており、俺へのお礼と謝罪として一億円をポンッと用意できてしまうことからも心姫の家がお金持ちなのだろうというのは予想していた。
その予想がこの車とこの車を使用人の三木さんが運転しているのを見て、確信に変わった。
「いや、ギプスをしてるせいで学校生活がしずらいんじゃないかってのは全然心配してないよ。心配なのはその……元カノと同じクラスだからさ、心配っていうか、顔を合わせるのが気まずいなと思って」
「そうなんですね……。私が同じ学校ならずっと瑛太さんのそばにいてあげられるのですが……」
ただ交通事故で助けられただけの俺に恩返しをするだけなら、俺の気持ちに寄り添ってずっとそばにいてあげられるなんて発言はできないだろう。
心姫が人の気持ちに寄り添うことができる優しいい女の子だからこそできる発言だ。
純花がこんな風に人の気持ちに寄り添える女の子だったらよかったのにな……。
心姫の暖かさに触れそんなことを考えていた俺の心の中からは、いつの間にか純花と顔を合わせることに対する不安は消え去っていた。
「……ありがとう。気まずいけど大丈夫、というか今大丈夫になった」
「そう……なんですか?」
「ありがとな。俺と友達になってくれて」
「えっ、友達も何もまだ友達らしいことは何一つとしてできていませんけど……」
そんな話をしているうちに学校の前まで到着した俺は、心姫からもらった勇気を胸に扉を開いて車を降りた。
「一人で登校してたら心細かっただろうけど、心姫がいてくれたから大丈夫だったんだ。それだけで十分だよ」
「い、いえ、まだ一パーセントも恩返しできていません」
「とにかくこれからもずっと友達でいてくれると助かる。それじゃあまた帰りに」
「もちろんです! 無理しないでくださいね!」
俺はそんな心姫の言葉に応えるように手を挙げ、車の扉を閉めた。
今から元カノがいる学校に交通事故後初めて登校していく俺に『頑張って』ではなく、『無理しないで』という言葉をかけてくれた心姫は本当に人の心がわかる優しい子なのだろう。
そんな心姫の優しさを噛みしめながら、俺は学校へと向かっていった。
◆◇
今日は瑛太が事故後初めて学校に登校してくる日。
元カノとして事故にあった瑛太が気にならなくはないものの、恋人関係を解消した私たちはもう無関係な人間なのだから、瑛太が怪我をしていようがいまいが私には関係無い。
それに瑛太が学校を休んでいる間に私は高宮先輩を射止め、恋人になることができた。
高宮先輩という新しい彼氏ができた私が瑛太と再び恋人に戻ることはあり得ないので、私と瑛太はもう他人も同然なのである。
高宮先輩は私と一緒にいても臆せず接してくれるし、何よりかっこよくて優しい。
私といると遠慮がちで、別れ際に高宮先輩の悪口を言って私を引き止めようとした最低な瑛太とは何もかもが違う、私に取って最高の彼氏だった。
そんな現状に満足している私は、瑛太が登校してきたら私が最低なことを言われた分、瑛太に高宮先輩のことを自慢してやろうなんて思いながら登校していた。
(ふふっ。瑛太の悔しそうな表情が今から頭に浮かぶわ)
そんなことを考えながら学校に到着すると、黒くて大きな車が校門の前に止まっているのが見えた。
あんな車見たことないな……。なんの車なんだろう。
そんなことを考えながら黒い車を眺めていると、後部座席の扉が開いて、私たちが通う高校の制服を着ている男子生徒が出てくるのが見えた。
一体誰があんな高級そうな車に乗っているのだろうかと男子生徒の顔を見た私は思わず言葉を失った。
その車から降りてきたのは瑛太だったのだ。
失礼な意味ではなく瑛太の家はあんな高そうな車には乗っていない。
じゃああの車は一体誰が持ち主なの?
なんで瑛太はあんな高級そうな車から降りてきたの?
そんな疑問を持った私は、瑛太を下ろして私の方へと向かってきた車の中を私はじっと見た。
運転手のとても顔の整った女の人が誰かはわからない。
そんな運転手よりも私の目に止まったのは、後部座席に乗っていた可愛すぎる女の子だった。
瑛太には妹なんていないし、あの女の子はお嬢様学校である愛徳高校の制服を着ていた。
しかも後部座席に乗っていたと言う方は、瑛太の隣に座っていたと言うことになる。
「……なんなのよあの子は」
瑛太の周囲を取り巻く状況がどう変わったのか全く分からない私は、そう呟きながらイライラしたまま校舎へと入っていった。
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