第40話 プロジェクト本格始動②

各自与えられた仕事に取り掛かり、2時間が過ぎた。

私の与えられた仕事が形になり、エマに提示する。



「5都市を中心に10回公演で見積もりを作ってみました。これです。」


書類を渡し、見てもらう。


「どの会場も、ピアノなどの楽器音響の揃っている所になっています。公演回数などは増やせますが、まずはこの10回にしておいて好評なら追加公演にするのが良いと思ったんですが…。」


「そうね。そうしましょう。アルバムにコンサート告知を入れるから予定一覧とデザインを任せるわ。」


「了解しました。」


「無料ライブはどうなった?」


「鉄道会社の方にライブの出来そうな所を探して貰っています。」


「そう。わかった。ところでさ…。」


「はい?」


「あれ、何してんの?」



エマが私から目線を動かし部屋の隅を見る。

視線の先にはヘッドホンを繋げた電子ピアノを一心不乱に弾いている悠紫ゆうしの姿があった。



「オフィスにピアノを持ち込んで練習してます(笑)」


「何で?帰ってやれば良いじゃないのよ。」


「やめさせた方が良いですか?」


「一緒に居たいって事なんでしょ。放っておいて良いわ。」


「ありがとうございます(笑)」


「あの人があなたの事になるとわがままになるのはもう慣れた!(笑)」



エマの早口に笑ってしまった。

エマも笑う。


私たちは間違いなく、同志だ。


神矢かみやゆうを高みに行かせるために命を賭けている。

見つめ合う私たちの間に、絆が生まれた気がした。





――――――――――――――――――


「急にごめんなさい。今日中に婚姻届を出したいんだ。」


「思い立ったが吉日と言うからな。あはははは!(笑)」



悠紫の父、菅屋すがや光司こうじが豪快に笑う。

オフィスから電話をして婚姻届を出したいので証人のサインが欲しいと言うと時間を作ってくれた。

悠紫と2人でSUGAYA自動車本社に向かうと、母親の小百合さゆりも来てくれていた。



「杏実さん、悠紫を頼みます。」


「そんな…。こちらこそ宜しくお願いいたします。快く承諾して頂き感謝しています。ありがとうございます。」


「親御さんがいらっしゃったら、どんなにお喜びか…。」


「そうですね…。喜んでくれたと思います。」


「直ぐに結婚式も出来ずにごめんなさいね。近い内に打ち合わせしましょうね。」



小百合が申し訳なさそうな顔をした。



「ありがとうございます。落ち着くまで、まだしばらくかかりそうなので…。目処が立ったらお知らせしますね。」


「えぇ、そうして下さい。悠紫、杏実さんおめでとう。悠紫が結婚だなんて…。何だか信じられないわ(笑)」


「どうゆう意味だよ(苦笑)」


「何かあれば何でも言うんだぞ?幸せになりなさい。」


父、光司が悠紫の肩を叩いた。


「うん。ありがとう(笑)」




――――――――――――――――――

SUGAYA自動車本社から出て、2人の戸籍謄本を入手し婚姻届を提出した。



「以上でこちらの婚姻届を受理いたします。おめでとうございます。」


女性職員がニコリと笑ってくれた。



「ありがとうございます!」



2人で声を合わせて言うと、居合わせた職員達が拍手をしてくれた。






エマとの打ち合わせの後直ぐに会社を出て、

必要書類をかき集める為にバタバタと動き回った私たちは、婚姻届を出した時には疲れ切っていた。

私の仕事も、悠紫の練習も自宅で出来る。

エマは区役所から直帰する許可をくれた。


トボトボと車や自転車を避ける為に川辺を歩いていると悠紫が口を開いた。



「ちょっと座ろうか。」


「うん。」


こんな暗がりに土手に座っているのは私達くらいだ。

しかも今日はかなり寒い。

でもホッと一息、安らげた。



「何だか不思議な感じだね。」


「何が?」


「昨日と何も変わらないのにね。」


「そうだな。確かに何も変わらないね。でも、これでずっと一緒に居られる。居ても良いんだよな?」


「うん…。」


「ありがとう。幸せにするよ。」


「いま、充分に幸せだよ?」


「実は…俺も!(笑)」


「ふふふっ(笑)」


「腹減ったな。何食べよっか。」


「お祝いに飲もうよ。」


「昨日も飲んだけど(笑)」


「昨日も今日もお祝いだもん(笑)」


「じゃ、酒に合うもん買って家で飲むか。」


「うん、そうしよう!」



立ち上がりお尻をパタパタとはたく。

悠紫が手を繋ぐ為に右手を差し出した。

嬉しくて飛び付き笑うと


悠紫も笑ってくれた。

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