第26話 エリカの怒りの矛先
「あなたも辛かったでしょうけど菅屋くんはもっと辛かったでしょうね。あなたには理由があったけど、彼はその理由を知り得なかったんだから。」
「うっ。うぅ。」
早苗はいつも厳しい事を言う人だった。
でもそれはいつも正しくて…。
そのお陰で鍛えられいい仕事も出来た。
一応、人の記憶に残るCMを作る事も出来たんだけど…。
今の私にはこの言葉は、キツイだけだった。
「もう、あまり言わないであげて下さい。再会してからも色々あったんです。そこはもう乗り越えましたから。過去は忘れましょう、そう言ってくれたじゃないですか!」
「あなた、本当に優しい人ね。」
「この人泣かすと面倒くさいんですよ(笑)」
「は、はぁ?面倒くさい?」
「あははは!(笑)何回この
「あ、き、た?」
「何回も言わせんなよ。悪いのはエリカなんだよ!解決したく無いの?」
「解決したいです…。」
「泣いてる場合じゃないだろ。」
「菅屋くん、随分強くなったのね。どっちが歳上かわからないわね(笑)」
「精神年齢は、間違いなく僕の方が上です(笑)」
全てを乗り越え笑う悠紫を見て、恥ずかしくなった。
そうだ。
エリカの事を解決しなくては…。
「俺、浦沢さんにお願いしたら良いんじゃ無いかと思ってるんだけど。エリカの事。」
「私も…思ってた…。」
「なぁに?」
「エリカちゃん、私と悠紫くんが一緒にいる事を認めてくれないんです。悠紫くんの事を諦めてくれなくて。私たちだけではどうにもならないので早苗さん、話し合いに立ち会って貰えませんか?」
「必要とあればなんでも協力するわよ。」
「ありがとうございます!」
――プルプルプルプル
その時、スマホの着信音が鳴った。
私のスマホだった。
「あ、店から。出ますね。」
「どうぞ。」
・
・
「はい、もしもし。」
「ごめん。店が混んできてさ。戻って来れるか?」
「うん、直ぐ戻るよ。」
・
・
「ごめんなさい。店に戻らないと。」
「これを飲み終えたら、また店に行くわ。」
「俺は事務所に行くよ。」
「わかった。じゃあね。 早苗さん待ってますね。」
・
・
・
――――――――――――――――――――
【悠紫side】
「あの子、あそこで働かせてて良いの?オーナーの気持ちに気付いてない訳じゃないわよね?」
「浦沢さんには敵わないですね(笑)気付いてるどころか、本人にはっきり言われてますよ。寂しそうにしてたら奪っちゃうよって(苦笑)」
「再会してから本当に色々あったのね。で、平気なの?」
「平気では無いですね。毎日、気が気じゃないです(笑)」
「じゃあ、なんでいつまでも働かせてるのよ。」
「男のプライドってやつですかね(笑)」
「男ってどうしようもないわね。ふふふっ(笑)あなた達、絶対に幸せになりなさい。」
「はい。ありがとうございます。」
・
・
・
・
・
――――――――――――――――――――
【杏実side】
急いで店に戻ると制服を着た3人の男子高校生が、
その子達に付きっきりになっている様だった。
親子連れや学生などで混み合っていて、私がカウンターに入ると2組のお客様が会計に並んだ。
「お待たせしてすみません(焦)」
「いえ、大丈夫です。」
2組のお客様の会計を終え売り場に出る。
困っているお客様がいないかを見ながら店内を回った。
――カランコロンカラン♪
「いらっしゃいませ!」
早苗が来てくれた。
「賑わってるわね。」
「時々こんな日があるんですよね。」
――カランコロンカラン♪
今日は本当にお客様が沢山来るなぁ。
のんびりと考えていた。
「いらっしゃいま…」
最後まで言えなかった…。
エリカだった。
とうとうこの店にエリカが来てしまった。
「きゃー!!」
私を見たエリカが悲鳴を上げた。
悲鳴を上げたいのはこちらなのに。
やっぱり私にはこの子の行動が理解出来ない。
「ちょっとアンタ!!!こんなとこで何してんのよ!!」
エリカの形相が恐ろしい。
体が固まって動かない。
声も出せない。
「悠紫さん!返しなさいよ!!!」
エリカはそう叫ぶと私に向かい走り出した。
「!!!!!!」
そうか、これが走馬灯ってやつなんだ。
悠紫との事が脳裏に駆け巡る。
やっぱり私の走馬灯には悠紫くんしか出てこないのね…。
星降る夜の告白。
手を繋ごうとしたのを断り続けた映画の帰り道。
地方ロケの帰り、新幹線の駅や空港まで迎えに来てくれた事。
2人で酔っ払って歌いながら笑った歩道橋。
側でピアノを聴いていた幸せな時間…。
楽しかったなぁ。
幸せだった。
もう少し一緒に居たかったな…。
「杏実!!」
星准?
何よ、邪魔しないでよ…。
悠紫くんの事を思い出してるんだから…。
「
誰?誰の声?
あれ?なんで何も見えないの?
普通、幽体離脱して自分を見たりするんじゃないんだっけ?
「柊さん!無事ですか!?答えて下さい!」
ん?
ゆっくり目を開けると、2本の足でしっかりと立っていた。
知らない男性がエリカの腕を掴み、私を見ている。
「無事ですか?」
「は、はい。無事みたいです…。」
「ちょっと!離しなさいよ!」
エリカがその知らない男性の胸の中で暴れていた。
その男性は星准に向かい声を掛けた。
「オーナーさん、お客様の誘導を。」
「あ、はい! お会計のあるお客様はこちらまでお願いします。そうで無いお客様はまた違う日においで下さい。」
星准は20%オフ券を配りながら頭を下げた。
・
・
「もういいでしょ!離してよ。」
「菅屋光司社長の所に行きます。逃げずに待ってなさい。」
「おじさんは私の味方よ!!逃げるわけないでしょ!」
その男性がエリカの腕を離すと、エリカは掴まれていた所を大袈裟にさすった。
男性はスマホを取り出しどこかへ掛けた。
「もしもし。ただいま柊杏実さんを保護しました。一条エリカもおります。どうしますか? はい。」
少し待たされている様だ。
「はい。了解です。」
スマホをポケットに入れながら私の目の前に立ち、説明を始めた。
「SUGAYA自動車、専属警備会社の警護員です。菅屋光司社長の依頼であなたの警護に当たっていました。」
スリムでおしゃれなジャージのセットアップにおでこの上にスポーツ用のサングラス。
背はさほど高くは無いが身体のラインが他の人とは全く違う。
腕も背中も足も役に立つ筋肉しか付いていない感じ。
警護員と言われて納得した。
「全然気付かなかったんですけど…。いつからですか?」
「2週間ほど前からです。気付かれない様に身を潜めていました。これから迎えが参ります。話し合いの場が設けられますので。」
星准を見ると不思議そうな顔をしていた。
「なんで、あんな大会社の社長がお前の警護を頼むんだ?」
「えっと、それはね。」
「この方々はご存知無いんですか?」
「はい…。」
「この女が執拗に追いかけている菅屋悠紫は、菅屋光司のご子息です。」
星准と早苗は直ぐに理解が出来なかった様だった。
少し遅れて顔全体で驚いてみせた。
「執拗に追いかけるって何よ!!それはこのババアじゃない!!」
「静かにしなさい!」
「杏実。」
早苗が私の名前を呼び手招きした。
エリカから守ってくれようとしている。
直ぐに分かり駆け寄った。
「すごい人だったおかげで助かったわね。」
「はい。 …星准。」
「ん?」
「行って来て良いかな?」
「当たり前だろ(笑)お前が居ないと話し合いにならないだろ。店はこのまま閉めるから良いよ。」
「ごめんね…。」
いよいよ
決着をつける時が来た。
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