第24話 尋ね人
《現在》
「次の日さ、また朝から学校に来て『実は無断欠勤だったから今さら学校に戻れない。』とか言いやがって、しょうがないからその日の放課後に、一緒に頭下げに行ったんだよ。」
「
「病気で休んでる事にしてくれてたみたいで。明日からちゃんと来てくれるなら教育委員会にも報告しないであげるって言ってくれて、戻れたよ。一回でも無断欠勤したら教育委員会に報告するからって言われてたから流石に行くんじゃないかな。」
「そっか。なら良かった。」
「やってなかった仕事が山積みになってたみたいでさ。復帰してからはずっと残業だってLINEで言ってるよ。」
「教師って大変そうだもんね。」
「杏実には、何から説明したら良いのか…時間も無かったし…ごめんね。」
「謝らなくて良いよ。悠紫くんの事だから、私の為にそうしてくれてたんでしょ?」
悠紫が少し照れた様な顔をした。
「私、悠紫くんのそんなトコも大好きだよ。」
悠紫が耐えきれなくなって、恥ずかしそうに笑った。
この先、何があっても絶対に大丈夫だと思えた。
悠紫の笑顔はいつも安心をくれる。
「アイツ、俺たちが付き合っていて同棲もしている事は、なかなか受け入れようとしないんだ。ちゃんと話し合って理解させないとこの問題は無くならないよ。」
「世界デビューに向けて、何とか解決しないといけないね。」
「このままでは前には進めない。誰かに入って貰って正式に話し合いしないと。」
「そうだね…。近い内に誰かにお願いしよう。」
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漆黒の遮光カーテンを開けて、ベッドの上に座り月を眺めていた。
満月の光が、全裸の私たちを明るく照らしている。
「悠紫くん、月から生まれたみたい。」
「どうゆうこと?(笑)」
「太陽には反応しないのに、月には反応するんだもん。」
「杏実ってやっぱり感性が豊なんだね。」
悠紫が私の体に抱きつき、右肩に頬を置いた。
そのままの姿勢で月を一緒に見上げる。
愛おしさで胸が痛い。
「私たち…。」
「うん。」
「特別な事は何も望んでないのに、ただ愛し合いたいだけなのに。それすら許してもらえないの...?」
「俺たち2人が、変わらなければ大丈夫だよ。俺はずっと杏実を愛してるよ。」
「私も、愛してる。」
全裸のまま抱き合い、キスをしながら眠った。
目が覚めるたびに抱きつく悠紫が切なかった。
私の犯した罪への償いは、離れず側にいてあげる事で出来るかもしれない。
いけないね…。
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「じゃあ、行ってくるね。」
声を掛けて家を出ようとすると、悠紫が嫌そうな顔をした。
いつもなら明るく『いってらっしゃい』を言ってくれるのに、言ってくれない。
「何か言いたそうだけど、どうしたの?」
「なんも無い。」
「そうは見えないよ?何か気にしてる?」
「う〜ん。」
「エリカちゃん?」
悠紫が無言で首を振った。
「星、准?」
「………。」
黙って見つめ合ってしまった。
「な、わけ無いじゃん!いってらっしゃい!」
「じゃ、また帰りに公園で遊んで来るね?」
「それはダメ!!」
大きな声に、驚いてしまった。
ずっとずっとクールな人だと思っていたけど、
違うのかもしれない。
言ってはいけない冗談だったと、後悔した。
「ごめんね…。大丈夫?」
「うん。」
「どうしたの?」
「分かんない…。」
「仕事…休もうか?」
「それも、ダメ。ごめん、気にしないで。いってらっしゃい。」
「じゃあ、いってきます。」
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家を出たものの、後ろ髪を引かれる思いと嬉しい気持ちで揺れていた。
やっぱり休んだ方が良かったかな。
引き返そうかと思った時、悠紫からLINEが来た。
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【LINE】
悠紫:さっきはごめん
悠紫:杏実を信じてない訳ではないんだよ
杏実:わかってるよ
:私、悠紫くんしか見てないの知ってる?
悠紫:知ってる
杏実:終わったらすぐ帰るから
:心配しないで
悠紫:うん
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「おはよう。今日は早かったんだ。」
「おはよ。最近は早く来てる方じゃん?」
「そうだね(笑)」
「帰って来なかった理由は聞けたのか?」
「凄い話しばかりで頭パンクしそうだよ。」
「そうか。まぁ、解決したなら良いや。」
「うん。ありがとね。 エリカちゃん、無断欠勤して悠紫くんの所に行ってたみたい。」
「そうだったんだ。悠紫くんも大変だったんだな。」
「今は職場復帰してるみたいだね。ホントの所、どうなってるか分かんないけどね(苦笑)」
「警戒はしておこう。」
「うん。」
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《星准side》
杏実が想い続けていた男が、今更になって現れるなんて…正直思って無かった。
ましてや上手く行くなんてさ、もっとあり得ねぇだろ。
普通こうゆうのってケチがついて、
やっぱり違うな。
とかって、なったりしないの?
杏実をここに置いてたら、俺が辛いだけなんだよな…。
アイツが配達から帰って来たら、話してみようか…。
いや、まだ、いいか…。
――カランコロンカラン♪
「いらっしゃいませぇ。」
初めて見る客だ。
キャリアウーマンといった感じで、品のある中年の女性。
この時間には珍しいな…。
「あのう、お尋ねしたいんですが。」
「はい!何かお探しですか?」
「ここの…
「あの....失礼ですが何かの間違いじゃないですか?そんな従業員はここには居ません。」
「あら、そうなのね。ごめんなさい。でも、まあ、せっかくだから…、少し店内を拝見させて頂きますね。」
その女性は店内をゆっくり歩き出した。
レコードコーナーで足を止め、レコードを物色しながら、明らかに俺に向かって話を始めた。
「買い物客の独り言だと思って聞いてちょうだいね。少し前、会社に20代半ばのメガネをかけたキレイな子が怒鳴り込んで来たのよ。」
え?えっ?
「それはそれは恐ろしい顔をしてたわ。柊杏実を出せ、私の男を奪ったと受付で騒いでね。そんなだから、男を取られちゃうんじゃ無いのよね!(笑)ふふふっ(笑)」
俺もそれは同意だわ。
「会社を辞めてから何の連絡もないのよ、あの子。あの女は、杏実を犯罪者にしようとした過去がある。危険だから、あの女が見つける前に会いたいのよね....。どこに居るのかしら...。」
その女性はシンディー・ローパーのレコードを手に取るとレジに向かった。
「これ頂くわ。子どもの頃好きだったのよね(笑)なかなか良いお店ですね。」
「ありがとうございます。」
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悩んだが心配していそうな雰囲気に、賭ける事にした。
店を出て行く浦沢早苗という人を、追いかけ声をかけた。
「あの!」
浦沢早苗が立ち止まり振り返った。
希望が差した表情をしている。
「アイツは訳があって、過去を断ち切っていました。もしかしたら…あなたにも会いたく無いかもしれない。もし、そうだとしても許してやって下さい。」
「あなた、とても良いオーナーさんね。安心したわ。名刺を渡しておきます。あの子に委ねて下さい。ただ、危険が迫っているかもしれない。私としては何としてでも会いたいわ。」
「そう、伝えておきます。」
「それからもう一つ。『あなたは私の1番可愛い部下だった。』そう伝えて頂けるかしら。」
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《杏実side》
軽トラから降りる時も、店に入る時もキョロキョロと見渡し、エリカが居ない事を確認してしまう。
早く解決しなくちゃ…。
――カランコロンカラン♪
「ただいまぁ。」
「さっき、ホントについさっきにさ、お前の上司だったって浦沢早苗って人が来たぞ。」
「え!?なんで!?何でここだって分かったんだろう!?」
「さぁな。エリカが会社に乗り込んだらしい、お前を探しに。だから心配して来たみたいだよ。」
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自分では電話し辛くて、星准に頼んだ。
早苗は会えるかもしれないからと、近くのスタバで待機してくれていた。
迷いなど無い。
星准にお店の事を頼み直ぐに向かった。
そのスタバは休憩中によく行く店舗だった。
早苗は外のテラス席に座っていた。
懐かしい顔に泣きそうになる。
相変わらずカッコいい。
私の憧れの上司がすぐそこに居た。
「早苗さん!(泣)」
「もう!あなたって子は!どれだけ心配させたら気が済むの!」
「ごめんなさい!(泣)」
「会ってくれたし、元気そうだから許すわ。」
そう言うと立ち上がり、抱きしめてくれた。
「アイス?ホット?買ってくるから座ってなさい。」
私は早苗に甘えてホットを頼み、席についた。
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