第23話 大切な人を守るために
「そう!それがさ!
「ああ、知ってる。俺んトコに来てたから。」
「そうなんだ!?大丈夫だった?」
「まあ…、一筋縄では行かないよ。」
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《悠紫side》
【1週間前】
事務所に、出来上がったばかりの2曲を提出した、反応はかなり良い。
でも、少しだけ編曲する様に言われてしまって、スタジオに篭った。
夕方にOKが出て、そのまま練習。
これがまた時間が掛かるんだ。
納得行くまでやりたいから。
途中手の疲れを感じて、マッサージを受けた。
手を休めている時、杏実に電話をかけるとカレーを作ってると言った…。
元々、結婚願望も憧れも無かったけど
杏実と再会してから、価値観が変わってしまったかもしれない。
好きな人が俺のために、ご飯を作って待ってくれるってなんかいいな。
早く帰りたくなるって、初めての感覚。
事務所が夕食を用意してくれたけど、ほとんど手を付けないで、帰ってから杏実の作ったカレーを食べた。
杏実の寝顔をちょっとだけ触って、自分の部屋で寝た。
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翌日
大学ので個室の鍵を開けて入ろうとした時、友達の
「おぅ、おはよ。どうした?そんな顔して(苦笑)」
「ここ最近ずっと、
「ずっと?」
「うん…。」
「どんな風だった?変なこと言ってたりしてない?」
「特に話をする訳ではないんだけど、しばらく居座るんだよ。最近来てないし来る予定もないからって、説明してもダメでさ…。もしかしてあの日以来揉めてんのか?」
「揉めてるって言うかさ。何度断ってもダメなんだよ。」
「それはエリカちゃんの在学中からそうだったじゃん。」
「今付き合ってる人の事が前から気に食わなくて、ずっと文句言われててさ。」
「もしかして、凄い泣いてた人?」
「あぁ…うん…。」
「気に食わないったってその人と付き合ってんだったらさ、筋合い無いよな。それに悠紫がその人を好きなのは学校でも有名だったからなぁ。それが理解できないのは異常だな。」
「おはようございます!」
晃は背後からの声に、ビクリと体を跳ねらせた。
2人とも瞬時にその声の主が、エリカだとわかった。
嫌に甲高い声と、いつもよりキツイ香水の匂い。
化粧も明らかに濃い。
晃から聞いた『ずっと来ている』という言葉。
コイツは…
――正気ではない
俺と晃は、見つめ合って固まってしまった。
「おはようございます!どうしたんですか?2人して難しい顔しちゃって!何かあったんですか?(笑)」
エリカは満面の笑みで、俺たちの顔を見比べた。
晃はエリカの方を向けない様だった。
「お前…、仕事は?」
エリカの固まった笑顔が、一瞬で真顔になった。
この反応は流石に怖い…。
「し、仕事?…最近休んでる。」
「生徒のこと可愛く無いのか?無責任だろ。」
「可愛くないわけじゃないんだけど、悠紫さんの事が好き過ぎて仕事が手に付かないの。」
「じゃあ、そんなに好きなら…、俺が作った曲で好きなのを3つ答えろ。理由も言えよ。」
「えっ…。」
「10秒以内で。 はい!10!!」
「えっと、えっと!」
「9!」
「そんな。」
「8!」
「………。」
エリカは両手で頭を抱え、足踏みしながら慌てた様子で考えていた。
白々しい演技だな。
きっと1曲も出ないだろう。
「7!」
「う〜ん。」
「6!」
「全部好きだから、難しいよ!」
「5!」
「題名ちゃんと覚えてなくて…。」
「4!」
「あれよ!あれ!」
「3!」
「Tomorrowなんとかってやつ!」
「2!」
「アップテンポで元気になるから好き!」
「1!」
「…………。」
「0! はいお疲れ! 仕事行け。」
言い捨てると振り返り、晃の腕を掴んで歩き出してしまった。
とにかく、一旦逃げよう。
俺たちの背中に向かって、エリカが叫んでいる。
「悠紫さん!ひどいよ!」
どっちが酷いんだ。
笑わせんな。
「あの曲ってアップテンポだったっけ?」
「全然違うよ。ヒーリング曲なんだから。」
杏実の為に作った大切な曲を…。
ふざけやがって。
「悠紫さん!!ちゃんと話そうよ!いつも怒ってばかりで話にならないんだから!逃げてばっかりじゃない!」
頭痛ぇ。
立ち止まり晃の腕を離した。
「悪い。アイツと話すわ。」
「俺、今日は遅くまで居るから何かあったら連絡して。」
「ありがと。」
・
・
・
「よし、分かった。ちゃんと話そう。」
廊下で話していたら人の目が気になる。
仕方がないから、個室に入れた。
ストッパーを使って、ドアは少し開けておいた。
「とりあえず仕事は行けよ。俺、無責任な奴が大っ嫌いなんだよ。ちゃんとやる事やったら、会って話も聞いてやる。」
「私と付き合うか考えてくれる?」
「それは無理だ。いま、杏実と付き合ってる。一緒に暮らしてるし。」
「そんなのヤだぁ!私と付き合ってよー!!」
「もう、杏実と付き合ってんだよ。4年前からずっと好きだった人なんだよ。お前のせいで3年も会えなくて...もう、離れたくないんだ。お前の気持ちはわかったけど、俺たちは何があっても別れない。頼むから理解してくれ。」
「私、何するか分からないよ?どうなっても知らないよ?」
「お前…、俺も脅すのか。お前が不利なだけなんだぞ?分かってるのか?」
「拒絶しないでよ。突き離さないでよ。毎日会っていれば、私を好きになる可能性はあるでしょ?」
何言ってんだコイツ。
学生の時、毎日会ってただろ。
「とりあえずやるべき事はやれよ。話はそれからだ。」
「わかった。だけど、私のお願いも聞いてよ。」
「なんだ。」
「着信拒否してるよね?LINEもブロックしてるでしょ?解除して!それから...明日から学校に行くから、今日は側に居させて。」
このままコイツを彷徨わせたら、杏実に辿り着くかもしれない。
どこに居るか分からないより、分かっていた方が安心できて良い。
杏実の為に、コイツの要求をある程度は飲むしかないだろう。
「今、やらなきゃいけない事が山ほどあるんだ。まずは修論を片付けたい。邪魔したら追い返すぞ。わかったか。」
「わかった…。」
エリカの着信拒否やブロックを解除するついでに、杏実にご飯は要らないとLINEをしておいた。
その後、個室で修論に取り掛かったが
その様子をエリカが座ってじっと見ていて、ストレスで気が狂いそうだった…。
夕方になり、この状況と香水の匂いに、耐えられなくなってしまった。
エリカを強引にタクシーに乗せて、家まで送った。
エリカを家の前で降ろし、俺はそのままタクシーを降りず事務所に向かった。
事務所で修論を少しだけ進めて、その後にレコーディング…。
どれも中途半端で、修論も終わらないしレコーディングも進まない。
もう、1人ではどうしようも無くて、事務所に全てを話した。
俺をデビューさせてくれた、総合プロデューサーに、このままではエリカに家がバレてしまうのではないかと言われた。
それを回避する為に、一々家に送って行っていたら時間がいくらあっても足りないとも。
そこでしばらく、事務所に泊まる事になった。
夜中に事務所の車に乗り込み、急いで着替えを取りに帰った。
杏実に説明をしている時間は無い。
全てはエリカから杏実を守るため。
杏実には申し訳ないが仕方がない。
こんな事で怒る人では無い。
後でいくらでも罪滅ぼしはするつもりだ。
たった2曲のレコーディングと修論を終わらせ、エリカの状態も何とか落ち着かせて、家に帰る事が出来た。
まさか、1週間も掛かってしまうとは
思ってもみなかった。
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