第22話 悠紫の本心
「楽しそうだね。」
声をかけられて振り返ると、悠紫が居た。
「悠紫くんっ。」
「俺も混ぜてよ。」
「どうしたの?ってかどうしてたの!?(苦笑)」
「ごめんね。やっと区切りが付いてさ。一緒に帰れる?」
「え一!迎えに来てくれたの?」
「うん(笑)」
「え〜嬉しいなぁ。ふふふっ。へへっ(笑)」
「お前ぇ!デレデレすんなよーっ!!気持ち悪りぃなぁ!」
星准の顔が引きつっている。
星准には一度も見せた事の無い『デレデレした気持ち悪りぃ顔』をしている。
という事は、自分でも分かる。
「だって...嬉しいんだもん...しょうがないじゃん。へへ(笑)」
「お前にそんな顔が出来るだなんて、知らなかったよ(笑)」
「誰がいつも仏頂面だよ!」
「そんな事は言ってねーだろ!(笑)あ!そうだ!喉乾いたから水買って来てくれよ!」
「何で?一緒に行けば良いじゃん!」
「悠紫くんも飲みたいよね?」
悠紫は一瞬、戸惑う様な顔をしたが直ぐに賛同した。
「あ、はい…。 杏実、買って来て。」
「悠紫くんまで、何なの?」
「あれだぞ、そこの自販機は水は無いから、そのコンビニでな!」
「何なんだよ…。わかったよ。行ってきたら良いんでしょ!」
私が居なくなれば、星准と悠紫は2人きり。
何か企みが…?
ごねていても仕方がない。
素直に従う事にした。
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――――――――――――――――――――
《悠紫side》
杏実に見えない様に、星准さんが俺にウインクをした。
調子を合わせろ、という事だ。
「ったくぅ。何なんだよぉ。」
杏実が文句を言いながら、直ぐそこのコンビニに向かった。
「あはは!言ってる、言ってる。」
星准さんが杏実の後ろ姿を見ながら笑った。
杏実がコンビニに入るのを見届けると、こちらを向いて話し始めた。
「しばらく会えなかったんだって?」
「色々とやる事があったので。」
「アイツ寂しそうだったよ。」
「………。」
「また、寂しそうにしてたら、次は遠慮なく奪っちゃうよ。」
「絶対にそんな事、させませんよ。」
「あんな顔されてたら…いつまで経っても諦めらめきれないだろ。…面倒くさい事言ってもさ、アイツの一部なんだからとことん付き合ってやってよ。」
「今日、全部話しますから。大丈夫です。」
「そう?なら良いけど。」
コンビニの中を見ると、杏実がレジで会計をしている。
星准さんもその様子を見ていた。
どんな気持ちで見ているんだろう。
杏実は、この状況をどう思っているんだろう。
「はい!どうぞ!買って来ましたよ!」
「お、サンキュー。じゃ、お疲れ。」
星准さんは水を受け取り、杏実の肩を叩いて帰って行った。
「もしかして、何か言われた?」
「寂しそうにしてたよって。」
「やっぱり。お節介だったか(笑)」
違う。
お節介じゃない。
あれは、宣戦布告だ。
「悠紫くんご飯食べた?」
「食べてない。」
「じゃあ、何か食べて帰ろうよ。」
「早く2人になりたいから何か買って家で食べよ。」
「ふふふ(笑)」
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・
結局、ピザのデリバリーにした。
久々に食べると美味いもんだな。
「分かんない!ちょっと本当に分かんない!情報量多過ぎ!」
「うるさいなぁ(笑)」
「だってさぁ!何から触れたら良いのっ!?」
「ちょっと落ち着けよ(笑)」
「落ち着けるはずないでしょ!?」
「マジでうるさい(笑)」
「私を引き抜いて悠紫くんのチームに入れるって? で、2枚目のCDを出して全国ツアーがあってそれが成功したら世界デビュー!?はぁぁ?ごほっごほっ。」
杏実は、捲し立て騒いだ。
想像よりちょっと上を行く、大きなリアクションだった。
「大丈夫か?(笑)」
「そうゆうのちょっとずつ小出しにして教えてくんない?色んな意味で理解できないよ。」
「今まで黙っててごめん。修論もまとまったし、2枚目のアルバムリリースは決定だからそれ以降の事を一緒に創って欲しいんだ。広告代理店で働いてた実績があるだろ?絶対に活かせる仕事だと思うんだ。杏実がいてくれたら…助かるんだけどな。」
「だったら尚更相談して欲しかったなぁ。」
「ごめんね。キツかったよね(苦笑)」
「何をしてるのかが分からないってキツイよ(苦笑)」
「ごめん。」
「でも、まずは修論と2枚目のアルバムおめでとう。」
「うん、ありがとう。」
「引き抜きの件は…どうかな…。」
「なんで?もちろん、お店に新しい人が来てからだよ?」
「それは、そうだろうけど…。」
「星准さんと…離れたくないの?」
「そういう事じゃないよ(苦笑)」
喜んでくれると思ったのに…。
今、何を考えてるんだろう。
どうしようもなく、イライラする。
星准さんの、杏実を見る目もムカつく。
この感情。
昔、似た感情を味わった事がある。
高校1年の夏休み、ジュリアードの短期カリキュラムに参加したときに出会った
中国から参加していた、同じ歳の男の子に感じた感情。
俺よりも表現方法もテクニックも上手い。
何でそんなに上手いんだ…。
認めざるを得ない程、格上だった。
泣きそうになる位に、悔しくてムカついた。
それ以来感じた事の無かった感情。
なぜ杏実は分からないのだろう。
自分の事が好きだと言う男と一緒に居る事を、俺が何も思わないとでも思っているのか。
それは、俺の事…
買いかぶり過ぎだよ。
「事務所の俺のチームって少ない人数でやってるんだ。だから2枚目のアルバムが出てツアーも決まったら忙しくなるし。とにかく人が必要だからさ。」
「それこそ私じゃなくても、専門的な事のわかる人を入れた方が良いんじゃないの?」
「なんで分かんないんだよ!杏実に側にいて欲しいんだよ。」
「それってさ…どうなの?(苦笑)他の人は嫌じゃないかなぁ。アーティストの関係者と働くってさ…。」
「ただ居てもらうんじゃないんだよ?杏実は戦力になると思ってるから正式に引き抜くんだ。しっかり働いてもらうんだからさ。」
「私なんて…」
「嫌なんだよ!」
思わず口をついて出てしまった。
杏実が驚いている。
もう、素直に話すしか無さそうだ…。
「あの人と…毎日2人きりでいる事が嫌なんだよ。あの人じゃなくて、俺の側に居てよ。」
「え?嫌だったの?私が…星准と居る事…。」
「当たり前だろ。バカかよ。」
嬉しそうな顔しやがって。
ムカつく。
「何もないし、この先も無いよ?」
「そんな問題じゃ無いんだよ!!」
あぁ!
ムカつくなぁ!
杏実にも自分にも腹が立つ!
自分がこんなにも嫉妬深い人間だったとは。
杏実を好きになってから、気付かされる事ばかりだ。
「ごめん。」
「とにかく、今色々進み始めたし杏実も協力してよ。」
「協力はするよ。もちろん。」
「これからの事に専念する為には、色んな事を解決しないと。それも事務所に相談してて帰って来れなかった。」
「エリカちゃんの事?」
「決着つけないとな。」
「そう!それがさ!星准がエリカちゃんの勤める学校に行ったとき、無断欠勤してるって言ってたよ!」
「ああ、知ってる。俺んトコに来てたから。」
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