第13話 第三者の助言

「なんだよ(笑)これはデジャブかな?」




仕事が終わって店を出たのは良いが、私には友達がいない。

両親も早くにこの世に居ない。


私のお願い事を聞いてくれるのは…


星准せいじゅんだけ。



1人で行動するのはやっぱり怖くて

駅で星准を待つ事にした。


星准はまた私を見つけてくれた。




「今日は泣いてないしっ。」


「あははは!確かに。で?待ち伏せなんかしてどうした。話があるんだな。」


「何でもお見通しなんだね。」


「そうだよ。杏実の事なら何でもわかる。」


「星准に全部話そうと思って…。聞いてくれる?」


「俺ん家来るか?」


「お家には行けない…。違うトコでも良い?」


「じゃ、個室のある飯屋だな。」




――――――――――――――――――――


「で?聞いて欲しい話とはなんだ。」


「うん。」


悠紫ゆうしくんの事か?」


「は?なんで?なんで、悠紫くんの話ってわかるのっっ!!?」


「お前たち、店で抱き合ってたもんな(笑)」


「かぁぁ!なんだぁ見ちゃったの??(恥)」


「あの店ガラス張りなの知ってっか?(笑)」


「あ?外から見えた?(苦笑)」


「バッチリ!!(笑)」


「はぁ…。恥ずかしい…。」


「で?いつからだよ。前の男はもう良いのかよ。」


「前の男!?そっか、そうだよね。そこまでは分からないよね(笑)あはは!」


「なんだよ。何の話しだ。」


「その、私には忘れられない前の男が居るでしょ?」


「うん、何度も聞いたよ。」


「その人がね、悠紫くんなんだよ。」


「は??はぁ??そ、その男が悠紫くん??」


「悠紫くんを面接した日の事覚えてる?私たち変だったでしょ?(苦笑)」


「あぁ!確かに!!変だった!そうだよ。お前何かしたんだと思ったもん!なんだよ、そうゆう事!??」


「私が何すんのよ(苦笑)あの時、3年ぶりに再会して…。あのまま逃げればまた会わない日々に戻ると思ったのに。バイトで来る事になるなんて夢にも思わなかったな…。」


「それは、それだけ…あっちも…お前がまだ好きだったって事…だったんだろうなぁ。あぁあ!!!」


「何!?急におっきな声出さないでよ!こわいぃ!」


「お前、早く言えよ!俺、変な話ししちまったじゃねーか!」


「何の話し!?」


「あぁ!ったくよぉ。 はぁ…。もう良いや…。」


「だい、じょうぶ?」


「何もない。」


「でね?再会してから…ちょっと話が複雑になってて…。恐れていた事が…起きるかもしれなくて…。」


「詳しく話せよ。」




「それ、『脅迫』っていう立派な犯罪なの知ってるか?そんなくだらない脅迫になんで屈したんだよ。」


「本当に、悠紫くんに危害を加えそうで怖かったんだもん。私が居なくなって上手く行くならそれで良いと思ったし…。」


「はぁ。もう責めても仕方ないけどさ。ただ、そのエリカって奴がお前に辿り着くのは時間の問題だと思うぞ。だったらお前から会いに行ってみたらどうだ?」


「そんなの怖くて出来ないよ。」


「小娘に負けてんなよ!逃げるだけが防御じゃないんだぞ。攻撃こそ防御になる事もある。1人で行けとは言ってないだろ。」


「星准ついて来てくれるの?」


星准が静かに首を横に振った。


「男じゃダメだ。女の人が良いよ。誰か居ないのか?」


「友達とか…全く連絡とってなくて…。ちょっと考えてみる。」


「明日は臨時で店休むから、悠紫くんと話し合いな。」


「ありがとう…。」


「じゃ、行こうか。ホテルまで送れば良いんだろ。」


「自由が丘の駅まで良い?」


「自由が丘って!?もしかして。お前…悠紫くん…と…?」


「うん…。一緒に住んでる…。」


「そう、なんだ…。」



・ 


――――――――――――――――――――

【悠紫side】



「で、どんな話し?」


「エリカちゃんが泣きながら電話してきたのよ。あなたと付き合ってたのに、おばさんに奪われたって。」


「口の上手い年上の女にそそのかされてるんじゃないのか?どんな下心があるか分かったもんじゃないぞ。悠紫はエリカちゃんと一緒になるのが一番良いと思っているんだけどな。」


「絶対にない。それは絶対に嫌だよ。」


「どうしてだ?両家にとってこんな良い話は無いんだ。あんなに可愛い子がお前を好きなんだよ?なのにひどい事を…。可哀想だと思わないのかい?」


「父さんはそんなに…親友とその娘の幸せの方が大事?そのせいで、俺は不幸でも良いんだね?」


「そんな事ある訳無いでしょう?お父さんもあなたの幸せが一番大事に決まってるじゃない。そうでしょ?お父さん。」


「当たり前だ!悠紫が幸せである事が大前提に決まっている。」


「俺、エリカとは付き合ってない。付き合った事なんて一度もないんだよ。」


「えぇ?」

「なんだって?」


「エリカの嘘に騙されないで。」


「嘘?」


「4年前好きな人が出来て、1年くらい一緒に居たんだけど急に姿を消してしまって…。だけど最近再会出来たんだ。いま、ここで一緒に暮らしてる。」


「なんだって?お前、騙されているんじゃないのか!?お前が誰なのかを知っているから近付いているだけじゃ無いのか!?」


「それは絶対にない!あの人は俺が誰の息子かなんて知らないよ。それを言うならエリカの方だ。俺の何を見て好きだと言っているか…。アイツは俺の一番大事な音楽に全く興味が無いんだから。」


両親の表情が

『怒り』から『困惑』に変わった。



「だけど、あの人は違う。俺の音楽を心から愛してくれてる。4年前…今思えば大した事では無かったけど、挫折を味わって荒れてただろ?そんな地獄の淵から救ってくれたのが彼女なんだ。」


「そうね、確か4年前…。辛そうだったわ。音楽を辞めてしまうんじゃ無いかと心配だった。ピアノも触らなくなって…。お母さん…悠紫の音楽が大好きだし信じていたから…。辞めて欲しくは無かった。それが、そうよ!(笑)あなた急に明るくなって!『ピアノが楽しい』って笑ったわね!」


母親が嬉しそうな顔をした。

俺も嬉しくなった。


「そんな風にしてくれたのがその人なの?」


「そうだよ。彼女のおかげで音楽を辞めないで済んだんだ。だからこうして音楽で生きていられてる。彼女は俺の音楽の指針の様な人だよ。なのに…急に居なくなったんだ。3年間地獄だった。」


「休学したのはそのせいなの?」


「うん…。だってさ…会社も辞めて、家ももぬけの殻、携帯も繋がらなくなって。死んだと思った。思いたかった…。辛すぎてニューヨークに行ったんだ。音楽を続けていれば有名になれば、どこかで聞いてくれると思ったから。有名になれば連絡をくれるかもしれないと思った。だから続けてこれたんだ。」


父親が難しい顔をしている。

母親は…今にも泣きそうだ。


「最近再会して、消えた理由にエリカが絡んでる事を知った。何があったのかは話してくれないけど。だけど絶対にエリカのせいで傷付いてる。そんな卑怯なマネをするエリカと俺を結婚させたい!?」


母親はとうとう泣いてしまった。


「お父さん、悠紫の話し詳しく聞きましょう?私たちが見ている物はもしかしたら間違っているかもしれませんよ?」


「そうだな…。子どもの話しも聞けない人間が従業員の話しを聞いてやれる経営者で居られるはずはない…。うむ…。 悠紫、たまには酒でもどうだ。母さんに食べたい物でも作って貰いなさい(笑)」


「えぇ。作るわよ?(笑)」


「ありがとう(笑)」




「その楽器屋はもう行かない方が良いんじゃないか?」


「やっぱり、そうだよね。」


「もし、お前の後でもつけたら直ぐに見つかってしまうぞ。エリカちゃんの勤める学校が使っているともなれば…。彼女も辞めさせた方が良いんじゃないか?」


「そんな事したら店が困るよ。彼女も生活費の為には働きたいだろうし。」


「しばらくの間、うちの従業員を派遣すれば良い。生活費も私のポケットマネーで何とでもなるだろ。たかが知れておる。」


「父さん達に世話にならないのを条件に好きな事をやらせて貰ってるのにさ。」


「条件とは何だ。悠紫が勝手に定めただけだろう?(笑)子どもが困っている時に手を差し伸べない親がどこにいる。こんな時は頼ってくれ。使える親が居て良かったと思っていれば良いんだ。」


「ありがとう。でも、少し考えてみるよ。」


「うむ。あとは…。私の知り合いの経営者に見合いを希望する跡取りが居ないか調べてみよう。悠紫が会社を継がない事もチャンスがあれば話してみるよ。お前が言う様に玉の輿に乗るのが目的なら諦めて見合いをするだろう。」


「うん、お願いします。」


「それから、今度エリカちゃんに会った時は怒らせない様にしなさい。話の通じない相手の様だからな。仲良くする必要は無いが拒絶だけはしないでおきなさい。気持ちを伝えつつ拒絶だけはしない。じゃないと何をするか分からんよ。」


「そうだね。そうするよ。」


「今度、その人を連れて来なさい。悠紫を救ったというその人に会ってみたいよ(笑)」


「父さん、いつも忙しくて時間ないじゃん。いつになるかな…。」



――――――――――――――――――――

「もしもし?」


「もしもし…。話は終わったの?」


「うん。久しぶりに…一緒に酒飲んだよ。」


「そっか。良かったね(笑)」


「寂しい想いさせてごめん。」


「悠紫くんは何も悪くないよ。」


「………………。」


「さっきね、星准に全部話したんだ…。」


「えっ…。そう、なんだ。」


「明日お店、お休みにしてくれるって。明日の朝、迎えに来てくれる?」


「うん。当たり前だろ。」


「へへ(苦笑)じゃ、明日ね…。おやすみ。」


「うん。おやすみ。」




「はぁ…。」


杏実が今、どんな思いで1人でホテルに居るのか。

可哀想で胸が痛い。


「あ…。」


そうだよ。

朝まで待つ必要がどこにある?


スマホと財布だけを持って部屋を出た。

キッチンで片付けをしてくれている母親に声をかけた。


「ちょっと、出るから。気にしないで寝てて。」


「わかった。気をつけなさいよ。」


「うん。」



――――――――――――――――――――

駅前のビジネスホテル

202号室


どんな顔して喜ぶだろう。



――ピーンポーン…


「俺だよ。開けて。」


――カチャ



「会いたかっただろ(笑)」


「うっ。来るの、遅いよぉ!!うぅ。」


「ど、どうしたんだよ。とりあえず、中に入れて。」



今まで見た事もない苦しそうな顔で泣いている。

泣くのは何回も見た、それこそ毎日と言っても良い程に。

だけどそれは、笑ってしまう位に見ていて嬉しい涙だった。


いま、目の前にいる杏実は

全身から苦しみを追い出すかの様に泣いている。

ベッドに座らせ肩を抱くと小刻みにありえない程に震えている。



「どうしたんだよ。何かあったのか?」


「悠紫くん…、もう、いや。いやな、の。」


「何が?何が嫌なの?」


「ウソ、つきたくないっ。ひっ。もう!」


身体が傾き立て直すのに時間が掛かる程にキツく抱きしめられた。


「うっ、ちょっ、ちょっと何だよ(苦笑)」


「好きなの!悠紫くんが好きなんだよ!」


「知ってるよ。」


「もう!ウソつきたく無い!大好きなの!うわぁぁん!」


「わかった、わかったから。」



酒の匂いはしない。

素面しらふでこれは…。


魂の叫び…?



俺が何者なのかを知らないのに…。

実は知ってる?

いや、絶対にそれは無い。


俺の後ろにある物を見ずに、ただひたすらに俺だけを見ている。

真っ直ぐに俺を、俺だけを…。


心から愛されるとは、こんなにも尊いのか。



「杏実っ。…愛してるよ。」


「うぅ。愛、してる。はぁ。あぁ。」



愛する人に愛して貰える喜び。

初めて知ったよ…。


苦しみから救ってあげたい。

今すぐに。


愛を教えてくれた人。

俺の命よりも大切な人。


何が何でも守ってみせる。


すぐに、楽にしてあげるからね…。

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