第6話 杏実の本心
【悠紫side】
「大好きなんだよ…。」
「…………。」
「杏実さんは気持ち、変わっちゃったの?」
杏実さんが大好きだと俺の想いを伝えたのに、返って来た答えは欲しい物とは違った…。
「私、いま
「俺は変わらない。やっぱり杏実さんが好きだよ。」
「もう、やめよ? 3年も経ったんだよ?懐かしくて錯覚してるだけよ。悠紫くんにはエリカちゃんが居るじゃない。」
「は!?」
「本当はエリカちゃんと付き合ってるんでしょ?」
「付き合ってない。」
「どうして?あなた達…すごくお似合いなのに。」
「もしかして、エリカが絡んでるの?エリカと何かあったんだな!?」
「何も無いよ。考え過ぎだよ(笑)まだエリカちゃんと繋がりはあるんでしょ?」
「うん。だけ」
「なら!」
「なら、エリカちゃんと幸せになって。じゃあね。」
「待って!杏実さん待って!」
切られてしまった。
くそ!何なんだよ!!
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翌日の午前、
オーナーから電話があって夕方に来て欲しいと言われた。
「お疲れ様です。」
「あぁ、悠紫くん。悪いね。助かるよ。」
「いえ、大丈夫です。店長さんどうしたんですか?」
「吹奏楽部に配達を頼まれてね。女子高だから配達員は女性が良いってご指名が入るんだ。」
「あぁ、なるほど。そうなんですね。」
「俺も急にお客様に呼ばれてしまって…。こんな時は店を閉めちゃうんだけど、ピアノのパンフレットを取りに来るお客様が居るから閉められなくてさ。そのお客様が来たら悠紫くんの知識で色々教えて差し上げて欲しいんだ。その後は閉めちゃって良いから。直ぐ戻るから待ってて貰っていいかな?」
「分かりました。」
オーナーが出て行って直ぐ、そのお客様は来店した。
色々と教えると喜んでくれて、このお店で買うよと約束してくれた。
店のドアの鍵を閉めて電気を消した。
バックルームで待つことにした。
ここに杏実さんがオーナーと2人きりで居ると思うと気が狂いそうになった。
何をしてる?
ここで…。
こんなに嫉妬するなんて…。
くそっ!
じっとしていられなくてウロウロと歩き回っていた。
たくさんの書類が乗っている机の上に、見覚えのある手帳を発見した。
「これってさ…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『杏実さんの手帳!ボロボロすぎるだろ!?(笑)何これ?あははは!』
『私、貧乏性だからずーっと使っちゃうんだよね(笑)』
『これは、ひどすぎるって!(笑)』
――あはははは!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
替え時が分からないと言うから
新しいのを手に入れたら捨てられるだろ?
と俺がプレゼントした手帳。
まだ、使ってるんだ?
ってか、また忘れてんのかよ?
少しくらい…良いよな?
辺りをキョロキョロと見渡し、誰もいない事を確認した。
「杏実さん。ごめん。見るよ。」
1月を見る。
仕事の予定しか入っていない。
2月も仕事だけ。
よし、3月…。
――――――――――――――――――――
3月9日
今日は悠紫くんのbirthday
今年も祝う事が出来ない。
今年もまた一つだけショートケーキを買った。
悠紫くんが好きだったお店には
買いに行けないから
よく似たケーキを買った。
悠紫くんを祝える人が羨ましい。
3月23日
4年前の今日
初めて悠紫くんに出会った日
忘れ物をした事に初めて感謝してしまった日
だけど今、こんなに辛いなら
出会わなければ良かったな。
3月28日
悠紫くんのピアノの演奏を初めて見た日
疲れとか色んな事が吹っ飛んで
天国に居るみたいだった。
悠紫くんのピアノの音色は
世界を救うと思う。
あんなにカッコいい人は
後にも先にも悠紫くんしか知らない。
星准がこの手帳を
読んだりしない事を願う。
――――――――――――――――――――
「杏実さん……。」
4月もそのまま読み進めた。
――――――――――――――――――――
4月12日
桜が完全に散ってしまった。
悠紫くんを好きになったあの日
満開の桜がキレイだった。
あの、夢の様な日を私は忘れないだろう。
時間は薬のはずなのに毎日辛い。
今も変わらず悠紫くんの夢を見ては
泣いて目を覚ます。
悠紫くんに会いたい。
好きじゃなくなるってどうしたら良いの?
4月16日
悠紫くんが店に来た。
楽器屋さんだもん、いつかはこんな日が
来るかもしれないと思っていたけど…
ちゃんと謝れなかった事が悔やまれる。
だけど2度と会う事は無いだろう。
どうしようもなく会いたかった人なのに
繋ぎ止める事が出来なかった。
あの子との約束があるから
これで良いんだ…。
4月17日
悠紫くんがうちの店に
バイトで来る事になった。
私を困らせる為だと言った。
悠紫くんの気が済むのなら
どんな罰でも受けたいと思う。
嫌われていても良いから側に居たい。
今を知れた事だけでも幸せだけど…。
4月18日
悠紫くんが私を
まだ好きだと言ってくれた。
私も好きだと言いたかった。
自分の気持ちを口に出来ない事が
こんなにも辛いなんて。
私は神様に
どんな悪い事をしたのだろうか。
悠紫くんを好きだと言えたら
どんなに楽になるだろう。
悠紫くんの笑顔が見たい。
私にだけに見せてくれる笑顔が見たい。
そんな事は願ってはいけないのに…
――――――――――――――――――――
「うっ。う…。はぁ。」
読みながら涙が止まらなくなっていた。
杏実さん、ごめん…。
俺だけが辛いと思ってた。
やっぱり、杏実さんを救えるのは
俺しか居ない。
・
・
「お疲れ様!待たせたね。」
「いえ、大丈夫です。」
「もう閉めるから帰って貰って良いよ。」
「閉めるって。店長さんは?」
「少し遠い所だから直帰させるよ。」
「あぁそうなんですね…。あの、オーナー。」
「何?」
「つかぬ事をお聞きしますが…店長さんとお付き合いしてるんですか?」
「付き合ってる様に見えたのか(笑)まあ、悠紫くんに嘘をつく必要も無いし正直に言うと。付き合って無いよ。」
「付き合ってないんですか!?」
「うん。付き合ってない。3年前に、変な言い方だけどアイツを駅で拾ったんだ。」
杏実さんも同じ事を言ってたな…。
「駅で泣きじゃくるアイツを、道ゆく人は怖がって誰も助けなかった。だけど俺は…アイツが痛々しくて、でも…キラキラして見えて。そのキラキラしたものを拾って帰りたくなったんだ(笑)」
「…………。」
「子どもの頃、公園とかでさキラキラした物を見つけると嬉しく無かった?(笑)」
「はい。分かります。」
「拾って帰って宝箱に大事にしまったりしてさ!あははは!」
「………。」
「この店は俺にとって宝箱なんだ。この宝箱にアイツを大事にしまってる。だけどさ。そんな宝物も大きくなったら要らなくなって、捨てたりすんだよな…。」
オーナーは俯いて寂しそうな顔をした。
「アイツはいつか、手放してやらなきゃいけないと思ってるよ。」
「店長のこと、好きなんじゃ無いんですか。それなのに手放すんですか?」
「俺はずっと好きだけど、アイツは俺を好きにはならないよ。3年間ずーっとそれらしく伝えてんのに気付かないフリしてんだ。」
「気付かないフリ?ですか…。」
「泣いてた原因の男の事が忘れられないんだ。痛々しいよ…。」
「…………。」
「可哀想で愛おしい。そいつが…羨ましいよ。」
辛そうな表情をするオーナーに掛ける言葉が見つからなかった。
俺が何を言ったって嘘になる。
「いやぁ。変な話し聞かせちゃったね!アイツに話すなよ?(笑)」
「大丈夫です。話したりしません。」
「じゃあ!お疲れ!」
・
・
・
家の最寄駅に着いてから杏実さんに電話を掛けた。
出てくれないかと思ったけど出てくれた。
「もしもし?」
「お疲れ様。仕事終わった?」
「終わって家に居るけど何?」
「初めて待ち合わせた交番に来てよ。」
「何で?行きたくない。」
「来なかったら全部オーナーに話すよ。」
「どうして、そっとしといてくれないの?」
「杏実さんを困らせる為だけど? 早く来てね。」
「はぁ。分かった…。行くよ。」
「じゃあね!急ぎだからな!!」
杏実さん…
俺が救ってあげるからね。
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