第9話 ずっぱり

 続いて下の階に意識を向けようとする。

 その前に背後の隊員が困惑した声で報告してきた。


「隊長! 階段から男が……っ」


「お?」


 見れば血だらけのギャングが階段を上がってくるところだった。

 武器は持っておらず、ふらつきながらこちらに向かってくる。


 表情を消した俺は、ガスマスクを着けながら歩み寄った。


「銃を下ろせ」


 部下に指示をしてギャングの前に立つ。

 瀕死のギャングは泣きそうな顔で呻いた。


「た、助けてくれ……」


「どうした?」


「緑色の小柄な奴に、襲われたんだ。なんとか、撃退したが……下は壊滅寸前だ」


 位置関係から考えて、下の階は真っ先に攻撃を受けている。

 異世界に転移する時点で俺達が制圧していたので、フロアにいたのは重傷者や無力化したギャングばかりだったろう。

 つまりゴブリンの攻撃を前に為す術もなかったわけだ。

 撃退できただけでも上出来である。


「頼む。治療を、手伝って……くれ。敵同士なのは、分かっているが……」


「おー、そうかそうか。よく頑張ったな」


 俺は縋りついてきたギャングを抱き止めると、その胸にナイフを刺した。

 ギャングは信じられないとでも言いたげな顔になった。

 次第にその目から光が失われて、膝から崩れ落ちて動かなくなる。


 血の付着したナイフを持つ俺は、ギャングの死体の肩を叩いた。


「生憎と怪我人を助ける義理も余裕も無いんでな。ゆっくり寝てろよ」

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