オーダー4追加 朋美


 気が付くと、まっ白な天井が見えた。夕方かな、黄色っぽいお日様の気配がする。

 しばらくぼんやりしていた。どこだろ、ここ。早く帰って夕ご飯作らなくちゃ。諸くんがお腹を空かせて不機嫌になっちゃう。


 顔を左に向けると、水色のカーテン。顔を右に向けても水色のカーテン。少し頭を起こすと、自分が病院のベッドに寝ていることがわかった。


「日振さん。気が付かれましたか」


 足の方から声がして、女性の看護師さんが枕元にやって来た。


「先生の診察がありますから、ちょっと待っててくださいね」


「はあ」


 それ以上の説明はなにもなかった。しばらくして、お医者さんの話を聞いた。過換気症候群疑い。抗不安薬というものをもらって、診察室を出た。


「日振さん、大丈夫ですか」


 ロビーに行くと、小野さんがいた。


「大丈夫……なんでしょうか、私」


「お医者さんは、なんと?」


「明日また検査するから来てくださいって」


「じゃあ、今日は帰っていいんですね。どうしますか、このまま交番に行きますか」


「交番?」


「盗難届を出さないと」


「盗難?」


「家の荷物が全部ないのは、引っ越しじゃないでしょう。昨夜の男が盗んで行ったんじゃないですか」


「盗んだ?」


「それとも、本当に引っ越しですか?」


 なにを聞かれてるのかわからない。けど、いっこだけ大事なことはわかってる。


「引っ越さないです。だって、あの家が、あの家にしか諸くんの居場所はないんです」


 小野さんは、また困った顔をした。私はいつも小野さんを困らせてるなあ。今はこれ以上困らせないように、小野さんの言うとおりにした方がいいのかも。


「警察。どこにあるんでしょうか」


「ここからだと一度戻って、二丁目の交番に行くのが手っ取り早いと思います」


「じゃあ、帰らないと。帰らないと、駄目ですよね」


 諸くんがいない、あの家に。



 お巡りさんは親切だった。盗難届の書き方とか、被害に遭った品物の分類とか、詳しく教えてくれた。小野さんがトラックが来た時間とか、なにか特徴があったかとか、近所の人に聞いてきてくれた。うちにあったもの全部なくなってたから、書き上げるのにかなり時間がかかったけど、手を動かしている間は諸くんのことを考えなくていいから楽だった。


 諸くん、戻ってくるかな。


「家には帰らない方がいいでしょうねえ」


 お巡りさんが言った。


「合い鍵を持っているんだったら、戻ってくることも考えられますからね」


「諸くんが、戻って来てくれるんですか?」


 お巡りさんは変な顔して小野さんを見た。小野さんが私の肩に、ポンと手を置いた。


「日振さん。とりあえず、うちで夕飯を食べませんか。お腹が空いてるでしょう」


 そう言われて、昨夜からなにも食べていないことに気付いた。お腹が空き過ぎてちょっと痛い。


「彼女、かなりショックだったみたいだから、あなた、面倒見てあげてね」


 お巡りさんが言うと、小野さんが「はい」と答えた。


 晩御飯はコロッケだった。じゃがいもがトロッとしていて、お肉は少なめ。衣も薄くて食べやすい。胃もたれとかしなさそう。


「大変だったのね。今日はここに泊まったら?」


 小野さんのお姉さんっぽい人が言ったけど、私は首を横に振る。


「帰ります」


 おヒゲの人が心配そうに見てるけど、なんで皆心配してるんだろ。


「日振さん、布団はどうするんですか。家の中身、空っぽでしょう。それに、風呂釜もまだ直ってない」


 そうだった。諸くんが留守番しててくれなかったから、修理の人、帰っちゃったって言われたんだった。


「えっと、お風呂だけ借りていいですか」


 大人三人は顔を見合わせて変な表情をした。困ってるような、悲しそうな。


「お姉ちゃん、僕、一緒に泊まってあげようか」


「え?」


「一人で知らないおうちだと怖いもんね」


 どこかの保育園の制服を着た男の子は、すごくわくわくした顔してる。この子がここに泊まりたいのかな。なら、私もいた方がいいのかな。


「じゃあ、泊まってもいいですか」


「どうぞ、どうぞ」


 おヒゲの人が元気よく言った。

 男の子は島彦くんと名乗ってくれた。お母さんは鳥子さん。おひげの人は時也くんだったな。よし、覚えたぞ。


 お風呂から出て部屋に戻ると、皆でお茶を飲んでいた。鳥子さんが笑って聞いてくれる。


「朋美ちゃんも緑茶で良い?」


「あ、はい」


「お姉ちゃん、みかん食べる?」


「うん」


 丸いテーブルを回って島彦くんの隣に座る。時計回りに島彦くん、鳥子さん、時也くん、小野さん、私の順だ。時也くんと目が合うと、ぱっと目をそらされた。


「でもさ」


 鳥子さんがお湯呑みを渡してくれる。


「本当にひどい男だよね。いろいろ盗まれちゃったのは大変だけど、その男と縁が切れたなら良かったよ」


「縁……が切れた、ですか?」


「しばらくここから学校に通ったら? その方が安全でしょ」


「安全……、なにがですか?」


 小野さんが困った表情を私に向けた。


「日振さん。彼はあなたに暴力を振るった。金銭的なDV被害にもあってる。その上に盗難です。日振さんは危険な目に遭い続けてるんですよ」


 なにを言われてるのか、よくわからない。彼って諸くんのこと?


「諸くんは優しいです」


 鳥子さんが私の手をぎゅっと握った。


「いいよ、今は考えないで。とにかく何日か休もう。ここにいたらご飯作ってもらえるから、甘えてなよ」


「え、でも」


 島彦くんが私の袖口をつまんで引っ張る。


「お姉ちゃん、虎狼くんのご飯、全部美味しいんだよ。コロッケだけじゃないんだよ」


「日振さんは」


 時也くんが言いながら、ちらちらと視線を動かす。私と壁を見比べてるみたい。


「なにが好きですか」


「ご飯ですか?」


「そう」


「サンドイッチかな」


 島彦くんが両手を上げる。


「僕もサンドイッチ大好き!」


 好きなものが同じ、それだけでなんだか嬉しくて、島彦くんとハイタッチした。小野さんが時也くんに尋ねる。


「時也、サンドイッチは大丈夫か」


「うん」


「なら、明日の昼はサンドイッチにするか。日振さん、明日は学校は?」


「とくに行く必要はないです」


「じゃあ、家で食べましょう。パンは明日買いに行くから、鳥ねえの弁当は、おにぎらずだな」


 時也くんが疲れちゃったのか、テーブルに、ぺたっとおでこを付けた。


「なに、おにぎらずって」


「白米をパン代わりにしたサンドイッチみたいなやつ。海苔で挟んで握らない。だから、おにぎらず」


「ははは」


 時也くんが小さく笑うと、小野さんは嬉しそうに、にっこりした。


「小野さんは時也くんが大好きですね」


「えっ、いや……」


 小野さんがなぜか固まってしまった。島彦くんが嬉しそうにする。


「時也くんも虎狼くんのこと大好きなんだよ」


「へえ」


 小野さんは口だけ少し動くみたい。変な声を出す。


「や、ちょ……」


「時也くんは、お姉ちゃんのことも好きだよ。ね、時也くん」


「え!」


 時也くんも固まってしまって、二人仲良くフリーズ、フリーズ。


「そう言えばさ」


 鳥子さんがみかんを剥きながら小野さんの方を見る。


「食堂作戦、どうする。開店はどのくらいを予定していくの」


 小野さんが、さっと私から視線をそらしてから答えた。


「いや、だから……」


「食堂を開くんですか?」


 すごく楽しい話が始まった。でも、小野さんは首を横に振る。


「飲食店経営なんて無理ですよ。調理師免許もないし……」


「いりませんよ、調理師免許。飲食店を開くのって簡単ですよ」


 皆が不思議そうに私を見てる。


「食品衛生責任者っていう資格があったらいいんです。講習を受けて試験を受けたら取れるんです」


 鳥子さんが手を伸ばして、タンスに置いてあるメモ用紙とボールペンを取った。


「食品衛生責任者ね。それだけでいいの?」


「えっと、あとは防火管理者っていう資格とか。これも講習受けたら取れるんです。あとは役所に届けを出したり」


 島彦くんが目をキラキラさせて言う。


「お姉ちゃん、物知りだね」


「そんなことないよお。バイト先の店長さんに教えてもらっただけだもん。うちはカフェだけど、食堂も同じはずですよ」


 鳥子さんも島彦くんとそっくりなキラキラした表情をする。


「朋美ちゃんはカフェでバイトしてるの? 勤続何年くらい?」


「短大に入ってすぐからなので、そろそろ三年目に突入? それくらいです」


「虎狼が食堂を開いたら、ウエイトレスやらない?」


「えっと、私は自分のカフェを開くのが夢なんです」


 鳥子さんは身を乗り出してにっこりする。


「じゃあ、そこで虎狼と時也を雇ってよ。虎狼は料理上手だし、時也は公認会計士だよ」


「え、すごい! 税理士さんいらず」


 時也くん、見た目と違う。鳥子さんは自分のことみたいに自慢げに胸をそらしてる。


「よし、決まり! 朋美ちゃん、カフェのコンセプトは?」


「えっと、まだ詳しいことは決めてないです」


「よし、皆で話し合おう」


 小野さんが困ったように小声で呟いた。


「いや、やるって言ってないんだけど」


 みんな聞こえてないみたいだったけど。





 皆が好きな料理の名前を言い合う所から、カフェの開店プラン作りは始まった。鳥子さんが書記として働いてくれる。


「朋美ちゃんの一押しはサンドイッチなんだよね」


「はい。タマゴサンドとかハムとチーズとか、普通のがいいです」


「オーソドックスなのね。島彦は」


「オムライス!」


「うん。大好きだもんね。時也は?」


「白身魚のあんかけ」


「お、変化球で来たね。虎狼は?」


「俺はなんでもいいが……」


 気合が入ってない小野さんに、鳥子さんがずずいと迫っていく。


「虎狼、こういうときは協調性を発揮しつつ個としての意見を持たないとダメ。会議は活発な議論でより良い会社を作るためにするものなの」


「お母さん、ここ会社?」


「間違ったわ。素敵なカフェにするための会議なの」


 鳥子さんはなんだかとっても頼りになる。参謀って感じ。小野さんは武士。


「小野さんは、お料理上手ですけど、苦手なものってあるんですか」


「苦手……。イタリア料理が、ちょっと」


 武士だからかな。


「パスタとかですか」


「そうですね。大人数分を作ることが基本だったんで、繊細な味付けなんかが出来なくて」


「カフェなら出来るわよ、どんな味付けでも。一人分ずつか、多くても四人分くらいじゃない、一度に作る量って」


「そうですね、二人席、四人席が基本ですから」


 小野さんは腕組みして真面目な顔をして考えてる。


「麻婆豆腐なら」


 あんまり武士っぽくないメニューだな。鳥子さんもそう思ったのか、ツッコんでる。


「それ、イタリアンじゃないじゃない」


 島彦くんが舌をべえーと出して眉根を寄せてみせる。


「辛いやつだ」


 時也くんが顔をちょっとだけ上げる。


「虎狼のだったら、俺も豆腐食べられる」


 皆が言って、それぞれに顔を見合わせた。


「二対二ね」


 鳥子さんが難しい顔をしてる。


「お母さん、二対二ってなに」


「麻婆豆腐に賛成の人が二人、反対の人が二人。半分こ」


「朋美ちゃんはどっち?」


 時也くんに尋ねられて、ちょっと困った。小野さんの料理だと美味しいのは確実だろうけど、麻婆豆腐……。


「カフェっぽくないかも」


 ぽつりと言うと、島彦くんが私に視線を向けた。


「カフェっぽいって、どういうの?」


「コーヒーとか紅茶が美味しくて、それに合った優しいお料理があるの」


「麻婆豆腐はダメ?」


「ちょっと尖った感じだし、中華料理屋さんっぽい」


 時也くんが、がくりと頭を垂れた。


「じゃあ、あんかけもだめか」


 あんまりにも悲しそうな姿。ちょっと申しわけなくて、慌てる。


「えっと、そうだ! ビールも出しましょう。そうしたら和食も中華も合いますよね」


 小野さんが苦笑してる。


「食堂感も出そうだが」


 反対に鳥子さんは乗り気だ。


「いいわね、食堂とカフェを合わせたお店。斬新じゃない?」


「内装なんか、どうするんだ。カフェっぽい洒落た店だと、結局は麻婆豆腐は却下だろ」


 皆の視線が私に集まる。えーっと、頭を捻らなきゃ。


「半分は和風で、半分は洋風にとか。お部屋の真ん中で壁と床を色分けして」


 皆が首を捻る。島彦くんまで。そんなに変なこと言ったかな。


 食卓に顔をつけているせいで首を捻らなかった時也くんが「うちなら半分だ」と呟いた。


「なにが半分なんだ?」


「和風の畳の部屋が三つと、洋風のフローリングとリビング。面積で言うと半分ずつ」


「そうだが……」


「おうちカフェですね!」


 それってすごくいい。まったりのんびり出来そう。


「アパートの一階、空室ありますよね。あそこ、借りられないかなあ」


 鳥子さんが窓の方を向く。


「そうね、ここって大型団地から駅までの近道だもん。周りに飲食店ないから流行るかも」


 なんだか、とんとんと話が進んでいく。今までなんとなく憧れてただけだったけど、これなら本当に出来そう。やっぱり、一人きりで考えてても駄目なんだ。


「店名を思いつきました!」


 これは重大発表だ。立ち上がって宣言する。


「一本道カフェです!」


「なあに、それ」


 島彦ちゃんが楽しそうに聞いてくれた。


「真っ直ぐ歩いて来た皆が立ち寄ってくれて、休憩して、また頑張ろうって思えるお店なの。それで、迷ってる人が道を決められるような強さもあるの」


 鳥子さんが真面目な顔で頷く。


「ヴィジョンはわかったわ。あとは具体性を持たなければね」


「鳥子ちゃん、まだそこまでの具体性は必要ないかも」


 時也くんがのんびり言うと、鳥子さんは首を横に振った。


「企業理念は大事よ。ここがあやふやだと、経営が厳しくなった時に立て直しが効かないこともあるの」


 社会人の鳥子さんに意見を求められてじっと見つめられると、急に大人になった気がする。なんだか自信が湧いてくる。


「わかりました。目指すのは未来、五十年後までお店が続くことです」


 島彦くんが不思議そうな顔で聞く。


「未来ってなに?」


「島彦くんが大きくなったころのお話だよ。学校に行って、お仕事をするようになって」


「僕ね、ゲームを作る人になるんだよ」


 すぐに迷いもなく言う島彦くん、大人だなあ。


「もう決めてるんだね、すごいなあ」


 照れて顔を赤くした島彦くんを見て、鳥子さんは満足げに会議を進める。


「じゃあ、次は未来観を統一しなきゃね。案出しに戻ろ……」


 ジリリリン。


 玄関のチャイムが鳴った。

 ジリリリン。

 ジリリリン。

 何度も鳴る。


「こんな遅くに誰だ」


 小野さんが立ち上がって玄関に向かう。


「泥棒だったらどうしよう」


 島彦くんが言うと、鳥子さんはスマホを握って110とタップして待機した。私はそっと廊下に目だけ出してみる。

 ドアが開くと、女の人が立っていた。五十歳くらいかな。なんだか上品で細くて、泣きそうな顔をしてる。


「おばさん」


 呼びかけた小野さんに、その人は深々と頭を下げた。


「時也がお世話になっているそうで、ありがとうございます」


「いや、おばさん、頭を上げてください。世話になってるのは俺の方で……」


「すぐに連れて帰りますので」


「え?」


 おばさんは、ずかずかと上がり込んで、部屋に入って来た。時也くんが頭を起こした。


「……お母さん」


「時也、心配したのよ。電話に出てくれないし、どこに行ったかわからないし。あなた病気なんだから、他人の家の留守番なんて緊張する仕事をしたら駄目よ」


「仕事じゃないよ。ただ住んでるだけ」


 時也くんは、おばさんの顔を見て、すごく緊張したみたい。なんだろう、話しにくいことでもあるのかな?


「ごめんね時也。私が悪いんだよね。あなたが病気になるくらい、私が叱って育てたから」


「そんなことないよ」


 小野さんが戻って来た。


「おばさん、とりあえず座りませんか。時也は今、外出できるような状態じゃないですし」


「私が背負って帰ります」


「無理ですよ、おばさん。時也だって大人の男なんですから重いです」


 ジリリリン。

 またチャイム。小野さんが見に行く。私も廊下に顔を出す。


「おじさん。二人そろって……」


「やっぱり、なぎさはここに来たんだね。上がってもいいかな」


「どうぞ」


 やって来たのは眼鏡をかけた真面目そうな男の人だ。ちょっと額が広くなってる。おばさんと同じくらいの年齢に見えた。


「なぎさ、帰ろう」


時朗ときろうさん、ちょうど良かったわ。時也が動けないって。私が背負うから、手伝って」


「なに言ってるんだ。無理やり連れて帰ってどうするの。うつ病の時に環境を急に変えるのは良くないって勉強会で聞いたじゃないか」


「生まれ育った家に帰るのよ、環境が変わるわけじゃない。私が悪いんだから、私が治してあげないと」


「何度も言うけど、時也の病気は、なぎさのせいじゃない。色々な因子が重なって……」


「その因子のおおもとが私なんだわ」


 おじさんは困り果てて、おばさんを見つめる。


「なぎさ。なあ、家に帰ってもう一度話し合おう」


「時也も一緒に帰るの」


「おばさん」


 小野さんが、きりっとした表情でおばさんの前に立った。


「時也のことは、俺たちがサポートしてます。だんだん良くなってきてると思います。もう少し、時間を下さい」


 おじさんも続けて言う。


「虎狼くんと鳥子ちゃんがいるんだ。心配いらないよ」


「でも……」


 島彦くんが、きりっと表情を引き締める。


「僕も時也くんのお役に立つよ。くすりびんを届けてるんだ」


「くすりびん?」


 時也くんがおばさんの方に顔を向けた。


「もらうと元気が出るんだ。だから、俺はここにいるよ」


「時也、私には、なにも出来ないの?」


 時也くんは黙って俯いてしまった。泣きそうになったおばさんの肩を、おじさんが撫でて落ち着かせる。


「お騒がせしたね。時也、ゆっくり養生しなさい」


「うん。元気になったら帰るよ」


 おばさんがほろほろと泣き出した。


「ほら、泣かない、泣かない。帰ろう」


 おじさんに背中を押されて、おばさんは玄関に向かう。おじさんは外に出て振りかえって、また深々と頭を下げた。


「時也のこと、よろしくお願いします」


 見送りに出て行った小野さんも、鳥子さんも、島彦くんも、きちんとしたお辞儀でおじさんとおばさんを見送ってる。座ったままでテーブルを見つめている時也くんに話しかけてみた。


「時也くん、皆優しいね」


「うん」


「時也くんも、優しいね」


 真っ赤になった時也くんは深く俯いて「そうかな」と呟いた。


「そうだよ。カフェ、一緒に頑張ろうね!」


「うん」


 少し元気が出たみたい。時也くんも、私も。

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