第九話:時間切れ
ラゴは目覚めた。
何故だろう、心が満たされていた。
そして
「んんぅん……」
エストは目覚める。
そんなエストにラゴは優しく声を掛ける。
「おはようエスト」
「ぅんんぅ、あ、ラゴ様おはようございます」
ラゴ同様起き上がるエスト。
二人とも生まれた姿のまま一夜を過ごした。
エストはラゴに抱かれて初めて女としての幸せを味わっていた。
ラゴも何かに吹っ切れたかのようにすっきりとした表情で姉の肖像画を見る。
「今日は忙しくなる」
「はい、ラゴ様もお仕事頑張ってください……」
少しはにかみながらエストは胸元へシーツを引き寄せる。
それは今まで持った事の無い
それまでのエストは男の前で肌を隠すなどする事は無かった。
しかしラゴに対しては何故か醜い自分を見られるのが嫌だった。
汚れた身体。
男たちの欲望を受け止めてきた身体。
欲求のはけ口で男に抱かれるのは慣れている。
しかし、今、目の前にいる彼にはそんな自分を見て欲しく無かった。
だがラゴは違った。
エストを引き寄せ、唇を重ねる。
「んッ!?」
ちゅぱっ……
ラゴはエストから離れると唾液の橋が出来て消えて行く。
「少し強引だったかな?」
「いえ、嬉しいです///////」
エストの
* * * * *
「エスト、今帰ったぞ!」
ラゴはそう言って屋敷の玄関を足早に歩く。
しかし今日に限ってエストは出迎えにいない。
他の召使に聞くとエストは自室で休んでいると言う。
体調を崩したのかと思い慌ててエストの部屋に行くと、エストが床に倒れていた。
「エストっ!!」
ラゴは慌てて駆け寄るのだった。
◇ ◇ ◇
「クローンタイマーですな……」
集中治療室でエストを見守るラゴに医師はそう告げる。
クローンタイマーとは、この時代に可能となったクローン人間に仕込まれる技術だった。
もともとクローン人間は非合法で、万が一クローン人間が何かの理由で逃げ出しても確実に処分する為の処置だった。
「何とかならないのか?」
「残念ながら、遺伝子レベルで自己崩壊を始めてます。ナノマシーンで補填しようにも崩壊速度が速すぎこの素体はもう……」
「そこを何とか出来んのかっ!!」
ラゴはエストの手を握りながらそう医師に言う。
しかし医師は首を横に振るだけだった。
「オリジナルの遺伝子自体に問題がありました。万が一の為にクローンを作ってオリジナルがダメになっても脳移植で延命を考えていたクローン体です。ですがやはり元が悪すぎた……」
エストは姉のクローン体だった。
もともと体の弱い姉に親たちは違法と知りがらクローン技術を使い、脳移植による延命を考えていた。
エストはそんなクローン人間だった。
しかし、あの日、車もろとも爆破された時にこの闇病院も襲撃をされ、二度と復活できない様には培養された素体たちは処分されていた。
だが、エストはその後どう言う理由か分からないが孤児院に拾われた。
姉が死んで数年経った後で。
ラゴは悲しみに暮れていたが、その情報を知ってから彼女を探していた。
そして安娼館で働いている事を知った。
「ラ……ゴさまぁ……」
「エスト!」
「ごめ……ん……なさ……い…… わた……し……」
「ダメだ、エスト行くな! 私を、僕を置いてゆかないでくれ!!」
ラゴはエストの手を強く握る。
しかしエストは苦しそうに無理矢理笑顔を作る。
「ラゴ……さ……ま……」
エストはラゴの顔に優しく震える手を添える。
そしてラゴの耳にも触れて嬉しそうに笑ってから目を閉じた。
「エスト?」
エストの手から力が抜け、落ちる。
機材が生命活動を停止した事を告げる警告音を鳴らせる。
ラゴはそこで大きな声を上げて泣き叫ぶのであった。
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