第七話:悪夢


 それは古い記憶メモリー


 ここエデンでも利権争りけんあらそいは起こる。

 それは当事者の家族全部を含めて起こる事もある。



 ラゴにはやや年の離れた姉がいた。


 優しく美しい姉が。

 年の離れた彼女は忙しい両親の代わりに何時いつもラゴの面倒を見てくれていた。


 ラゴもそんな姉を大層慕たいそうしたっていた。 

 常にラゴの近くで微笑ほほえむ姉の笑顔にラゴは何度心救われた事だろうか。


 しかしそんな姉は生まれつき体が弱かった。

 いくらナノマシーンを体内に注入しても、もともとの遺伝子に欠陥があり、テロメアが短いと言う事もあり各器官の劣化が激しくなってきた。


 そんな状態だったが、彼女はラゴの事を本当に大切にしてくれていた。

 何時も抱き着いてくるラゴの頭を優しく撫でて。



「ラゴ、私はあなたが大人になるまで生きられないかもしれない…… でも私はあなたの事を愛してるわ。あなたが立派な大人になってくれることを望んでまないわ」


「姉さん?」

 

 

 そう言う彼女は優しくラゴの頭を撫でながらそっと耳に触れる。

 それはこそばゆく、くすぐったいが姉に触れられるそれはとても心地いい。


 ラゴは心底心安しんそこやすらいでいた。



 だが、そんな彼に悲報が伝えられたのは彼が学校から戻った時だった。



 姉が死んだ。


 体調を崩して姉が倒れたのだ。

 そして両親も一緒に病院に向かった時に、敵対する利権りけんがらみの連中がその車を姉共々爆破してしまったのだ。



 この時代、脳みそだけでも残っていれば失った体はある程度再生が出来る。

 当然莫大ばくだいな費用がかるが、それでも金持ちの中には万が一の時の為にそれを準備している者もいるほどだった。 

 

 しかし、脳みそが焼かれてしまえば話は別だ。

 

 全ての記憶、人格、人としての尊厳そんげん

 それらは全て脳みそに起因きいんする。


 たとえ予備の身体一式がそろっていても、脳みそが無ければ人は復活できなかった。



 *



「はぁはぁはぁ…… ね、姉さん……」



 ラゴは脂汗を流しながらベッドから起き上がる。

 そして壁にかかっている姉の肖像画に目を向けた。


「姉さん……」


 もう一度そう言ってラゴは立ち上がる。

 そして肖像画の前まで行ってその足元に跪く。



「なぜ死んでしまったんだ…… 姉さん…… 私は、僕は、あなたさえいれば……」



 ラゴはそう言ってその場で涙を流す。


 この青年は今やここ「エデン」でも有数の力を持った実力者であった。

 だが今の彼はまるで取り残された子犬のように小さく丸まり涙している。




 姉の肖像画の前で……


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