第六話:奉仕


 エストは次の日から可能な限りラゴのもとへ通うようになった。

 ラゴ自体も仕事か何かで不在の時が多かったが、エストが部屋に来ること自体は特に何も言わなかった。


 だが、ラゴはいつもエストの腹の上で頭を押し付け、目をつぶり頭を撫でてもらう事だけを望んだ。



「あの、ラゴ様、失礼を承知でお聞きしますが…… 私を抱いてはくださらないのですか?」


「私は…… 君にそんな事を望んではいない。私の支えになって欲しいんだ、こうして君に抱き着き頭を撫でてもらうだけで心が落ち着くんだ……」



 それはラゴの本心なのだろう。

 エストは娼婦だった。

 だからベッドの上で男を喜ばせる事は容易たやすい。


 しかし目の前の青年はそんな人間本来の欲に対して興味がないかのようにエストに甘える。


 まるで、母親に抱かれるかのことく。



「ラゴ様、ラゴ様がそれをお望みであるのなら私はそれでもかまいません。いくらでもラゴ様をおなぐさめいたします。でも、もし私を欲する時はどうぞご遠慮えんりょなく」


「……ありがとう、その気持ちだけで十分だ」



 エストはそう言うも、ラゴは相変わらずエストの腹の上で頭を押し付け撫でてもらう事を要望している。

 そんな彼にエストもいつしか母性本能をくすぐられて、愛おしく感じて来る。


 ラゴの為。

 自分に出来る事。

 そう思いながら優しく優しく頭を撫でる。


 が、撫でている時に彼の耳に指が触れてしまった。

 ラゴは一瞬ビクッとして、エストを見上げる。



「す、すみません。お嫌でしたか?」


「いや…… 同じなんだな…… やはり……」




 ラゴはそれだけ言ってまたエストの腹に顔をうずめるのだった。

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