第三話:来客
その日エストは二人目の客を取ってからクリーニングルームに入る。
正直疲れていた。
客を二人も取っていればそろそろ体力の限界だ。
いくら若い彼女でも今日はもう仕事を終わりにしたい。
もし、お金に余裕があればナノマシーンの注入をして体の組織自体の修復や健康管理、避妊処置など容易にできるが、安娼館で働く彼女にそんな大金は無い。
だからこうして娼館に設置されている、タダで使えるクリーニングルームで体を洗い、胎内洗浄の避妊処置をする。
労働者を生み出す為の母体になるのはまっぴらごめんだから。
「エスト、終わったかい? 今日はもう一人客がいる。どう言う訳か写真見せられ是非にとお前をご指名だよ」
マダムがそう言ってクリーニングルームから出て来たエストを見る。
そしておもむろに腕を取り筒状のモノを押し付ける。
プシュッ!
「え? あの、マダム私回復薬買うお金なんかないですよ?」
「いいんだよ、ちゃんと客の相手してもらえば。上客だよ、セクサロイドなんかより生身のお前さんを指名して更に大金までよこして来るんだからね。ちゃんとお相手して常連客になってもらうように頑張るんだよ!」
下卑た笑いをするマダムを見てため息を軽く吐き、エストは既に打たれた回復薬によって体が軽くなって行くのを感じる。
となれば、接客をするしかない。
エストはまた香水を体につけて扇情的な服を着て指定された部屋へと向かうのだった。
* * *
「お待たせしました。エストと申します。どうぞ可愛がってやってください」
部屋に着き、エストは酒を飲んでいる客にお辞儀をしてその横へと滑り込む。
せっかく身体が回復したのだ、さっさと終わらせて今日は休みたい。
エストが寄りかかった客は、身なりがかなり良い青年だった。
自分と同じく紫がかった黒髪で、瞳の色も同じ。
旧アジア諸国に居そうなアジア系の客だった。
「……確かに」
「はい?」
その客はそれだけ言って立ち上がる。
そして懐からチップを取り出しエストに手渡す。
「これは付き合ってもらった君へのチップだ。受け取ってくれ」
そう言って手渡されたチップはSDカードくらいのモノだがその価値を知っている者には驚くほどの価値がある。
「あ、あの、こんなに頂けるのですか?」
「取っておいてくれ、また来る……」
その客はそれだけ言って部屋を出て行ってしまった。
エストはポカーンとその
それはエストが一年ここで働いても手に出来ない程の金額だったのだ。
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