【第33話】 密会 2
部屋から出ないように言われているので屋敷の中は歩けない。それならばと、退屈のあまり外に出たシャールが伯爵に見つかってしまったの? そんな考えが頭をよぎり、震えていた薄い背中や噛み締めていた唇を思い出す。
――助けに行かなくては――早く。
そう思うや否や部屋から飛び出していた。
シャールと
厨房には食材などを搬入するために、裏庭に面している裏口がある。その裏口を使えばいい。ケインになにかご用ですかと尋ねられたが、食器を下げにきたと言った。ケインも慌ただしくしていたので、その隙に裏口から裏庭へ出る。屋敷の横を通り抜けて表の庭へとまわった。
月明りだけが頼りだったが、今夜の月は影を創ることができる。それに勝手知った我が家の庭。目を閉じながらでも歩くことができる。
強いて言うならば靴は履き替えてくればよかった。高い
この空気の冷たさに頭を冷やされて冷静になっていた。シャールが大変! と、勢いだけで思わず部屋を飛び出してきてしまった。だけど、あの白い影ともうひとつの人影がシャールと伯爵であるという確証はなにもない。
寒さのために両腕を抱えた。見つからないようにできるだけ小さく背中をかがめて、足音を忍ばせて歩く。小枝を踏まないように、
かろうじて会話を聞き取ることができそうな距離で、樹木の繁みの間にしゃがみ込んで身を隠す。
小枝の隙間からそっと覗いて聞き耳を立てた。いざなにかがあったときには、飛び出せば十分に間に合う距離でもある。覗き見も盗み聞きも、年頃の一応貴族の令嬢としてどうかと思う。いや、それ以前に基本的に人間としてダメだろう。だけど、今は緊急事態。まずは本当にシャールと伯爵なのかを確認する必要がある。違っていたのならごめんなさいと心の中で土下座して即座に撤退である。
「……尊敬できる方だと思っていたのに……」
声が聞こえてきた。小さく、くぐもって聞こえる。普段よりも
「……すまない。でも、どうしても君を……」
……挨拶を交わしたときに聞いたこの声はベナルブ伯爵。
二人の姿は月明りが落とす枝の影に隠されてしまっている。まるで影絵のようだ。
会話はところどころ聞き取れないが、なんとかなるだろう。あとは出ていくタイミングを見計らいシャールをこの場から連れ出せばいい。いざというときにも、飛び出せる。
「だったらあのような方法……取らなくても……。正式に申し……いたら……。我が家は男爵家です。伯……申し入れならお断りは……。……どれだけお父様やお母様やお姉さまが……皆が大変な……してきたか……おわか……ますか?」
……ん?
「……それは……君も含めて……をさせてしまったことは……。君と私では歳も……離れて……。社交界では私の……まことしやかに囁かれて……。もちろん……事実無根……、男爵殿が……許すとは……なかった。……絶対に断れないようにと……。……成婚したら……最初の約束……戻す……」
「今さらそんな……。それにお父様は噂だけ…人…判断…………ことはなさらないわ」
なに……これ……?
「
「わたしも、優しく微笑んでくださった伯爵様のことがとても心に残ったの。うちの領地を救ってくれた、わたしの……こんなにも素敵な方だったなんて……」
感情が
「ではシャール、私と……」
「……それでもいいと、思っていたわ。……でも、今は……」
「……シャール?」
「伯爵様、あなたはずるいわ。自分が傷つかない方法だけを探しているみたい。それに手に入れたいだなんて……。わたしはモノじゃない。そんなにわたしが好きなら正々堂々と求婚すればよかったの。……それだけの話よ」
シャールの声の調子が変わった。鈴の
……ああ、シャールが本気で怒っている。
「……今さら言い訳はしない。その通りだった。……愚かなことをしたと、悔いている。……どうか私を許してはくれないだろうか?」
「……わたしだけが勝手に許す訳にはいかないの」
さらさらとした衣擦れの音と高い
!!!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます