第8話

どんなひどい言葉を受けようとも耐えようと思った私をよそに、学長先生は続けた。


しかし、学長先生のあの言葉の意図は私の予想の逆だった。


『それで…諸君らに何故この話をしたかというと、それは勝者と敗者を超えた英雄とは何者かということについてだ』


…そう。


その意図に、私や元夫は関係なかった。




要約すると、祖国アルデシアを裏切ったマーガレットを極悪人として、その対極に位置する2人の国王を英雄としたのだ。


その2人の国王とは、エトワシアの寛容なる現国王エルヴィン・メイデンシュタインと、私の父親の偉大なる王クローディア・バーヴェルシュタインの2人である。




まあ、厳密に言うと、確かに私の父親で、元夫の義理の父親に当たるクローディアが題材になっている点では関係はあるかもしれないが、そこまで関係はないのだ。




こうして、私達の入学式が終わった。


(………………)


『あの〜』


それは、入学式終わりのことだった。


その時、私はある女の子に声をかけられることになる。


『どうしましたか?』


『貴女がシャーナ・マリーローズ?』


『そう…ですが?』


『凄い魔力量!本物だ!』


『え…?』


『貴女!話題のシャーナさんでしょ!魔法が凄いあの!』


『私!メアリー・ウェンズデー!よろしくね!』


『(本当に突然だね…)よろしく…でもなんで私に?』


『あのね』


彼女の顔はよく見てみると…


笑顔だけでなく…


悲壮感に満ちていた。


それをなんとか隠そうとしているようにも。




『私の友達が希望のエデンシティーで白龍の生贄にされるの。それを奪還するパーティーを探しているの。ちなみにまだ誰も見つかっていない…』




希望のエデンシティーって…


あの…難攻不落の要塞にある…






…無理だ。


私も断ろうとした。


でも。


彼女の真っ直ぐな瞳を見てると、とても断れなかった。




駄目なのに。


あんな要塞から奪還なんて無理だ。




彼女は続けた。




『お願い!このままじゃ…私の友達は死んじゃう!』


『でも…貴女…死ぬよ?そんな簡単なところじゃないし』


『構わない』


『…え?』


『死んでも構わない』


『……』


『私はもう覚悟できてる。とても大切な友達なの。親友と言っても良いくらい。……なのに!聖抜で選ばれたってだけで!殺される!生贄にされる!希望の為に!生贄にされる!……何が希望のエデンシティーだ。あんなの…!希望じゃない!絶望だ!!』


『…そっか。覚悟できてるんだね』


『うん。私は死ねるよ。貴女は?』


『私には理由がないかな』


『あるよ。貴女には。話せば長くなるけど』


『…え?』


『貴女の家は魔女の家でしょ?世界に一つしかない』


『うん』


『でもそれは嘘。本当は貴女のお母さんは魔女じゃない。彼女は影武者。私のたった一人の親友のお母さんのね』


『………え?』


『そう。私が今から助ける人はかつて貴女のお母さんが命がけで守った人なのよ。シャーナさん』




そう。


この日初めて知ったのだ。


−私のお母さんは魔女ではない。


魔女ではないのだ。


それはすぐには信じられる話ではなかった。


もちろん疑った。


嘘吐いてると思った。


疑った。


5年間信じてきたのだから。


お母さんが魔女であるって。




…でも。


彼女の目は嘘をついていなかった。


彼女の目は真っ直ぐすぎたのだ。




…彼女は嘘をついていないだろう。






…なら。


お母さんが魔女として振る舞っていたのは…


あれは演技だったの?


あれは全部嘘だった??


お母さんは嘘が上手かった?






…いや。違う。


お母さんは嘘つきじゃない。


きっと何か理由があるんだ。


誰かを守るための…理由が。




このように、私のお母さんが影武者であるという話は、お母さんが魔女であると5年間以上信じてきた私にとって、文字通り、とても理解に苦しむ話だった。


それでも、彼女は続ける。


『だからね。シャーナさん。貴女には今から魔女の守り人になってほしいの』




ああ。


そうだ、そうだった。


今思えば、この日からだった。


私が魔女の守り人となったのは。


魔女の守り人として、大切な人を守るようになったのは。









こうして。


私の物語が動き出す。

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