第2話 神様との勝負
「勝負ですか。」
「ええ、転生してから1年後に貴方が生きることと死ぬこと、どちらを望んでいるのか勝負しませんか?生きることを望めば私の勝ちで・・・」
「死ぬことを望めば、俺の勝ちということですね。」
「はい、貴方が勝てば望み通り死を与えましょう。あっ、当然ですが転生した後に私が貴方や世界に関与することはありませんので安心してください。」
神様の考えは全く読めないが、要は1年間自分の気持ちが変わらなければ勝てる内容だ。転生が決まっている以上、このチャンスには乗るべきだ。
「良いですよ、勝負しましょう神様。勿論俺は死ぬことを望む方で。」
「では、私は貴方が生きることを望む方ですね。フフッ、結果が楽しみです。」
今まで表情が変わらなかった神様が、この時だけほんの少し笑ったような気がした。
「では、貴方の転生について説明しますね。」
すると神様は水晶玉を取り出し手をかざすと、眩い光を放ち何処かの建物の映像が映し出された。
「此処はセルフロント神聖国、私を崇める『女神教』の総本山であり、この世界の法を担う役割を持っています。貴方にはこの国に転生してもらいます。」
ここが俺の転生先か・・・。白を基準に建ち並ぶ建物はまさに神聖国の名に恥じない光景だった。それにしても、宗教に法の役割と権力が集中している気がする。あまり厄介事には巻き込まれたくはないのだが、どうなるやら。
「次に貴方に与える能力についてですが、勝負の件もありますので、本当はこの場で授ける予定だったのを変更して、私が勝ったら改めて能力を授けようと思います。」
フムフム、能力は無いと。一瞬大丈夫か?と思ったが、変に能力を使って目立つようなことはしたくないし、余計なトラブルに巻き込まれたくもない。そう考えると能力は無い方がいいな。
「最後に貴方を宿す肉体ですが、これは私が造った身体を使います。どんな身体なのかはここでは言いません。転生してからのお楽しみです。きっと気に入っていただけると思いますよ。」
今見られないことに若干の不安はあるが、神様が酷いものは造らないだろう。
「説明は以上になりますが、貴方から聞いておきたいことはありますか?」
う~ん、正直何を聞いても、結局はどうせ一年の我慢だという結論になってしまうのであまり意味がないし、勝負を持ちかけた神様が自分の不利になるような事はわざわざしないだろう。
「いえ、特に無いです。」
「そうですか、では転生に移らせていただきますね。」
神様が手を叩くと、目の前に大きな扉が現れた。
「その扉を通ればイデアーレへ転生されます。この転生が、貴方にとって良きものとなりますように。」
神様の言葉が終わると同時に扉は開き、眩い光が溢れてくる。俺は意を決して扉をくぐった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「これで良かったのですよね、ティレス様。」
彼の魂が扉をくぐるのを確認した私は、ひび割れた水晶玉を取り出しポツリと呟いた。
ティレス様の願いで誠の魂を預かったのは良かったのですが、当の本人は転生を望まず己の死を願った。相反する願いを叶えるには、こうするしか私には方法がわかリませんでした。この先どうなるかは彼とこの世界次第でしょう。結果がどうであれ、私はそれを受け入れなければなりません。
「さて、私もできる限りの事をしなくては。手始めにあの娘に神託の指示を出すとしましょう。」
私は次の行動を移すべく、その場を後にした。
死にたがり聖女の再生譚 レクス @lREXXl
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