第1話 死んだ先にあるものは

「・・・此処は?」

 気が付くと何もない真っ白な空間にいた。十中八九俺はあの時車に轢かれて死んだのだろう。身体が軽いと言うか、重さを全く感じない。さしずめ、今の俺は幽霊といったところか。それにしても、本当に何も無い。死後の世界には河が流れていたり、大きな門が建っていたり、閻魔の審判があったりとか昔に色々と聞いていたんだがな。

「神守 誠さんですね。」

突然後ろから声がしたので振り返ると、そこには昔の絵画に描かれている女神のような装いをした女性が宙を浮いていた。背丈よりも長い白い髪に、美しく整った顔立ち、そしてメリハリのある体つき、まさに『理想の美』がそこにあった。

「私は女神フローリア。貴方が生きていた世界とは違う世界を管理している者です。」

女神、つまりは神様だった。でも、何で違う世界の神様なのかはこの際どうでもいい。問題は、神様が何故俺の前に現れたのかだ。状況からして嫌な予感しかしないのだが・・・。

「貴方は人生の道半ばで理不尽な死を迎えました。そのことを憂いた貴方の元いた世界の管理者・ティレス様は、私に私の管理する世界『イデアーレ』に転生させるようにお願いをされたのです。」

やっぱり転生か。異世界転生なんて小説の中だけだと思っていたんだが、本当にあるとは・・・。しかも俺の元いた世界の神様も関わっているなんて。でもどうしても腑に落ちない点があった。

「どうして俺なんですか?」

理不尽な死なんて俺だけじゃ無い筈だ。それこそ沢山いただろうに。その中からわざわざ俺を選ぶ理由が分からない。

「私から言えるのはティレス様にとって『神守家』は特別だったということだけです。」

そう答える神様の言葉に俺は納得がいかなかった。特別だっていうなら、あの時父さんや母さんを助けることだって出来たんじゃないのか?あの事件だって未然に防ぐ事が出来たんじゃないのか?今の俺みたいに死んだ後で何かしらした可能性を一瞬頭によぎったが、それを確認する術はない。何にせよ、このまま転生する訳にはいかない。

「俺は転生なんて望みません。俺はもう生きたいとは思えないんですよ。あのような目に合うくらいなら、死んでいたほうがマシです。」

結果がどうであれ、やっとあの地獄みたいな所から解放されたんだ。違う世界でもう一度なんて考えたくもない。仮に転生したとして、別の世界を生きていた俺はその世界から見て『異物』であり、そんな存在が上手く馴染めるわけもなく、見世物にされるか、排除されるか、どちらにせよ碌な目にあわないのは確実なので、そんなのはゴメンだ。たとえ神様であろうと全力でお断りする。しかし、神様は首を横に降った。

「貴方のことはティレス様から伺っています。どのような道を歩まれてきたのかも。気持ちはわからなくもないですが、転生はもう決まっている事ですので、残念ですが何を言おうと意味はありません。」

「なっ!」

何だよそれ、こっちは転生なんて望んでないのにそっちの都合で勝手に決めるなよ。表情を変えず淡々と話す神様に少しだけ腹が立った。

「その様子を見るに、貴方は納得がいかないようですね。困りましたね、どうしましょうか?」

神様は顎に手を当てて何か考え始めた。そして暫くした後に、何を思い至ったのか突拍子もないことを言い出した。

「ならばここは1つ勝負をしませんか?」









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