死にたがり聖女の再生譚

レクス

プロローグ

『ぼく、早く大きくなってお父さんの後を継ぐんだ!』

『そうかそうか、誠が後継ぎになってくれるなら何も心配はないな。』


 あぁ、またあの夢だ・・・。

忘れたくても忘れられない、過去の思い出が夢となって蘇ってくる。いつの日か交わした約束も、家族を失った悲しみも、全てに裏切られた絶望も脳に刻み込まれている。でも、優しい声で名前を呼ぶ両親の顔は今でも思い出すことが出来ない・・・。



 携帯端末から流れるアラーム音で目が覚めた。はぁ、この時期はいつもあの夢を見てしまう。あれからもう10年以上立つのに関わらずだ。嫌な記憶ほどよく覚えているというのは本当なんだな。

「最悪の寝覚めだ・・・」

気持ちを切り替えるために窓を開け、風を浴びるがこの沈んだ気持ちは何時までも胸の奥底にこびり付いて逆に気持ち悪くなった。テレビを付けると、世界各国で不可思議な自然災害が発生し、世界滅亡の前触れかなんてニュースが流れていた。そういえばこの間も何処かの死火山が急に噴火して周りに甚大な被害が出たなんて聞いたな。本当にこのまま世界が終わったりして・・・。なんて馬鹿な考えは隅に置いておいて、大量に買い込んだシリアルバータイプの味のしない栄養食を頬張り、今日の大学受験に必要な物を鞄に詰め込んだ。本当は高校を卒業したら就職するつもりだったが、日頃お世話になっている先生から「お前は大学に行くべきだ!」と耳にタコが出来るほど説得されて、仕方無く近くの大学に応募したんだっけ。

「こんなものか」

準備を終えて時計を見ると、まだ時間に余裕あった。試験時間ギリギリで行きたかったが、このまま時間を無駄にするのは何か勿体ない気もするから、このまま行こうかな。玄関で靴を履き、靴棚の上に飾ってある神社の写真とひび割れた水晶玉を見て手を合わせる。

「行ってくるよ。父さん、母さん・・・神様」

 外に出ると、視界の端で近くに住んでいる主婦達が、井戸端会議に花を咲かせていたが、俺の姿を見るやいなや小声で話し始めた。

『あの子、確か例の事件の主犯の息子さんよね。』

『あんな事を仕出かしたのに、のうのうとしてるなんて・・・。当時は子供だったからって関係ないと思っているのかしら』

『子供たちにも、関わらないようにしっかりと言い聞かせなきゃ』

 胸糞悪い、全部聞こえてんだよクソが・・・。

 暫く歩くと、目的地の大学が見えて来た。このまま向かおうと思っていたら、運悪く目の前の信号に引っかかってしまった。本当に今日はツイてない。仕方無く端末をいじり信号を待っていると、後ろから背筋が凍るような不穏な気配を感じた。慌てて振り返ろうとするも、背中に強い衝撃と共に俺の身体は道路に投げ出されていた。

「・・・は?」

 依然赤のままの信号機、そして迫りくる車。俺は誰かによって殺されようとしている事実に、自分の中の何かが音を立てて壊れていく・・・。もう何もかもがどうでも良くなり、気付かぬ内に不敵な笑みで腹の奥底から声を出し叫んでいた。

「こんなクソッタレな世界なんて滅んでしまえ!!!」

 その直後のけたたましい音を最後に意識はプツリと途絶えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る