第17話 イーサン

寒い。


「くしゅん!」


 自分のくしゃみで目を覚ますと、知らないベッドに寝かされていた。

 マルバス様の家のベッドよりも綿がたくさん使われているベッドは暖かいはずなのに、肌寒くてくしゃみが止まらない。


「大丈夫か」

「マルバ……えっ!? どなたですか!?」


 大きなベッドの端に、上半身裸の男が座っている。

 こちらを見ていないので顔はわからないが、栗色の刈り上げられた髪型に見覚えはない。


「わ、私の服はどこですか!?」


 驚いて起き上がったときにシーツがずれ、私は見知らぬネグリジェだけを身に纏っていた。

 これに着替えた覚えはない。

 この男性が勝手に着替えさせたのだろうか。

 傷物――イザベラ様の言葉が頭を掠める。


「俺も知らない。ただ着替えさせたのはあの女、イザベラだ。俺は誓って肌を見たりしていない」


 気を失っていたのだから信用はできないけど、一切こちらを見ようとしない姿から、少し安心感を抱く。

 シーツをたくさん手繰り寄せて、マントのように羽織る。


「イザベラの計画に気づいて助けようと思ったんだ。でも遅かった。助けるどころか俺も拘束されて気を失ったらここにいた」

「マルバス様ではなく、貴方が……」


 助けに来てくれたのがマルバス様ではなかったことに少しショックを受ける。

 この状況をマルバス様は知っているだろうか。

 いまの状況を見たらきっと誤解されて、私への求婚は取り下げられるのだろうか。


「マルバスが気に入っているんだな。幸せそうでよかった」

「マルバス様をご存知なのですか?」


 男性は私に害を与えるつもりはないのかもしれない。自分も寒いだろうに、肩を振るわせながら私のことを喜んでいる。

 見ず知らずの相手に一体なぜ?


「ああ。マルバスの友人で、イザベラの弟であるイーサン・ハリソンだ」

「マルバス様からお話は聞いていました。私は――」

「ヨウ、だろう。知っている」


 イーサン様なら私の名前を知っていても不思議ではない。だからあのとき呼ばれたのかと納得がいく。

 

「あの、寒いでしょうからこのシーツでも被ってください」

「いや、俺はいい」

「まだ結婚前の女性の前で肌を晒すのはマナー違反だと思います」


 脅すようにシーツを手渡すと、やはりこちらを一度も見ずに後ろ手で受け取り、シーツを被ってくれた。


「ここがどこかわかりますか?」

「ハリソン家の郊外にある屋敷のひとつだ。ここは塔のようになっていて窓から降りることもできない。ドアはもちろん施錠されている」

「そうでしたか……」

「イザベラの計画では外部との繋がりがないここに閉じ込めて、噂をでっち上げるつもりだ。噂が出たら最後。俺のせいで君は傷物扱いにあり、ハリソン家へ嫁ぐことになるだろう」

「そんな……!」

「悪い噂を消すためにハリソン家はなんでもするだろう。イザベラも上手く考えたものだ」


 ハリソン家との婚姻なんて、立場上絶対あり得ない。女性を傷物にしたなんて悪評が伝われば、ハリソン家の地位は地に落ちる。

 しかし私相手の男爵家であればそんな噂をもみ消すことは簡単だろう。


「そんなにも恨まれていたなんて」


 イザベラ様のいう、あの人が誰かはわからないが、一方的にこんなに恨まれているなんて。


「過去の話をしてもいいだろうか」

「は、はい」


 イザベラ様とイーサン様の過去の話が始まった。

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転生先は自作漫画の世界!? 宇野田莉子 @milktea0912

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