第16話 悪縁
「私はね、異世界転生なんてあり得ないと思っていたのよ。バカバカしいって。でも実際に起こってしまった。原理はわからないけどね。あなたならわかるかしら? 陽子先生」
イザベラ様の口角がくいっと上がる。
見た目も、年齢も、全て違うのに、目の前にいる人物が他の姿と重なる。
「田辺さん……?」
そんな、まさか。
異世界転生ですらあり得ないのに、田辺さんが同じ世界にいるなんて。
「あなたがいなくなって、あの人が手に入ると思ったら、なによこれ。本当に良い迷惑だわ」
「あの人っていうのは勇くんのこと?」
「はあ? あんな弱小漫画家のことなんてどうでもいいわ」
勇くんを私から奪った張本人なのに、酷い言い草だ。
怒りでどうにかなりそうだが、ここで爆発してしまってはマルバス様に迷惑がかかる。
ぐっと堪えて紅茶を飲み干して心を落ち着かせる。少し体の緊張が楽になる。
「それで? マルバス様には同情心でも仰いだの? なんであなたが求婚されているの?」
「それは私にはわかりません」
「ふーん。離婚してないのに、この世界で新しい人と結婚するなんて、不倫みたいね」
「離婚届を出してないだけで……! それに、あの世界とこちらでは違います」
「へえ、勘違いしてらっしゃるのね」
「え?」
「私が転生しているってことは、他の人も転生してるかもって想像もできないの? その様子だと、全然知らないようね」
他の人?
もしかして勇くんもこっちの世界に転生しているのかもしれない。三佳もいたりするのだろうか。
「マルバス様と早く離れてくれない?」
「……いやです」
例えこの世界に勇くんがいたとしても、新しい世界だからといって過去に浮気されたことも、言われた言葉も許せない。
勇くんの心は田辺さんの元へいってしまって、私の心も勇くんのところにはもうない。
「相変わらず気に食わない。なんであの人が気にいるのかさっぱらわからないわ。まあ、いいわ。傷物になればマルバス様も縁を切るでしょう」
「傷物って……」
紅茶を飲み干してからの倦怠感がぐっと強くなり、目の前が白くなってくる。
「大丈夫。乱暴はしないわ。あなたには幸せになってほしいもの」
ドアが大きな音を立て開かれ、一人の男性が息を荒くして部屋へ突入してくる。
もしかしたらマルバス様が来てくれたのかもしれない。期待を込めて、お腹にグッと力を入れる。
「ヨウ!」
私を呼ぶ声が耳に届いた途端、体の力が抜け、ガラスの割れる音がした。
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