第14話 悪役令嬢?

 見上げても全貌が視界に収まらないほどの大きな屋敷に足が竦む。

 屋敷の周りは庭園のように綺麗な花が咲き誇っていて、貴族の屋敷というイメージにぴったり。

 

「ヨウ様。ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ」


 出迎えてくれた執事長は品が良く、目元に笑い皺がある。

 マルバス様に家庭教師の話をしてから二週間。

 早速連絡をとってくれて、あちら側もすぐに快諾してくれたらしく、一先ずハリソン家の屋敷で面談という形になった。

 本来はマルバス様もついてくる予定だったのだが、また急遽仕事が入ってしまった。


「ようこそ。ハリソン家長女、イザベラと申します」

「お招きいただきありがとうございます。ヨウと申します。本日は宜しくお願いします」


 マルベル様のご友人のイーサン様の姉、イザベラ様はマルバス様の二個上の二十歳。

 ひとつに結い上げられた栗色の髪は艶めいていて、妖艶な雰囲気も相まって同性にも関わらずドキリとしてしまう。


「あら、挨拶はお上手ね」

「……へ?」


 爵位も年齢も私より上。仕方ないとはいえ、少し棘のある言い方に心が重たくなる。


「ごめんなさい。泥棒のようなことをするような方だから、もっと品がない方だと思っておりましたの」


 高らかに声を上げて笑う様子は、異世界転生の話で出番の多い、悪役令嬢のような方だ。


「泥棒とは……?」


 我が家は確かに没落一歩手前の男爵家。お金には常に困っているが、泥棒のようなことをしたことはない。

 もちろん私も泥棒のようなことをしたことはない。泥棒なんてことをしていれば、とっくに実家とは縁が切られている。


「とぼけるおつもり? 泥棒猫じゃない。マルバス様と私の仲を割いたのは貴方よ」

「泥棒猫!?」


 マルバス様とイザベラ様の間になにがあったのかは知らないが、泥棒猫などと呼ばれることをした覚えは全くない。

 元々マルバス様との縁談は私からしたものではないのだから。


「二人切りになれるところへいきましょうか。私の部屋で構わないかしら?」

 

 そう問いつつ答えは求めていないようで、すぐに玄関ホールから歩き出してしまう。

 すでに帰りたい気分だが、マルバス様の厚意を無駄にはできない。泥棒猫と言われたことも納得できない。

 大人しくついていくしかなかった。

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