第11話 ヨウと陽子
再び目が覚めると、心配そうに椅子に座っているイケメンと目があった。
ずっとこっちを見ていたのか、目があった途端に立ち上がり、その勢いで椅子が大きな音を立てて倒れた。
「ヨウ! 目を覚ましたか」
私はどうやら自分が描いた漫画の世界、しかも主人公のヨウの体に転生したようだ。
お父様があのとき告げた、ヨウに求婚してきた貴族というのは、このイケメンだった。
マルバス・ブレイクは伯爵の嫡男であると同時に、騎士として活躍していて、顔が整っていることもあり、社交界ではいつも彼を人目見にくる女性が多いというのは聞いていた。
ヨウは面識がなかったが、何度断っても彼からの求婚がお父様の元へ届いていたらしい。
目上の人物からの求婚はそう何度も断れない。
しかも婚姻にあたって、我が男爵家の支援までしてくれるという好条件での求婚。
仕方ないと思い、ヨウは婚約より前にまずお人柄が知りたいと申し出た。
本来であればあり得ないことだ。もちろん断れる覚悟だった。
しかし申し出はすぐに受け入れられ、顔合わせから始まり、週に二度のお茶会やおでかけをして、まずはお互いを良く知るということから始めた。
「やはり、私が頻繁に連れ出してしまって、慣れない環境で疲れてしまったのかもしれないね」
マルバス様は淡泊な性格の人だと思っていたが、忙しいはずなのに何度も会いに来てくれた。
ヨウの住む屋敷は小さく周りの目がある。最近はヨウがマルバス様の屋敷に赴いていた。
そんななか当然毎回緊張しながらの訪問だったので、無意識のうちに疲れが溜まってたらしい。
庭を案内してもらっているときに倒れてしまった。
そして意識が戻ってからはヨウの中には陽子の人格が入っていた。
「口数が少ないが、やはり調子が戻らないか? なにか飲み物と軽い食べ物を用意する。ちょっと待っていてくれ」
メイドを呼ぶこともせず、マルバス様自らどこかへ行ってしまった。
幸いにも考える時間ができた。
自作漫画の世界に転生なんて夢だと思いたいが、夢にしてはリアルすぎる。
いま横になっているベッドのシーツの素材。屋敷のなかの空気。色々な要素が五感を刺激してきていることが、これは夢ではないと思わせる。
(これからヨウとして生きていかないといけないんだろうか……)
少し視界に入る髪の毛の先は青く、明らかに陽子の髪とは違う。
体形も、声の高さ、どこをとっても陽子と繋がる要素はない。
やはりあのとき、トラックに轢かれてしまい私は命尽きたのだ。
悲しい思いと、わくわくした感情が生まれてくる。
前の人生は終わってしまったけど、異世界転生できただけでも面白い人生になるのかも。そう思ってしまうのは漫画家としての性なのかもしれない。
――せっかく生まれ変わったのだから、最期に抱いた希望を叶えたい。
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