第10話 漫画の世界
夢を見ていた。懐かしい夢だ。
綺麗な青い髪をもつ十二歳くらいの少女が、同じ色の髪色を持つ夫婦の前に立っていた。
着ているドレスの装飾は少ないが、質のいい布を使っているのは見てわかる。
「ヨウ。よく来てくれた。今日は大事な話があってだな……」
その少女の名前はヨウ。
父親と兄から可愛いと育てられた彼女は自由奔放だったが、あるときから大人びた態度を取るようになった。
「最近領地の不作が続いているのは知っているな?」
「はい。ここ四年ほどでしょうか。不作が続いていて、お父様の帰宅も遅くなっているので心配しております」
小さい領地を収める男爵家であるヨウの生育家。代々と優しい領主のおかげで民からの人気は高いが、最近では領地で自慢の野菜などが不作に陥ってしまい、資金繰りが難しくなっている。
「私たちはヨウのことを何よりも大切な存在だと思っている。しかし……このままでは……」
ヨウの父の歯切れが悪くなる。
幸いにも兄は優秀で、この家を建て直すために現在知り合いの家で見習いをしているが、ヨウを嫁に出す資金は余っていない。
そのことをヨウは知っていた。
「大丈夫ですわ、お父様。結婚できなくてもいいように手に職をと思い、知り合いの伝手を探して働き先を見つけておりましたの」
「働き先を!? どうしてそんなことを考え始めたんだ!? 最近のヨウは少し大人びていたが、まさか職探しをしていたとは……」
実はヨウはこの国の生まれではなく、日本という国で育った女性だった。二九歳のとき事故に巻き込まれ、この世界に転生した。そのことに気づいたのは少し前。高熱でうなされているとき自分の過去を思い出した。
結婚に失敗したことがあるため、結婚はもうしたくない。貴族に生まれた以上は結婚をしなければならない。しかしお金に困った貴族の嫁ぎ先はなかなか見つからない。貧困は大変だが、嫁にいけない状況はヨウには最高の状況だった。
「私の浮いた分のお金を皆のために使ってください」
あまりに予定通りの展開に笑みが浮かびそうなヨウは下を向いて唇を噛み締めていた。
「なにを勘違いしているんだ? 大事な娘を働きに出すわけがないだろう!」
「えっ!?」
「ヨウの将来のため、いい嫁ぎ先は探していた。ただその……最近お前に結婚を申し込んできた相手がいて、だな……」
「私にですか!?」
領地で自慢の野菜は他の地域でも人気だが、没落間近の我が家と結婚してまで手に入れたい貴族はいないだろう。
それにヨウは社交界の場などはなるべく出席せずいたため、異性で顔見知りの貴族はほとんどいない。
「かの有名な――」
「嘘でしょう!? あの方が私に求婚するはずないわ。なんのメリットもないじゃない!」
最初からここまでの様子を陽子は知っていた。
知っているどころではない。キャラのデザイン、台詞、設定まで全て知っている。
夢に出てきたこの世界は陽子がテンコイに連載していた作品の中で、ヨウとは陽子が仮として主人公につけた名前である。
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