第4話 なんて素敵な朝ごはん

「むうぅぅぅ〜〜〜……」


 朝食が来るのを待っている間、私は枕に顔を埋めて唸っていた。


 私……本当に異世界に来ちゃったんだ。

 いやまあ、憧れてなかったと言ったら嘘になるんだけどね?

 でもさぁ……もっとこう、『素敵なイケメンと運命的に出会って、恋や仕事に打ち込みながら晴れやかな異世界ライフ!』みたいな、主人公の肉体年齢が二十代ぐらいのを想定してたからさ……?


 そっかー……。

 幼女これが異世界ライフの現実かー……。


 ……とか何とか思ってたんですが。




「おっ、おいち〜〜〜!」

「そうかそうか! まだたっぷりあるから、好きなだけ食って良いからな、ルカ」

「あーい!」


 そんな悩みも吹き飛ぶぐらい、ごはんが美味しいかったのである……!!


 一人でうだうだ悩んでいたら、エディさんが言っていた通りに食事が運ばれて来た。

 侍女さんがテキパキとテーブルに食器を並べてくれて、「一人じゃ味気ないだろ?」と、エディさんも一緒に朝ごはんを食べる事になったのだ。


 それにしたって、魔界の料理って美味しいんだねぇ〜!

 何となくのイメージだったけど、魔界っていうからにはトカゲの丸焼きとか、ヘドロみたいなシチューなんてゲテモノが来たらどうしようかなって思ってたんだ。

 でも、実際に運ばれて来たのは新鮮なフルーツに、クリームを添えたパンケーキだったのよ!

 二十代にはちょっとキツくなってきた甘い物も、幼女の元気な胃袋なら、朝から余裕で食べられるのです……!


 ……まあ、量は子供用で丁度満腹になるんだけどね?


 モリモリとパンケーキを平らげていく私を見て、エディさんが笑いながら言う。

 因みに、エディさんのメニューはサラダとサンドイッチのようだ。やっぱり甘い物は、朝から男の人にはキツいんだろうね。


「小せぇ身体で、元気良く食うなぁルカ」

「このパンケーキ、ビックリしゅるぐらいおいちーでしゅ! フルーチュもあまくて……何のくだものかわかりゃないけど、とにかくしゅっごくおいちーでしゅ!」

「んんっ……! そ、そうかそうか。ルカが満足してくれてるなら、何よりだぜ」


 エディさん、どうして口元を手で覆って返事をしてるんだろう……?

 舌でも噛んじゃったのかな。それとも、急にむせちゃった?


「エディしゃん、だいじょーぶれすか?」


 心配して彼の顔を見上げながら言うと、エディさんは


「あ……ああ、気にすんな気にすんな! ちょっとばかし想定外の事が起きただけだからよ。それよりほら、頬っぺたにクリームが付いてるぜ?」


 テーブルに置いてあったナプキンを使って、私の頬に付いていたクリームを拭き取ってくれた。


「えっ? あ……ほんとらぁ! おちえてくれて、あいがとーごじゃいましゅ!」

「んっふ……! い、いいってことよ」


 ちょっと挙動不審っぽいところがあるけれど、やっぱりこの人は悪い人じゃなさそうだね。良かった良かった〜!




 *




 美味しいパンケーキを完食した後、エディさんはこんな事を言い出した。


「なあ、ルカ。この後ちょっと俺と一緒に着いて来てほしい所があるんだ」

「エディしゃんと一緒、でしゅか?」

「お前さんを連れて来た事を、俺の相棒……魔王ヴェルカズに伝えておきたいんだよ」


 目覚めに素敵な朝食を食べられて大満足していてすっかり忘れそうになっていたけれど、そういえばここは魔王様の王宮なんだよね……。

 そりゃ当然、同じ建物内に魔王が居ても不思議じゃないわ。

 ううぅ〜……。エディさんが言うには、そのヴェルカズっていう魔王様はめちゃくちゃ怖い人なんだよね……?


「……わ、わたち……魔王しゃまに会うの、こわいれす……」


 幼女の身体になってしまった今の私は、どこの馬の骨とも知れない小娘だ。

 そんな小娘を、いくらエディさんの判断だとはいえ、魔界統一なんてものを目指す魔王様に無断で連れ込んでいる状態な訳で……。

 もしもこの身体の元の持ち主が、魔王ヴェルカズに敵対する組織の子供だったりしたら……無事では済まないかもしれない。

 そう思うと、さっきまでパンケーキで浮かれ切っていた気分も一気に沈んでしまう。


 私が俯いて黙り込んでいると、エディさんがソファから立ち上がった。

 そのまま向かいに座る私の頭を、大きな手でわしわしと撫でてくる。


「ふわっ!? え、エディしゃ……?」

「大丈夫だよ、ルカ! ヴェルカズと何百年も一緒に居る俺が見込んで連れて来たお前の事を、アイツが気に入らないはずがねえさ!」

「そ、そうなんれすか……?」

「ああ。このエディオン様の言う事に間違いは無えよ」


 だから安心して着いて来い、とエディさんは笑った。


 ……そう、だよね。

 こんなに優しいエディさんと何百年も一緒に生きてきた魔王様なら、怖いだけの王様じゃないのかもしれない。

 もしかしたら、顔がとんでもなく怖い人ってだけかもしれないしね!


 ていうか、やっぱり魔界で生活している人は、人間とは寿命が違うんだね?

 そうなると……魔界の森で倒れていたこの身体の持ち主も、人間じゃなくて魔界の人だったりするのかな。悪魔とか、魔族とか?


 そういえば、何だか気になる夢を見ていたような気がするんだけど……。


 うーん……全然思い出せる気がしない!

 また今度同じ夢を見られたら、しっかり覚えておけるように頑張ろう。


「……あい! わたち、エディしゃんをしんじまちゅ!」

「へへっ、ありがとな。……よし。そんじゃあ迷子にならねえように、手ぇ繋いでおこうな」

「あーい!」

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