元最強魔剣士に転生しちゃった。～仇を追って旅に出る～

一章 ジンディオールの復讐編

第1話 プロローグ

　私は死んだ。歩道橋から転落して、その場で息（いき）絶（た）えた。

　それが私の最期（さいご）の記憶（きおく）だった。

　だが、次に目を開けた時、私は真っ白な空間にいた。

「ここはあの世とこの世の狭間（はざま）だよ。」

　声の主は、幼女（ようじょ）の姿をした神さまだった。名をエルルさまと仰（おっしゃ）るのだそうだ。

「それってまさか…。」

「うん。残念だけど君はもう…。」

　私は、どこにでもいる平凡（へいぼん）な中年サラリーマンだった。

　それは宴会（えんかい）の後、飲みすぎた部下の瀧本（たきもと）を送る途中のことだった。

　歩道橋から足を滑（すべ）らせて転落しそうだった彼女を助けようとして、私が誤（あやま）って転落して死んだのだ。

「あの、瀧本は？」

「ああ。彼女は君のお陰で助かったけど、結局その数日後に交通事故でね…。」

　私は肩を落とした。

　命がけで彼女を助けたが、結局彼女を救えなかったようだ。

　つまり、私の死は無駄だったのだ。

「まあ、そういうこともあるさ。でも、君はこれから『ゼルタルンド』という世界に行くんだよ。君の好きな剣と魔法が存在する世界だ。元気出しなよ。」

「まさか…ラノベみたいな異世界なのですか！？」

　私は女神さまの言葉に激しく反応した。

　唯一の趣味と言えば、異世界ラノベを読むことだったからだ。

「ま、まあね…。なんだかやたら圧（あつ）が凄（すご）いわね。そういえば君はラノベ好きだったでしょ？」

　女神さまは、私の心の声を読んでいるらしい。

「君の希望は叶（かな）えたし、ボクはもう行かなくちゃ。仕事がまだまだあるからね。」

「あっ、待って下さいよ！よく特殊（とくしゅ）な能力の付与（ふよ）とかあるじゃないですか？そういうのは？」

「ああ。忘れてたよ。じゃあ、パパっとね！はい、おしまい。」

　女神さまは、私の額に指を当てた。

「え～！？それではあまりにも適当（てきとう）なのでは～！？」

《シュンッ！》

　次の瞬間、私は真っ白な空間から消えていった。

「バイバイ！ジンくん。頑張りなさい…。」

　女神さまは、私の後を見送りながら、ひとりつぶやいた。

「君には、『最強魔剣士』だ（・）っ（・）た（・）男の肉体と、ボクの『加護（かご）』を与えたよ。でも、だからと言ってそれが君の幸せになるとは限らないよ。君は、この世界で何を求めるのかな…。」

　そして、彼女も真っ白な空間から姿を消したのだった。

◇　◇　◇

　風吹迅は、『ゼルタルンド』という異世界に転生して『最強魔剣士』だった男の肉体を得ることになった。

　その肉体の持ち主は裏切り者に命を奪われ、生涯を終えた。

　しかし、女神の力によって蘇生され、新しい魂の宿る器として再びこの世に生まれ変わった。

　その為か、迅はその男の記憶を僅かながら引き継いでいる。

　迅はきっと、彼の無念（むねん）を晴（は）らすことだろう。

　そんな風吹迅の新たな人生が幕を開けようとしていた…。