37:第二の師匠

 俺を指さし、ギャーギャーとわめく牛頭。文句は言うが、大斧を投げつけてきた攻撃地点からは一歩もこちらに近付いてこない。いや俺に対するソ-シャルディスタンスがエグいわ。なんで人間の俺がモンスターにドン引きされてるんだよ。


 そしてもう一頭。

 俺の下敷きになったまま、ただただ泣きじゃくる馬面……じゃなくて馬頭。

 声と体長だけ抜き取れば完全に幼女だが、顔は完全に馬だ。ウマムスメだ。

 こいつに関しては一切の反撃もなく、ただブルブルと震えている。

 

 ……可哀想だとは思わない。

 なんなら一度ぶっ倒して、もっかい攻略をやり直してもいいくらいに思っている。モンスターに変質者扱いされるとは……く、屈辱……!

 ……まあでも、今回でようやく会話が成り立つと発覚したんだ。

 もうちょっと、コミュニケーションでも取ってみようじゃないか。

 ウマムスメは怖がってるから、ウシムスメに声を掛ける。


「いいか。言っとくけどな、俺は変質者じゃない! わかったかこのクソガキ! いいから俺の話を黙って聞けっ!」


「わーわー! 話しかけてきたあ! キモ! キモい!」


「自分どのツラで言ってるかわかってるう!? 殺すぞ!?」


 牛にキモいって言われたああああああああああああああああああ!

 そして、俺が強い言葉を使ったのが余計に牛頭の対抗心を燃やしてしまった。ありとあらゆる罵詈雑言が俺へと向けて降り注ぐ。


「お前が死ねよ! お前が! なあ! わかったお前ケモナーだ!! ケモナーだろう!? なあケモナーだろお前! なあ!」


「ちげーわ!!! 仮にそうだとしてもお前らで欲情するかバーカ!」


「じゃあなんでずっと馬頭に抱きついてんだよお前死ねよ!!!」


 ――あ。

 そういえばずっと倒れ伏したまま問答してた。いやこのくらいの目線が丁度いいんだよこれが。こいつも反撃してこないし。俺にとっては丁度いい座布団だった。

 だが馬ヅラ趣味のケモナーだなんて誤解されるのは心外だ。早々に立ち上がる。


「ひっ! う、うわーんごずー!」


「馬頭! 大丈夫!? 変な事されなかった!?」


「するわけねーだろ家畜め」


「ああん!?」


「私のたてがみ! さわさわされてたの! ずっとたてがみ! さわさわしてたの! どう思う!? ねえ牛頭! どう思う!? 酷いよね!?」


「お前は黙ってろウマこらァ!!!」


 家畜発言にまたも牛頭が怒声を張る。馬頭も、俺から離れられたことで少し落ち着いたのか、キっとこちらを睨んである事ない事叫んでいた。たてがみは触ってたけど。


 しかし、どうする?

 ファーストコンタクトは最悪だ。やっぱもう一度最初からやり直すか?

 いや師匠を見るに、こいつらは再度挑戦するとしても、前回の記憶を引き継いでいる。こいつらの性格的に、また同じ状況になるよなあ。

 ……積んだ?

 こいつらを完全に攻略することは叶わない?


「……はあ。なんだよ。俺は、お前たちには、全力で戦ってほしいだけなのに」


 ぽつりと呟く。

 それが、流石は馬と牛。奴らの耳にも届いていた。


「失礼なこと言うなー! 殺すぞニンゲン!」


「そうだそうだ! ウチらはそもそも、お前らニンゲンをぶち殺したい黒の衝動を抑えることができないからいつも全力だぞ!」


 すっかり二対一の構図となったが、先ほどとは話の趣旨が変わった。

 いつも全力だと? そりゃそうだろうが、俺が言いたいこととは、ニュアンスが違う。


「全力とがむしゃらは違うぞ? どれだけ力を振り絞っても、攻撃が当たらなければ意味がないだろ」


「な、なにをー!?」


「うぐぐ……!?」


 正論一発で何も言えなくなる二頭。レスバはやはり人間様の土俵だ。家畜が敵うと思うなよ。意気揚々と言葉をつめていく。


「だから、力をコントロールするんだ。わからないか? 俺の言ってること、そんなに難しいか?」


「しょうがないだろ! お前らニンゲンを見てると、すぐにでもぶち殺したくなっちゃうんだよ!」


「はあ……師匠はそれができてたけどなあ? 10Fボスのスケルトンキングの方が、やっぱり優れているってことか」


「ムキー! それ本当にムカツクからやめろよ! ウチらの方が強いもん!」


 牛頭はもう顔が真っ赤っかだ。馬頭は馬ヅラの三白眼が血走ってて普通に怖い。

 だけども見た目の圧力に屈するわけにはいかないので、トドメとばかりに、核心を突く!


「それ、骨の状態の場合だろ? 【受肉】した真の姿の師匠と戦えばどうなんだよ? てか、俺が師匠って言って、それがスケルトンキングだって伝わってる時点で、【受肉】師匠のことはやっぱ知ってるんだよな? どうよ? 勝てるか? 無理だろ? てか何回もここ通ってるけど普通に負けてたじゃんお前ら」


 まくしたててやった。へへんだ。ぐうの音も出まい。

 食肉風情が、あまり人間様を舐めるなよ?


「……もん」


「はあ?」


「……のが……つよ……もん……」


「なんて?」


「それでも……うちらのが強いもん!」


「よしわかった! そこまで言うなら試してやる!」


 よしよし。その負けん気。勝ち気。魂の訴え。

 それが欲しかった。

 だとすればこいつらには……可能性がある。


「へ?」


「お前らの力を最大限引き出せるように、俺がお前らに、人間との戦い方を教えてやる! 今日から俺は――お前らの師匠だ!」


 決めたぞ。俺は――!

 裏ダンジョン20Fのボスモンスター。この二頭を、必ず強くしてみせる!

 こいつらの可能性を、俺が引きずり出す!




「絶対にいやだあああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 二頭の泣き叫ぶ声が、ボスエリアに末永く木霊したのだった――。




「ちなみに拒否ったところで毎日ここに通うから、実質お前ら拒否権ねーぞ。だから遠慮せずに教えを乞いなさい! はーっはっはっはっはっは!」


「最悪だあああああああああああああああああああああああああああ!!!」

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