35:師匠心配
師匠がいなくなって、三日が経った。
スマホを持たせてるのに一切連絡もない。まさかダンジョン内でやられてしまったなんてことはないだろうが……なんか【ボスモンスターの威厳】なんてチートすぎるエネミースキルも使ってたし、まずダンジョン内は無敵だろうしな。
いや、モンスターを従えられるなんて、ダンジョン探索における最大のアドバンテージだぞ。きっと何か裏がある。結構キツめのデメリットがあるのかもしれない。その隙をつかれれば、師匠だってまさか……?
こんな考えが、あの日からずっと、俺の頭の中をぐちゃぐちゃに搔き乱すのだ。
学校にも行けてない。
今日は気晴らしに街に出てみたものの……フラフラと足がおぼつかない。
このままじゃ俺は歩く障害物だ。いろんな人や物にぶつかりながら、俺も痛いし。
なので腰を下ろせる場所で、今はただぼーっとしているのだった。
「ダメだ。気になりすぎる。何も手につかない」
どこにでもあるカフェ。ただぼけーっと行き交う人々を眺めながらつぶやく。
このまま何時間でも居座っていられる。というか、動き出す気分になれない。きっと閉店と言われて引きずり出されるまでただこの席に陣取って、石のように動かないだろうという、確信めいた予感がしている。
唯一、コーヒーの苦さが俺を一時的に正気に戻してくれていたのだが、既にその黒い液体は全て胃の中に納まってしまっていた。たまに氷が解けた残り汁をズゾゾと啜って、なんとかコーヒーの余韻で意識を保っている。
だけど余韻だけじゃもう……。
「あ、ヤバっ。すみませーん! コーヒーおかわりくださーい!」
そんな折、正面に座るもう一人が、気を利かせて俺用のコーヒーを注文してくれた。これで何度目か。本当に、ありがとう。……ギャル。
――え? ギャル?
「あれ? 萩原の彼女? なんで?」
「うっすー。てか、今更? ヒドくない? ウケる」
そういえばさっきから俺のコーヒーのおかわりをしてくれていた。全然気にしてなかったが、まさかギャルだし、彼氏持ちだ。こんな状況萩原に見せられない。
いや居るわ。萩原居るわ。
俺の隣に座ってたわ。びっくりした。
「よ。目、覚めた?」
「状況が理解できないけど、意識はハッキリしてるよ……」
「んとさー。たまたま見かけたらなんかボヤボヤしてるからさー。ほら、あんたウチの推しじゃん? 心配だからカフェに隔離したの。んで、ずーっと眺めてた。目の保養ゴチでーす」
彼氏の前で気まずいこと言わんでくれる? 反応の仕方わかんねーのよ。
ちらりと隣の茶髪に目を向けると、なんとも涼しい顔でキャラメルマキュアート飲んでる。
ストローから口を離して、俺を見る。
「カズキ。俺も、お前のこと応援してっから。……芒野こっこの配信で見たけど、お前の師匠、ダンジョンから帰ってきてないんだって? 心配だよな。俺だってこいつが……好きな人がダンジョンから帰ってこないなんて、考えたくもない。お前がそこまで腑抜けになっちまうのも、分かるぜ」
「萩原……」
「はー。ウチの好きピ、カッコヨなんですけど」
そうか、こいつら、わざわざ俺を励ましに来てくれたってことかよ。マジで嬉しい。
ついこの間まで、ただのクラスメートでしかなかったのに……今じゃ、憔悴しきったず俺にずっとついてくれて……。
ありがとう。萩原。そしてギャル。
――ちょっと心配の方向性違うけど、その気持ちが嬉しいよ。
だって俺、別に師匠がダンジョンから戻らない事なんて、マジで気にしてねーんだもんよ。
俺がこの三日間、何をやるにも上の空だった理由は――!
断然!
宝箱の中身が気になり過ぎるからだからなッ!
もう師匠なんて宝箱の中身を持ち逃げした戦犯だから!
その上、俺にMPKかましてきた邪道犯罪者だから!
ダンジョンから帰ってこない? ふざけんなさっさと帰ってこい! 帰れない状況に追い詰められているっていうなら……!
むしろ! ざまぁ! だから!
反省しろバカ師匠!
唯一の心配は、師匠が死ぬ……なんてことは絶対にあり得ないし既にその項目は除外してる。
それよりなにより、仮にモンスターに追い詰められた師匠が、うっかり宝箱に入ってたアイテムを落としてきちゃうこと!
マジでそれだけが心配! 心配過ぎて何も手につかない!
俺の宝箱の中身は何だったんだ!?
しっかり保管しといてよ師匠!? 落とすなよ!? あとできれば傷とかもつけないでほしいなあ!!!
でも一番最初に宝箱の中身に触るのは絶対に俺だったよなああああああ!?
心残り過ぎて悔しい! こっこを呼ばずに開けていれば……いやこっこの配信でも、表ダンジョンで見つけた宝箱をさも興味なさげに開けていたし、その時の師匠の反応から、しっかり注意を促しておけば、こうはなっていなかったはず……!
ぐおおお……! 悔やまれる!
宝箱を見つけた前後の行動すべてが悔やまれる……!
「――おい、カズキ、おい!」
はっ――!
しまった。また目の前の世界が空虚すぎて、意識をシャットダウンしかけてた。コーヒーコーヒー。うん、苦い。
さすがに、萩原とギャルが心配そうな顔になっていた。
すまん。でも、俺のことをこんなにも心配してくれる人が、家族以外にもいるって、すげぇ心の力になるよ。
「ごめん、二人共。でもありがとうな。おかげで、マジで心が軽くなったわ。いつまでもウダウダしてたって、何も解決しないもんな。おかげで、俺が今、何をしなきゃいけないのかって方向性、見えてきた気がするわ」
「ま、何かあったら、話しくらいは聞くぜ。俺にはそれしかできないしな」
「ウチもちからになるし!」
感謝の印にケーキをおごって、二人とはわかれた。
早速家に帰り、まだ少しボーッとするけど、だんだんとやることが定まってきたので、後はそれを行動に移すだけだ。
つまり、俺に出来ることは結局、直近の課題をクリアするしかないってことなんだよな。
「まずはクリスマス。こっことの勝負に勝つ!」
だけど今のままじゃ勝てないのはわかる。こっこは強い。
だから――特訓だ! クリスマスまでに、必ずレベルアップしてみせる!
「さあ、腹は括った。だが生憎、師匠は行方不明……だとしたら、一旦初心に返る。俺には、新たな師匠が必要だ」
と、いうわけで。
相手になってもらうぜ。30Fボスモンスター!
俺の踏台となれ!
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