32:バトル勃発!!!

「どういうこと?」


 裏ダンジョンの1Fで、こっこが目を吊り上げて俺を睨む。

 人差し指で目じりを押し上げて、物理的な力でに吊り上げている。怒ってるぞアピールだ。かわいい。


 どうして怒っているのかと言えば、まあ……俺が、生配信で、こっこのパーティー結成を邪魔したからに他ならない。

 せっかくのパーティー名を決めるイベントもお流れになり、俺の高校はなんかイヤなムード。俺はいたたまれずにそのまま帰ったので、後のことは詳しく知らないが、それでもこっこは持ち直して、握手会とか始めたりして、場を収めたようだ。


 俺のスマホには現在、メッセージが鬼のようにあふれている。

 相手方はクラスメイトの連中だろうが、今日の出来事に対する文句とかだろうし、見たくない。


 そして、目の前のこっこ。

 彼女は間違いなく、これから文句を言ってくる。

 直接言ってくれる方が、観念できるし、むしろ助かるが……。


 ……これから、俺が一方的に文句を言われる流れって、違うくないか?

 だって俺、一回もパーティーを組むだとか、今日のドッキリだって、まあドッキリなんだから打ち合わせがないのは当然だが、俺の完全なプライベート空間である学校に来られるのだってめっちゃ困ったわけだし、それについて、何か一言でもあってよくないか?


 というのを話してみた。


「それは誠にごめんなさい」


 こっこは易々と土下座した。よし。じゃあここからが本題だな。


「俺も、こっこの気持ちを汲んでやれずに、皆の前で恥をかかせてしまった。本当にごめん……」


 俺も、頭を下げるこっこと同じ姿勢をとって、謝罪した。

 マジで申し訳なく思っているんだ。だから自然と、ダンジョンのごつごつ地面に、素直に手を付けた。

 痛いな……。手の平も膝も……。


 ……いやこいつ、そういえば最初寝てたよな?

 すげぇな……。


「うわ! カズキが土下座してる! どうしよう、撮りたい!」


「大炎上するからやめとけ」


 さて。互いに、今回の件については頭を下げた。俺たちは、一切の気兼ねのない、フラットな関係に戻った。

 仕切り直しだ。

 こっこも、先ほどよりもどこか清々しい顔つきで、改めて、要件を訪ねた。


「それで……どういうことなの? 私とパーティーは組みたくない? カズキにとって私は……邪魔? 足手まとい?」


「断言する。足手まといなんて、思ったこともない。俺はこっこを尊敬しているし、いつも、関心させられっぱなしだ。ダンジョン攻略も、こっこのおかげで道が開けた。本気の師匠とも戦えた……。俺一人じゃ、未だに足踏みしていただろうな」


「じゃあ……なんで?」


 こっこの顔が赤くなって、目がウルウルとしてきた。

 俺の言葉に、そこまで感銘を受けてくれるか。やばい、俺も込み上げてくるものがある……。憧れのこっこが、俺なんかに……。

 だが、俺は男の子。ぐっとこらえて、こっこと向き合う。


「こっこが好きだから」


「ほえ!?!?」


 本心を伝えると、こっこは途端に頬を染めて、飛び跳ねた。

 ……あいや、今の発言には語弊があるな。本心だが、意味合いが違うというか……いや好きなのは事実だが……。


「二年前……こっこがまだ表ダンジョンの低層に居た頃から、俺、配信見てたんだよ。すげぇなって思った。一人で頑張っててさ。……憧れたよ。俺も、芒野こっこみたいになってみたいって思ったから、ダンジョンに潜り始めたんだ。小遣いはたいてヘッドセット買って、そしたら、父さんが『誕生日祝いだ』ってダンジョンTPトランスポーター送ってくれてさ。ははは、全然誕生日でもねぇのに」


「……え? ちょっと待って。そのTPって、カズキのお父さんがプレゼントしてくれたの?」


「え? うん」


「直接、裏ダンジョンにダイブできるTPを? あなたのお父さんが……?」


「……へ?」


 そういえばこれ、父さんが送ってくれたやつだった。

 裏ダンジョンの直通TP……。

 なんで父さんがこんなものを持っていたんだ……? というか、知ってて俺に渡したのか? それとも偶然……?


「まあ、いいや。そんなこと」


 なんか深刻な話に繋がりそうな流れだったのに、こっこはあっさり切り捨てた。

 そんなことか。まあ、そうか。別に俺が死んじゃったとか、何か重大な事態になってるわけじゃないしな。

 そもそも、表ダンジョンでも人は死ぬ。

 結果論だが、俺は生きてるし、そのおかげで、こっことこんなにも近しくなれた。


 父さんがなぜ裏ダンジョンTPを俺に送ってきたかなんて、今現在、大した問題じゃない。そんなことだ。悩みの種を一瞬で何でもないことにした。流石はこっこだ。


 そう。そんなことより、今はこっこだ。


「私のこと好きだって言うけどさ。憧れてるって言うならさ……どうしてパーティー組むの嫌なの? 意味わかんないよ?」


「いやあ……これ、たぶん言ったらキレると思うんだけど……言わないと、納得してくれないんだろ?」


「大丈夫。怒らないから、言ってみて?」


「怒る人しかそれ言わないんだよなあ……」


 まあ、観念するか。

 俺がこっことパーティーを組みたくない理由。それは……。


「最近気づいたんだけど、俺自身、『カズキアンチ』っぽいんだよね。こっこの配信に俺が出ると、なんかもやもやするし、こっこの攻略が見たいのに、こっこは俺に忖度してる感じがするし……だから、せめて配信でカズキと絡むのやめね?」


「ええ……リスナーとして配信内容に口出すのやめてほしいわあ……」


 わかる……。俺も指示厨とか勘違い彼氏面リスナーみたいなことはしたくないんだが、こんな気持ちのまま、こっことパーティーを組むなんて、あり得ないんだよ。


「カズキが私と組みたくない理由はわかった。でも、私だって、パーティーを組むのは誰でもいいわけじゃない。カズキと、お姉さまだから……決断したんだよ。それをハイ分かりましたで済ませたくない」


 これには、こっこも引き下がらない。

 そして、二人とも、行きつく答えは、同じものだった。


「じゃあ……決着をつけよう。こっこ」


「私も思った。—―コロシアムで勝負しよう! 負けたら、勝った方の言うことに従うこと! いい!? 決闘だよ! これは! パーティーのリーダーを決める戦いでもあるし、本気で行くからね!」


 こいつ、こっこめ。

 パーティーのリーダーって、それ、自分が勝つ前提で話してやがる。

 これでこそこっこだ。嬉しいね――!

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