31:二人の外れた頭のネジ

 突如学校に現れた芒野こっこに、全校生徒は大盛り上がり。

 いつの間にか、こっこが所属している事務所のカメラマンも複数個所から撮影していて、何やら、思った以上の大イベントが始まってしまったようだ。

 いやどういうつもりだよ。こっこさん?


「みんなー! ダンジョン配信は好きかーい!?」


 マイクで大声で、とても通る良い声で、こっこは全校生徒に呼びかける。

 打ち合わせなんてあるはずもなく、そんな問いかけと共に急にマイクを向けられた全校生徒は……途端に弾けた。


 イエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエイッッ!!!


 地鳴りがした。青春の大合唱だ。

 こっこの凄さは、十分に理解していたつもりだが……。改めて、思い知らされた。

 学校一つをあっという間に飲み込んじまうほどの影響力――!


「えー、皆も知っての通り、私、芒野こっこと、この学校に在籍しているカズキくんは、今、裏ダンジョンを探索しています。しかもカズキくんは、学生と冒険者の二足の草鞋で活動中です」


 こっこがダンジョン探索においての、俺との出来事を独白してく。

 初めての出会いは、ゴブリンに殺されかけた時だったとか。俺のこれまでの経験による情報があったからこそ裏ダンジョンでも比較亭すいすいと階層を進んでいくことができたとか。聞いてると、過大ともいえる評価に、むずがゆくなってくる。


「それでさ。たぶん、カズキくんも同じ考えだと思うんだけど……。そろそろ、本格的に、次のステージに登りたい。そう思ってるの」


 ドキッとした。

 まるで、心の中を見透かされたような気持ちになった。

 その通りだ。こっこ、お前も俺と同じ気持ちだったなんて、マジで……心がはやる。泣きたくなるほど、顔が熱くなる。


「だから、みんなー! これからも私たちを、応援してくれるかなー!?」


 割れんばかりの大喝采。前も隣も、生徒がわらわらと俺に集まってきて、なんと、胴上げなんてしてくる始末だ。

 これがこっこなりのエールの送り方なのだ。俺の決意をさらに熱く燃やしてくれる応援歌だ。


 ありがとう、こっこ。

 お前、やっぱ最高だ。

 ファンでよかった……!


「みんなありがとー! ありがとー! 本当に、嬉しいよー! あーん、泣きそうー!」


 鼻っ柱を赤くして、マジで泣いてるこっこが涙を拭ったあと。

 もう一つ、提案をしてきた。

 この学校にやってきた、もう一つの趣旨だった。


「それでね! それでね! みんなに今日は、もう一つお願いがあってさ! ……私たちの、パーティー名を、大大大募集しちゃいまーす!」


 ……え?

 パーティー名?


「ここで決まった名前を今後、私とカズキと、お姉さまも! 名乗っていきたいと思うから、カッコイイ名前、どんどん待ってまーす! さあ、何が出るかな!? 何が出るかな!?」


 いや聞いてない聞いてない。サプライズだから俺に言ってるはずないんだけども……。いやいやいや、だってそもそも……。


「え? 俺たち、パーティー組むの?」


 胴上げを降ろされた俺の声は、すぐにこっこに届いた。


「あったりまえじゃーん! 私たち、裏ダンジョントリオでパーティー組んで、あっという間に裏ダンジョンを攻略しちゃおうよー! 期待してるよ! カズキ!」


 突拍子もなさすぎて、考える事もできずに、反射的に、俺の口は言葉を紡いだ。


「……え、嫌ですけど」


 こんなにもいる生徒が、一斉に静まった。

 ……時間停止してるんじゃないかって思った。







「はーい! こんにちはー! こんにちはー! 芒野こっこでーす!」


──【コメント】—―

『待ってた』

『乙』

『昼間から配信珍しいねどしたん?』

『突発でやんなし! たまたま見てたから来たけど!』

――――


「あははー、ごめんね! でもでも今日は、どうしても、配信するって知られたくない人物がいたんだよねー。彼にサプライズで、今配信回してる最中なんです! いえい!」


──【コメント】—―

『誰?』

『ドッキリ企画?』

『お、コラボ誰だろ?』

『サトチーかな?』

『渡部ケンじゃね? あいつドッキリ定番じゃん』

『炎上系のヒデヒロかモノマネ配信のカガリに本人登場制裁かますとか?』

『え? この時間帯のリスナー初見しかおらんの? こっこがここまでする人物って一人しかいないだろ……』

『リコピン?』

『知ってるよバーカ。みんな知っててあえて外してんだよ』

――――


「はいはーい! 喧嘩しないでねー! まあ……みんなもうわかってると思うけど、はい! 正解! あの人です! 今回の配信を隠してた理由はカズキでーす! 実は今! カズキの学校に潜伏してるところなんだよー! みんな、カズキには内緒だよー!」


──【コメント】—―

『はい事案発生です』

『お巡りさん早くきてー!』

『ストーカーかな?』

『怖すぎて笑えない……』

『草』

『カズキ逃げてー!』

『もしもしポリスメン?』

――――


「やめてー!? 通報しないで!? 今回、校長先生にきちんと許可をもらってるから! 説明したら快諾してくれたからー!」


「孫がファンで、儂もいつも見てます。こっこさん、この度はわが校の取材に来ていただきありがとうございます。どうぞよろしくおねがいします」


──【コメント】—―

『取材?』

『ちょっとニュアンス違くない?』

『大丈夫? ちゃんと話通ってる?』

『だましてて草www』

――――


「だましてないよー!? ねえ校長先生! さっきお願いしたことも、きちんとわかってらっしゃいますよね!?」


「ええ、ええ、わが校の生徒を激励してあげたいとか。いいことじゃないですか。で、わが校は150年の歴史がございましてね……」


「あっあっあっ! 校長先生! その話はまた後でお願いします! 今は先に、イベントを開始しますので! どうか!」


──【コメント】—―

『隙あらば学校語りとかさすが校長先生』

『あまりにも早い話題変更。俺でなきゃ見逃しちゃうね』

『校長我が強すぎるんよ!』

『こっこたじたじやん草』

――――


「はいわかりました。では全校生徒を校庭に集めましょうね。校庭には50本の桜の木が植えてありまして――」


「はいありがとうございます! では私は持ち場に待機してますね! では! さあみんなも一緒に行こうー!」


──【コメント】—―

『草』

『くさwww』

『おじいちゃんの話きいたれやwww』

『こっこのチャンネルに出てくる人たちみんなキャラ濃いんよwww』

――――




 ――そして時は過ぎ、カズキの一言が、いつにも増して大炎上を引き起こした――。


「あったりまえじゃーん! 私たち、裏ダンジョントリオでパーティー組んで、あっという間に裏ダンジョンを攻略しちゃおうよー! 期待してるよ! カズキ!」


「……え、嫌ですけど」


──【コメント】—―

『は?』

『え?』

『まじかこいつ?』

『うそでしょ』

『え、まさか……マジ?』

『というと、もしかして……こっこ?』

『おいこっこ、もう何度目かもわからんけど、またやらかしたぞ!』

『こっこフラレたああああああああああああああ!!!!!!』

『うわあああああああこっこ撃沈!!! てかカズキこの状況で断れる!? 頭どっかオカしいぜ!?』

『こっこ玉砕いいいいいいいいいいいいいいいい!!!』

『またフラレたああああああああwwwwwww』

『カズキこっこのことガチで嫌いか!?』

『空気、悪っ!!!!wwwwww』

『うぎゃあああああああああ!!!ツラすぎてもう見てらんねえwww』

『こっこ泣いた!?』

『泣いた! こっこ泣いた! とうとう泣いちゃったああああ!!!』

『カズキひどすぎちょっとないわ……』

『カズキまじか』

『調子乗んなよカズキ』

『さすがにここで断るのは男じゃねえわカズキ最悪』

『いやこっこでしょ押しかけ女房して迷惑してんだよ』

『学校に突撃したこっこもヤベェけど、カズキもやっぱどこかオカシイわ……』

『いやこれ……この後マジでどうなるん?』

――――




 —―そして二人は、今日もまた、裏ダンジョンで顔を合わせる。

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