29:表ダンジョン攻略RTA! FINAL〜そして伝説へ〜

 ……あ、再開した。

 SNSでも芒野こっこ公式アカウントが声明を出していたが、サーバーへの負荷が急激にかかってしまったために、配信サイトのAIがサイバー攻撃だと誤診。自動的にフリーズさせてしまったとのこと。

 復旧は今日のものにならないらしい。


 なので急遽、サブチャンネルでの配信を開始したのだった。

 こんな時のために用意していたという、まだ一度も使われた形跡がないチャンネルには、すでに500万人以上も登録されている。もちろん俺も、サブチャンネル開設日から登録済みだ。


 待機画面のカウントダウンがゼロを刻み、次の瞬間、モニター越しに、三十分ぶりのこっこと師匠が映し出された。


「—―でね。カズキったら、『師匠は俺が守るよ』だなんて言うのよ。今までさんざん、妾を殺し続けてきた男がそれを言うのよ? ……かわいくない?」


「えー、カズキって、さらっとそんなクサいセリフ言えちゃうんだ……。ヤバ、めっちゃカッコイイー! あーカズキのこと、ほんと好きだなあー!」


――【コメント】――

『は?』

『は?』

『お前一回フラれたじゃねーか』

『こっこ?』

『カズキ〇す』

『もうファンやめます』

『お前ら付き合ってんの? じゃあ師匠に告白したのなんなんだよカズキおい』

『再開早々爆弾発言してんじゃねーぞ!』

『は? マ?』

『カズキ〇す』

『学校で会いましょう』

『二人とも最強だから実力行使もできねえんよ』

『そういえばカズキも普通に最強なんわすれてたわ』

『いやでもカズキ許さん』

『カズキ〇す』

――――


 ……こっこさん、何をおっしゃるんですか?

 お前それ冗談で言ってるんだろうけどな。こっこファンには多分にガチ恋勢がいることも忘れないで……主に俺のリアルが脅かされることになるからね?

 現に一回脅かされてるからね?

 物騒なコメントもべらぼうに散見してるしさぁ……。


「あ! え!? もう始まってる!? うっそー! こっちは今カウントダウン終わったんだけど……ちょっとサブチャンネル、ラグ大きくない!?」


「あらあら、凄いコメントね。このままじゃ、またフリーズしそうね」


「うわー! ごめんねカズキ! べっ別にそういう意味で言ったんじゃないんだからね!? 友達として好きって意味で……! あー恥ずかしー! 顔あっついー!」


 何を暢気に、二人とも……。

 コメントも俺のことを茶化したり批判したり普通に暴言浴びせてきたり、これじゃあ体のいいネットのおもちゃだ。

 明日、学校休もうかな……。


「えーまあ、一旦カズキの話は置いといてー。……ごめんなさい! 実は配信止まってる間に、49Fまで攻略し終えちゃってましたー! 本当にごめーん!」


 なにっ!? てっきり39Fでストップしたままかと思ってたのに、じゃあ後は、最後の50Fのボスだけってことか!?

 コメント欄にも驚愕の声がひしめいている。


「RTAって銘打ってるから、ついつい最速攻略目指さなきゃって思っちゃってそのまま進んじゃったの! だけどせめて50Fだけは配信中に攻略しようと思って、サブチャンネルがスタートするまで待ってたんだけど……あ! もちろん、私は一切手を出してないからね! まあここまで見てくれたみんななら、お姉さまの力があればこれくらいわけないよねって、わかるよね!?」


 言わんとすることはわかるが……まあこのハプニングとドタバタが、生配信の醍醐味だよな。ただ、師匠の攻略を全部見れなかったのが残念ではある。

 今度、裏ダンジョンで、こっこに師匠の雄姿を熱弁してもらわなきゃな。


 大半のリスナーもそれには賛同するものだった。一部、やはり公式記録じゃないとか不満を言っているようだが、すぐにログは暖かいコメントで流れて消えた。

 冷めた熱も、だんだんと温まっていくのを感じる。

 画面越しにでも、鼓動が聞こえてくるようだ……。


 それはこっこや師匠のものじゃない。

 彼女たちの興奮ももちろんだが……やはり、俺と同じように、モニターにへばりついてみている数百万の視聴者たちの、とめどない期待の鼓動をかんじるのだ。


 表ダンジョン、二人目の覇者の誕生――!

 その驚異的な瞬間に立ち会えることの興奮が、灼熱を帯びて、二人を叩いている。

 俺も今回ばかりは、そんな観客たちの一員だ。

 さあ、機は熟したぞ――!

 これ以上、焦らしてくれるな!


「よーし、それじゃあ……! いっくよー! お姉さま! がんばってー!」


「ええ、頑張るわ。ありがとう、こっこちゃん」


 あ、あとそれから、みんなも応援ありがとうね。


 師匠はそう付け加えて、50Fへと向かった――。




 ――待ち受けるは、紅鱗に覆われし巨躯をもたげる、漆黒に捻じれた二本角のドラゴン。

 表ダンジョンのラスボス。

 すげぇな。こっこはこんな巨大なモンスターを倒して……裏ダンジョンにやってきたのか……!

 師匠は……勝てるのか!? 大丈夫だろうな!?


「――エネミースキル【赤よりも紅い朱マジェンタ・マジェンタ】」


 スキルの詠唱と共に炎が湧き上がり、師匠の双肩からは、炎の腕と、炎の曲刀が出現した。完全に、しょっぱなから本気モード。師匠は勝つつもりだ。当たり前だ。そのために来たのだから。




「――いけ、師匠!」


 画面に向かって、師匠に声援を飛ばした。

 すると師匠は、はっと振り向き、赤い双眸が俺を見る……ような気がした。にこりとはにかみ、褐色の表情が、かわいらいく緩んで、それから師匠は瞬く間に消えていった……。縮地にて、接敵したのだ。師匠の怒号と曲刀が織りなす大合唱を、カメラは数テンポ遅れて捉えた。

 赤い炎が師匠を消し炭にせんと孟け狂い、鋭い爪が師匠を切り刻まんと迫る。


 そんな、一瞬でも気を抜けば死に直面する場面で、師匠は、なんともゆるやかに笑ったのだ。

 呆然……。俺は、さっきまでとは別の感情に、心臓が激しく叩いているのを感じた。


 やっぱ好きだわ。師匠……。




――【コメント】――

『今師匠、俺に笑いかけたんだけど。好き』

『師匠俺にだけわかるように微笑んだよね? え? 俺告白されたの?』

『やばい。今確信した。私、師匠にガチ恋だわ』

『師匠何あの笑顔好きすぎるんだが』

『惚れた』

『こっこのファンやめて師匠のファンになります!』

『あー好き』

『あんなんずるいわ可愛すぎる』

――――


 なお、リスナー全員俺と同じになってた。




 ――そして、五分後。

 長かった……いや、時間だけで見ればほんとうに、一瞬の出来事だったのだろう。

 師匠は、最後の止めにドラゴンの首を両断して、滴る汗と、上気する上気する表情に笑みを携えて、勝鬨をあげたのだった。


 圧巻の勝利である。

 師匠は、自身の力を示して、どうどうと裏ダンジョンへの切符を手にしたのだった。

 まあ元から裏ダンジョンのボスモンスターなんだから、今さら力を示す必要もないのだけれど。


 ――さあ、次は俺の番だな。

 裏ダンジョンの15F以上。未踏のダンジョンのその先へ、突き進む――!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る