23:師匠の最後のドロップアイテム
最悪だ。
自室のパソコンでこっこの配信動画を視聴していて、頭を抱える……。
ほら……こっこの【カメラファンネル】壊しちゃったから、念のため、リスナーからどれくらいの反感を買ってしまったかチェックするためにチャンネルを開いてみたのだ。
そこに映し出されるのは、ついさっきまでこっこと一緒に潜っていた裏ダンジョン。その10F。
俺が【カメラファンネル】を撃ち抜いた以降の映像だ。
カメラ、壊れてなかった……。だから撃ち抜かれた衝撃でカメラが大きくブレたことに言及したコメントはあったものの、俺へのアンチコメントは殆どなかった。
そして映像は、ばっちり、こっこと師匠の白熱したバトルを捉えていた。
――【コメント】─―
『ユニークスキルきたあああああああああああ!!!』
『すげええええええええええええ!!!』
『こっこ覚醒したあああああああああああああああああ!?』
『カメラがおかしいの!? 俺の目がおかしいの!? こっこがおかしいの!?』
『いやこっこもそうだけどカズキのがやべえだろ!才能開花ってなんだよ!!!』
『無双きたあああああああ!!!』
『むしろ師匠なんで戦えてるの草』
『こっこに無双させーや!!!』
『師匠もすげえええええええええ!!!』
『こいつ本当にスケルトンキング!? 10Fの雑魚ボスモンスター!?』
―――─
画面に映る二人の戦いに、さっき生で見てきたばかりだというのに、手に汗握る。
だけど俺が焦っているのはもっと先だ。早送りで場面を飛ばすと、今度はこっこがエネミースキル【初見殺し】を発動させたタイミングだった。
――【コメント】──
『うわあああああ!!! 師匠丸裸にしやがった!!! こっこの勝ちだ!!!』
『こっこやっぱすげええええええええええええ!!!』
『こっこちゃんおめでとうございます!』(ミラクルチャット:50000円)
『いやこっこ早くトドメ刺せし』
『余韻長すぎない?師匠回復しちゃうぞおい早くしろ』
『浸ってて草』
『ウイニングラン早いですよwww』
―――─
ついつい見てしまった。この後を知っているから、コメントがより面白い。
くるぞ、こっこのあのセリフがくるぞ……!
「あー! もーむり! 一歩も動けないよー! 体力、ゼロー!」
――【コメント】──
『は?』
『は?』
『は?』
『ん?』
『は?』
『こっこ?』
『なにしとんねん』
『勝ったな風呂入って……は?』
『負けてんじゃん!』
『お前これカズキいなかったらどうすんのこれ』
『カズキちょっともっかい才能開花したげて』
『体力増強の才能ちょっと開いてやって』
『開花要員はよ』
『むしろこれからは師匠と交代で』
―――─
少しだけニヤニヤして、ブレイクタイムを挟んだところで……動画のシークバーを確認する。
まだまだバーの終着点は遠い……。
ということは、つまりまだまだ、動画は続くということだ……。
いざ決心して、シークバーをドラッグ。
俺が確認しなければならない箇所を探して……。
最悪なことに、それはついに発見された。
「師匠、俺……師匠のこと、好きでした」
――【コメント】
『――え』
―――─
いや見れねええええええええええええええええええええええ!!!
コメントが見れねえええええええええええええええええええ!!!
恥ずかしくて見ることができねえええええええええええええええ!!!
うぎゃああああああああああああああああああああああああああやっぱりこの場面も録画されちゃってるううううううううううううう!!!
「そう。じゃあ、最後の思い出に、キスでもしちゃう?」
ししょうぎゃあああああああああああああああああああああ!!!
停止ボタンを押してないから動画が無慈悲に流れゆく!!! そしてこの後……ほぎゃああああああああああああああ!!!
見られたあああああああああああああああああああ!!!
「ワン」
……トシゾーの鳴き声。
恥ずかしくて死にそうな俺の背中から、大型犬の重低音が再度、鳴り響いた。
「ワン」
「はいはい。聞こえてますよ。もしかして、師匠、起きた?」
「ワン」
「見張りサンキュー、トシゾー。ほれ、お菓子食え」
「ワフ」
大きなしっぽをモフンモフンと振って返事をする俺の愛犬、秋田犬のトシゾーなのであった。
犬用ビスケットを投げると、後ろ足でちょいと立ち上がってぱくりとキャッチ。満足して、フローリングにチャッチャッチャと爪を鳴らしながら去って行く。
そうか。師匠、起きたか。
師匠はいつも倒すのと同じように、光となって消えたはずだった。
だが消えたはずの師匠が、光が収まると、なぜか気を失った状態で、再びそこに現れて、だけどボスとしてではなく、倒した証拠の魔石もきちんと転がっていたので……。
信じられないが、師匠はたぶん……。
モンスター素材として、ドロップしたのだ……。
いつも師匠からドロップする素材は骨の一部とか歯とかなのだが、今回は全身が……それも、スケルトンの姿ではなく、【受肉】したままの褐色肌のスレンダーな肉質で、寝息まで立てていた。
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