20:熱く燃える三者
「あー! きもちー!」
笑顔のこっこがハイテンションに叫ぶと、その剣技は一段と加速した。
まるで大太鼓でもぶっ叩いているかのように荒々しくリズミカルに、かと思えば氷像を削るかのように繊細な剣捌きを見せつけてくる。
優雅な舞を連想させたかと思えば、ベタ足ゼロ距離! ガッツンガッツンのインファイトが始まる!
もう俺は、こっこの予測不能な動きに翻弄されっぱなしだ!
こっこの心情を体現するように、黒とピンクの髪が逆巻き、乱れ踊る。
師匠もそんな嵐のような猛攻に合わせて一進一退。躍動する褐色の肌が汗ばみ、上気する。
……俺にも見せたことのない笑顔で。
みてくれは、二人してダンスでも踊っているように可憐だ。いつまでも眺めていたい。
だが当の本人たちからすれば、そんなに呑気な話じゃない。
互いに互いを、殺傷しうる瀬戸際なのだ。二人とも、迫りくる相手の攻撃を避けきれず、うっすらと細かい切り傷を幾重にも作っていた。
そして剣を切り結ぶ音は、さながら工事現場を連想させるほど、喧しい……!
こっこの攻撃の速さもさることながら、その一撃一撃が、小柄な彼女から放たれたものだと思えないほど重く強烈であるからだ。
しかしこっこの双剣の驚くほどの回転速度に、師匠は曲刀一本で受け切る卓越した剣技を披露する!
さらには、こっこの隙を捉えては一閃。確実に切り刻んでいく。剣術の技量だけで言えば、弟子の贔屓目なしにしても、師匠に分があるように映る。
だが、こっこのスピードは、技術をも上回る――!
「最っ高! カズキのお師匠さん! いいよね!? もっと熱くなろう……!? もっとギア、上げてくよおっ!」
「うそ、まだ速度が上がるっていうの……っ!? あなた、本当に人間!?」
ドリルが鉄板を穿つように、こっこの双剣の高速回転が、師匠の鉄壁の受け流しを凌駕しはじめた。師匠の体に、たちまち無数の傷が浮かび上がる!
師匠の笑顔が、みるみる引き攣っていく……!
マジか、こっこ……勝つのか!? 【受肉】した師匠に!?
俺はもう、手出しすらしようとも思わなかったあの師匠に……!
「畜生……、ジェラるぜ、こいつは……!」
ふつふつと湧き上がる嫉妬心。俺の方が、ずっと師匠と戦ってきていたというのに……! まさかこっこが俺よりも先に、【受肉】状態の師匠とのタイマンでの勝利を成し遂げてようとしているなんて、たまらなく、心を掻き立てた。なんか寝取られた気分だ。……彼女いたことないけど。
「もらったああああああ!」
勢いが止まらないこっこの斬り上げに、師匠はなんとか刃を合わせるが、とうとう、甘く受けた。いまのこっこがその隙を逃すはずがない。
まるで鋏のように、もう一方の剣で師匠の曲刀を……! 挟み折った!
「……お見事!」
「これで、――おしまいっ!」
武器もなく、無防備な師匠へ容赦なく剣を振る。師匠に成す術はない。こっこが、勝った――!
「――【エネミースキル:
こっこが、師匠の首を狩り取るべく放った一撃は、師匠に事も無げに掴み取られた。
師匠は、まだ隠し玉を持っていたのだ……!
──それは、炎だった。
師匠を取り囲むように炎が突如として湧きあがり、そして
師匠の肩から、もう二本の腕が生えたように、燃え上がる炎がこっこの一撃を防いで見せたのだった。
思えば、師匠はこれまで、【受肉】後は一度もエネミースキルを使用してはいなかった。
こっこがそうだったように、師匠もまだまだ、本気じゃなかったってことかよ!
「なにそれ……っ! くっ!」
熱気で顔を赤くし、剣を掴んでいた炎の一部を切り取って一時撤退。こっこが俺の元へとやってくる。
あの【受肉】した師匠が、もっとパワーアップしちゃったんじゃ、流石のこっこもヤバいだろ。
「こっこ、大丈夫か? こうなったら二人で……」
「いらない」
……へ!?
「んん!? 落ち着けこっこ! 頭冷やせ! 意地を張る場面じゃないって!」
そもそも二人でも勝てるかどうか……わかんないんだぞ!?
だけどこっこは俺の心配をよそに……目がギラギラに輝いていた。
笑っているのだ。
そんなこっこに、俺は、ただならぬ寒気を感じた……。
「ごめん、カズキ。今、私、どうにも調子が良すぎるんだ。これまでにないってくらい。表ダンジョンの50Fで、ドラゴンを相手に繰り広げた死闘よりも……今がとっても充実してる!」
目線を俺に向けすらしない。目の前の強敵に、とびっきりの熱々ラブコールをぶちまける。
「もっとイケるって! 身体中が騒いでんの! こんなの誰にも、止められないよ!」
マジかよ……。でも本当に、このままじゃこっこは……。
いや、いけるのか……? やれるのか!?
「…………ああ、わかったよ! いってこい! ぶっ倒してこい! こっこ! お前が、ナンバーワンだッ!」
「よっしゃああああああああっ!!!」
キャットファイト。第三ラウンドが開幕する。
もうここまで来たら勝ってくれよ……! 頼むぞ、こっこ!
表ダンジョンの覇者の実力を見せてくれ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます