6:できること。できないこと。
「うわ! すごいすごいすごーい! あんなに強い裏ゴブリンが、毒矢でみるみる弱ってるよ!?」
「だろ? 毒状態にすれば動きも鈍るから、【エネミースキル:初見殺し】で武器防具を破壊されるリスクも減るってわけだ」
「1Fの雑魚モンスが、エネミースキル持ってるなんて驚きだね……。表じゃ10Fごとのボスと、40F以降のモンスターしか持ってないのにね」
へえ、そうなのか。そりゃみんな、表ダンジョンじゃ階層を楽々上がれるわけだ……。
そんなことをちょっとだけ、羨ましく思いながら、ゴブリンに矢を放つ。同時に二つ、脳天と心臓に、正確に突き刺す。
「グゲッ!」
「やったあ! ゴブリン撃破!」
断末魔をあげたゴブリンが倒れて、芒野こっこが、アシメカラーの髪を揺らして飛び跳ねた。
だけど喜ぶのは、まだ早い。
「こっこ。ここからが、裏ダンジョンの怖いところだ」
「へ?」
俺はそう忠告してから、おもむろに、ゴブリンへと近づいた。
……危険なことだが、実践して見せた方がこっこも、今後は注意してくれるだろ。
そもそも、
モンスターは死ぬと、光の粒子となって消えていく。
この、見事に死んだとしか思えないゴブリンがそうならないということは……。
ゴブリンに近づき、そして俺は、注意深く、そいつに背を向けて見せた。
「グゲゲーッ!」
「ああっ! ゴブリンがまだ生きて……!? カズキくんっ!」
すると案の定、ゴブリンは勢いよく飛び上がって俺を襲ってきた。驚愕したこっこの反応を見て、危険を冒してまでこれをした甲斐があったと内心で満足する。
満足したので、もうこのゴブリンには用済みだ。
「ダンジョンマジック発動! 【
俺を中心に、半円状の結界を展開する魔法。この結界内ではモンスターに継続ダメージを与えることができる。
ただし、あまりにもダメージ量が少ないために、表ダンジョンですら低階層でしか使用しない、初心者用の魔法だと
だが、俺はそうは思わない。
一度使用すれば、今みたいに後方もカバーできるし、聖域に触れたモンスターは、ノックバック効果で聖域の範囲外に弾き飛ばされる。
持続時間もそこそこ長いし、集団戦において、俺は割と重宝する。
何より、今みたいに、エネミースキルで、一度の戦闘では絶対に体力が残り続けるタイプのモンスターは、聖域の微量なダメージでの追い打ちで簡単に倒せるのだ。
「グギャアアア!」
悲鳴とともに、今度こそゴブリンは光の粒子となって、魔石とモンスター素材を落として消えた。
「うわ、今のって、30Fのボスが持ってる【エネミースキル:不屈の闘志】でしょ? 裏ダンジョンって、1Fの最弱モンスターですら、複数スキルを持ってるっていうの? こわいなあ……」
「いや、ゴブリンは【初見殺し】一つだけだな。でもその内実は、三つのスキルが合わさった能力なんだ。【
「はあ? そんなのまさに、初見殺しね……!」
やれやれと呆れるようなジェスチャーの後、芒野こっこは、笑顔を作って【カメラファンネル】へと向き直った。
「と、いうわけで! 今日はカズキくんに裏ゴブリンの倒し方を教えてもらいましたー! みんなも裏ダンジョンを攻略する際には、ゴブリンの初見殺しには気をつけて、毒漬けにしちゃおう! それじゃあ今日はここまでとしまーす! みんなもお疲れ様ー! まったねー!」
コメントモニターが『おつ』『ノ』『888』などのねぎらいの言葉たちで埋め尽くされ、画面がブラックアウトした。
……初めてのコラボ。自分で言うのもなんだが、まあ、うまく立ち回れたと思う。
「おつかれーカズキくん! 今日はありがとう! すっごく勉強になったよ!」
タオルで汗を拭きながらこっこが笑顔を向ける。その流れでドリンクを手渡されたので、遠慮なく口をつけた。
……味は、炭酸の抜けたエナジードリンクってところだ。やや不味いよりの風味。
瞬間……体から疲労感が一気に吹き飛んだ!
「うえ!? これってまさか……! EXポーション!? なんじゃこりゃ、すげぇ効き目だ!」
2000円のポーションしか飲んだことがないが、ここまで回復力に雲泥の差があるとはな……。さすが、3万円……。
体力減ってなかったのに、普通に日頃の疲労感やら肩や腰のコリが緩和した!
「さすがに悪いって。こんな高価なものを気軽に貰えない。そのうち、何かお返しするよ」
「あはは。気にしなくていいよー! それ、スポンサーさんから提供してもらってるやつだからね! むしろもっと貰って貰って!」
「ぐえー、マジか。やっぱ、配信で売れるかどうかって、冒険者格差がヤバいもんだな……」
「そだねー。今の時代、冒険者と配信はほとんどセットだよ。むしろなんでカズキくんはやってないの?」
もう顔バレとか気にしないなら、今から始めてもぜんぜん遅くないし、むしろめっちゃバズると思う。……とのこと。
芒野こっこからのそんなお墨付きは嬉しい限りだが、まだ、そういうのは考えられないかな。
今更恥ずかしいとかないが、人の目を気にしながらこのダンジョンを潜ることは、俺にはできない。ダンジョン攻略以外の思考は、我が身を滅ぼす。俺はそこまで要領が良くないんだ。
こっこの配信は、彼女がそういった見せ方を考えればいいから、俺はそこまだ気にしないでいられるんだ。もしなにかしてほしいことがあるなら、こっこが言ってくれれば、俺にできることならやってやれるしな。
「あ、これからどうする? カズキくん、このまま探索続ける?」
「いや……今日はやめとく。実はアイテムが切れかけててさ。買い出しに行く予定だったんだ。まあそのあとに、軽く潜るかもしれないけど」
そう返事をすると、こっこは何やらもじもじし始めた。
そして照れくさそうに、恐る恐るといった様子で、次の言葉を投げかけてきた。
「あ、じゃあさ……よ、よかったら、一緒にお買いもの、いかない……?」
……え、嫌ですけど。
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