俺だけ裏ダンジョンに潜っていた件~表ダンジョンをクリアした美少女有名配信者が1Fのゴブリンにボコられてたのを助けたら彼女に粘着されてそれ以来なんかバズってる~
3:有名人を助けただけなのに有名税を支払うことになる話
3:有名人を助けただけなのに有名税を支払うことになる話
体力を持て余した俺は、夜通しネットサーフィンで暇つぶしをしてしまい、気づいたらもう朝の六時。完全に就寝のタイミングを逃した。寝不足だ……。
すっかりルーチンワークが崩れてしまった。
それに、眠れない理由は他にもあった。芒野こっこだ。
生こっこに会えて嬉しい反面、でも俺、かなりキョドってた気がする……はずい……。変なこと言わなかったよな? マヌケな顔つき晒してないよな?
なんてことを悶々と考えていたせいで、寝る暇がなかったのだ。
そして未だにそんなことを悩んで、ぼーっとweb漫画を読んでいたらもう学校に行く時間だ。時間割を見て、授業中に昼寝の算段をたてながら、家を出る。
通学途中にSNSに目を落とすと、俺が
『史上初の裏ダンジョン配信! だけどそこには既に先客が!?』
『裏ダンジョンの洗礼に絶体絶命の人気配信者! 颯爽と現れる謎の冒険者……!』
『謎の冒険者、芒野こっこのファン説浮上!?』
最悪なことに、見出しの画像には、ガッツリ俺の顔面が抜き取られてる……。記事に対するコメントも、俺の正体を考察するもので溢れかえっていた。学生っぽいとか女に免疫なさそうとか好き勝手言ってやがるが、的外れでもないのが悔しい。
てかなんでこの記事、普通に顔載せるんだよ。ネット上で顔出しはしていないから、この情報だけで身バレすることはないだろうが……。
俺の肖像権どこいった……?
てか学校行ったらバレるくね? いや、ワンチャン知らぬ存ぜぬで通せるか?
一応、ダンジョンでは防具つけてるから、制服姿とは見た目の雰囲気が結構違うので、他人の空似が通る気がする。
うん、なんだか、遠目で見ると、そこまで普段の俺っぽくない。学校でも俺だとは気づかれない気がしてきた。
この二年間、誰ともダンジョン内で遭遇しなかったのも身バレを防ぐ重要な要素だ。怪我の功名ってやつだな。
そもそも、最初から裏ダンジョンなんて潜ってなけりゃ、怪我も何もなかったわけだが……。
なんで俺は裏ダンジョンに潜っていたんだ? ヘッドセットのバグ? ヘッドセットが故障するとそもそもダンジョンにワープできないっていう話は耳にしたことはあるが、別のダンジョンに飛ばされるなんて、聞いたことないけどな。
まあ、そのおかげで、芒野こっこを救えたと思えば、やっぱりその功績はデカい。
芒野こっこは俺の中でかなり重要な位置にいる。彼女の配信があったからこそ、俺は冒険者にはなる決意が固まったと言ってもいいくらいだ。彼女のように快活なダンジョン探索がしたい。そう思えたのだ。
もし芒野こっこがダンジョンで死んでいたとなれば、俺はショックで、立ち直れなかったかもしれない。
うん、大丈夫。
あの行動に悔いはない。
身バレもきっと、なんとかなる。だって俺はそもそも、最弱冒険者としてあざ笑われていたのだ。それが裏ダンジョンで芒野こっこを助けた人物とは、誰もイメージが湧かないはずだ。いけるいける。
よし。いざ登校!
「おいカズキ! これお前だろ!? なあどうなんだよ! すげーなおい!?」
「芒野こっこどうだった!? なあ! 生こっこどうだったよ! いい匂いしたか!?」
「裏ダンジョンってなんだよお前! カズキお前実はめちゃつよ冒険者じゃねーか!?」
「カズキくんヤバ! 記念写真撮らせて撮らせて!」
――そして俺は、今まで散々バカにしてきた奴らに、もみくちゃに質問攻めを受けて、その日は高校を早退した。
身バレ回避、失敗したっぽい……。
そんな今日も、俺はダンジョン・ダイブをやめない。
いや、そんな災難な日を送ったからこそ、俺はダンジョンへ潜らなければならないのだ。
早退してから仮眠(ふて寝とも言う)したし、体調は良し。ちょっと倦怠感はあるものの、十分に探索できる
モンスターはこっちの都合なんて関係なく襲ってくるから、体調管理は冒険者のモットーだ。
それに少しくらいの不調なんて、ダンジョンで、モンスターと命がけの戦闘を繰り広げれば、たちまち血肉が躍動して、そんなものころっと忘れてしまうものだ。
まだ見ぬ先の階層へ心を躍らせる興奮が、全身に力を漲らせる。
そんな体験が、嫌なことを全て忘れさせてくれるんだ。
「あ! きたきたあ! 待ってたよっ! 山本カズキくん♡」
そして、待ち構えていた芒野こっこに、俺は出待ちされていたのだった……。
咄嗟に逃げようとして背を向けて……。
「ええ!? どうして逃げるの!? 私はお礼が言いたいだけなのにー!?」
そんな言葉を聞いて、ぴたりと立ち止まる。
いや、お礼を貰いたいわけじゃない。
……なんで、俺の名前知ってんの?
「え? 俺、名乗ってないよね?」
「あーうん。なんかね。同じ学校に通ってるっていうリスナーさんが教えてくれたんだー」
いやいやいやいやいや。ダメだろそれ……。
俺のプライバシーどこいった?
聞いたことがある……。
これが、アレか。
有名税ってやつか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます