親殺しのパラドックスってなあに?

桃月兎

第1話お父さん、おしえて

虹祭家の居間にて、親子が会話をしている。


少年は虹祭国成、小学四年生。好奇心旺盛で行動力もあるが、

残念ながら頭の出来はあまり宜しくは無い。


父親は虹祭陽一、四十四歳で製薬会社に勤務するサラリーマン。


「お父さん、聞きたい事があるんだけど、『親殺しのパラドックス』

ってなあに? 病院で検査を受けるヤツの事?」


「……それは多分、人間ドックの事だな。全然違うぞ。思考実験の一種だよ。

説明すると長くなるけど、よく聞いていれば分かるようになるだろう。

先ず、タイムマシンがあるとするのが前提だ」


「え、タイムマシンが実際にあるの?」

驚く国成。


「実際には現実の世界にはタイムマシンは無いよ。

あると仮定しないと話が進まないから、時間旅行が出来るとして話を聞いてくれ」


「じゃあこの話の中では未来にも行けるって事だよね」


「そうなるな。だけど今は、タイムマシンで過去に行く話をするんだ。

 前提条件としてタイムマシンが存在して過去に戻る。

 此処までは大丈夫か?」


「このお話の中ではタイムマシンで過去に戻るんだね、うん分かった」


「それじゃあ話を続けるぞ。

 分かりやすいように登場人物を国成だとする。

 国成はタイムマシンに乗って四十年前の世界に行くんだ。

 四十年前の世界で、四歳のお父さん、即ち俺を殺すんだ」


「え、何でお父さんを殺さなくちゃいけないの? 殺さないよ、僕」

驚く国成。


「例え話しだからな、この話の中では殺す事にしてくれ。

国成は四歳の俺を殺す。そうすると、その世界ではお父さんがいないから

国成は生まれてこない。此処までは分かるか?」


「お父さんがいないから、僕は生まれてくる事が出来ないんだよね。

此処までは分かったよ」


「じゃあ話を続けるぞ。此処から先は少し難しくなるからな。

国成が生まれて来ないから、国成は過去に戻る事が出来ない。

国成は過去に戻る事が出来ないから、お父さんを殺す事が出来ない。

お父さんを殺す事が出来ないから、お父さんは生き続けている。

お父さんが生き続けているので、その世界では国成は生まれてくる。

生まれて来た国成は成長してタイムマシンで過去に戻って、お父さんを殺す。

そうすると、お父さんが居ないので国成は生まれて来ない。

国成は生まれて来ないのでお父さんは殺されない。

要約すると、国成過去でお父さん殺す、国成生まれない、国成過去に行けない、お父さん生きている、国成生まれてくる、国成過去でお父さん殺す、国成生まれない、国成過去に行けない、お父さん生きている、国成生まれてくる………………」


国成の頭の中には大量の?が浮かんでいる。

「んんんん、スタートもゴールも無いって事? 結局どうなるの」


「スタートもゴールも無いんだ。パラドックスってのは、納得しがたい結論って意味だから。結局はお父さんは殺されないんだ」


国成は納得した表情で受けいれた。

「そうなんだ、お父さんは死なないんだね」


「そう、お父さんは死なないんだ」







後日のニュース。

小学四年生男子、父親を殺害。

犯行動機は『お父さんは死なないって言ってたから』?


 





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親殺しのパラドックスってなあに? 桃月兎 @momotukiusagi

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