第12話 人ならざる英雄、だから
『決着とは、大きく出たな。宝玉は五つ、我が持っているのだぞ?』
影の手から、炎•水•風•雷の宝玉が分かたれズシン…!と其々が獣となる。体表が燃え盛ったり水流がうねっていたりと、今回は急場凌ぎでは無く確実に仕留める気だ。
「確かに宝玉の数はそっちが上だ…けれど、宝玉の数が絶対的な戦力の差じゃないってこと、見せてやる!皆、行くよ!」
「「「「おう!!」」」」
一列に並び、裂迫の気合いと共に全員で飛び出した。
『GYAOOOO!!』
獣もギラついた目と鋭い牙を剥き、雄叫びを上げてその巨体で迫ってくる。それも…影も含め、全てが僕を狙って。
それでも僕は、迷わず正面の影と全力でギィン!!と切り結んだ。当然、その隙に取り囲むように面となって獣は魔法を放つ。
それらは…レイドの盾から巻き起こる暴風に、リーンとリーシャが薙ぐ轟雷に、マガミの飛ばした激流の刃に悉く阻まれた。
『何ッ!?たかが欠片程度で、何処にそんな力が…!』
「へっ、これがハーツの『魔法』だ!」
「うん…私達皆の絆が、誰にも負けない魔法なんだね!」
「他人の庭を土足で踏み荒らすような奴は、絶対に許しません!」
動揺する影。今度は逆に、此方が隙を突く番だ。
思い思いに獣に斧や蹴りなどで獣を大きく仰け反らせ、反撃の攻撃もいなしてどんどんと獣達を皆が分散させていく。
「ハーツ!こっちは任せて…遠慮なくやっちゃいなさい!」
「姉さん、皆…!」
『舐め、るなぁっ!!』
急激に足元から熱気が吹き出す。咄嗟に後ろに飛び退くと、影を中心として炎の嵐がゴウッ!と立ち込める。
『所詮ただの剣に過ぎないお前が、何故我の邪魔をする!消え去れ!貴様が誰かの手を求めれば求めるほど、我の中の憎悪は大きくなるのだ!』
地面からは無数の水の槍が、上空からは雷が雨霰と降り注ぐ。それを土壁を数枚作り、雷は止まるものの水の槍は容易く貫通してくる。
右に大きく飛び退いて、追い風を起こして一息に影の前に飛び出して叫んだ。
「お前はやっぱり…『僕の影だったんだな』!」
『そうだ!だからこそ、世界を滅ぼす!憎い…マガミと常に寄り添う貴様が!』
僕が剣を上段に振り下ろせば、影は右下から打ち上げるように剣を振るう。互いに弾かれた勢いで、僕が右の影が左の足で蹴飛ばそうとしてつま先が激しくぶつかった。
今、漸く分かった。世界を呪う存在だから、自分を邪魔した僕達への復讐と腹いせ。幾つか理由はあるけれど…最も重要なのは。
「僕への、嫉妬か!」
思い返してみれば、僕が意思を明確に持ち始めたのもマガミへの憧れだった。並々ならぬ思いを抱いた僕の影となれば、愛憎入り混じった感情を持ってもおかしくはない。
『何故貴様なのだ!我ではなく、貴様が!許さぬ…世界が滅ぼうと滅ぶまいと、貴様だけはこの手で!』
「死んでたまるか!まだ僕自身、答えを出してないんだ!」
『煩い!貴様が感情を持たなければ、こんなことにはならなかった!』
最早魔法を撃つよりも速く、剣戟が響く。脳で認識するよりも先に目が捉えるままに剣をがむしゃらに振って斬り結び続ける。
「そうだとしても!感情を持ったから、僕はマガミや皆と心通わせられたんだ!」
≪爆炎の渦斬(フレイム•バスター)≫を剣から放つも、突風と水流が壁となって防がれる。
『貴様が武器を持たなければ、魔法も魔物も生まれなかった!』
影の雷が目の前で弾けるものの、剣を放って避雷針にすることで防ぐ。
「武器と魔法があるからこそ、守りたいものを守れる!」
それでも体の端々が焦がされるが、歯を食いしばって耐え剣に残った雷ごと≪月雷の一閃≫で奴に叩き込む。
『ぐうっ…!!』
「そうだ、ハーツ!」
突如声が響くと、獣の風で打ち上げられたレイドが落下する勢いと共に吹き荒れた嵐で獣を地面に叩きつける。
「レイド…」
「私とリーシャちゃんが好きになったのは、ハーツがありのままだからだよ!」
「それ以外に理由なんてないし、それ以外であって欲しくありません!」
連続して交差して2匹の獣を撹乱し、懐に潜り込むとズガァン!!と轟雷を放ちダウンさせ狐耳と尻尾を揺らすリーンとリーシャ。
「リーン、リーシャ…!」
「貴方とこれからも、ずっと一緒に居たいのハーツ!だから…皆で世界を救って、帰りましょう?」
激流の刃で獣を十字に一閃して、此方に微笑むマガミ。その笑顔は、いつだって僕を支えてくれる。
「……姐さん」
『ぐ、ぅ…おおおおおおッッ!!』
耳を劈くように吼えた影の下に、ひとりでに宝玉が集まっていく。そこに土の宝玉も合わさり、上空へと飛翔。
そして、影の前で円に広がり一つの大きな魔法陣を形成した。其処に突き出した影の剣に、凄まじいほどのエネルギーが集中していく…!
「何てパワーなの…!」
「でも…負けるわけには行かない!此処で引いたら、あれだけのパワーだ…大陸が吹き飛びかねないよ!」
あまりの質量に、影の周りだけ空間が歪み風が吹き荒れ空は曇天となり暴れ出している。正面から打ち破る以外に、道はない!
飛ばされてしまいそうな暴風の中、剣を両手で突き出し震える腕を何とか意地で抑え心の宝玉を起点に僕の持ちうる全ての力を集めていく。
「忘れないで、ハーツ!」
「私達は、いつでも一緒です!」
「これまでもこれからも、ずっとな!」
「皆を守る…そうでしょう?ハーツ」
リーン、リーシャ、レイド、マガミ…皆が僕の剣に其々の武器と心を重ねる。瞬間、影の極魔法と同じ虹色に輝く僕らの極魔法が発動する。
「影。お前はきっと、もしかしたら僕が辿った道だったのかもしれない。誰も信じられずけれどただ1人を愛し憎んで、呪う。
その悲しみを…終わらせよう」
「『……行けええええええッッッ!!!』」
決着は、一瞬だった。
激突した二つの魔法は、爆音の中で炸裂し膨大な煙を撒き散らす。覆われる視界の中で見えたのは、空へと駆けていく虹色の流星。
それは…儚い僕と影のような、シャボン玉
みたいだった。
バァァァァ…ン…!!!
大気を震わす衝撃が駆け抜け、地面が無数にひび割れ空の雲と歪みが晴れていく。弾けた虹色の光は一筋の柱となり…
やがて、空に吸い込まれるように消えていった。
『……さらばだ』
一粒の光が、太陽に紛れて見えなくなる瞬間。色んな感情がないまぜになった、別れの挨拶が聞こえた気がした。
「さよなら…」
晴れ渡る空に手を翳し、日陰を作りながら一言呟く。
「ハーツ…」
隣から僕の肩を叩くマガミ。レイドもリーンもリーシャも、清々しい表情を浮かべている。
「うん…。さ、帰ろう!皆で…一緒に」
「「「「おー!」」」」
ヘトヘトだったけれど、皆で拳を突き出して喜ぶ勝利は何物にも代え難かった。
「……ところで、宝玉が全部消えちゃったけど。どうやって帰ろう…?」
「えっ」
全ての力を使い切ったのか、元より急場凌ぎの代物だったのか。宝剣からは心の宝玉も消失しており、その場には這々の体の僕らだけが残された。
……宝玉だけでも…帰って来ないかな?
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