シェラドゥルーガは、生きている / ヨシキヤスヒサ 様
作品名:シェラドゥルーガは、生きている
作者名:ヨシキヤスヒサ
URL:https://kakuyomu.jp/works/16818622175060699173
ジャンル:異世界ファンタジー
コメント記入年月日:2025年9月25日
以下、コメント全文。
この度は『自作品にさらなる輝きを』企画にご参加いただき、ありがとうございました。
主催者の島流しにされた男爵イモです。作品の方を拝読いたしました。
内容としてはいわゆる刑事モノでありながらもドラマの色が強く、個人の再生と赦しに焦点が当てられていたと見受けました。鬼才の長官たるダンクルベールをはじめとした個性的な面々、そして扱い方次第で劇薬にもなる切り札のシェラドゥルーガ。それらすべての人物たちの背景と胸中が緻密に作り込まれており、各章の本筋に強いメッセージ性を与える仕掛けの機能を担っていました。多くの人物たちを登場させながらも誰かの役割を使い捨てにすることはなく、そんな中での個々の逸話と成長は長尺を最後まで下支えする、重要な役目を果たしていたと思います。発想を基にした細部にまで至る作り込みの成果。あるいは読者に伝えたい内容をあらかじめ吟味して、登場人物たちを掘り起こしたうえで逸話を割り当てていくという逆算から導いた解なのでしょうか。いずれにせよ、作者様が創作に向けられている意識の高さには敬服いたします。
作中の設定である国の成り立ちや歴史に関しては、実際のものをなぞらえている点もみられ、ある種の問題提起となっているようにも受け取れました。なればこそそれを下地にした人物たちの言動には含蓄が生まれると同時に、押しつけがましさは薄れるのでしょう。なんらかの作者の想いを作品に落とし込む際には、往々にして「登場人物に作者の主張を代弁させてしまう」といった状況に陥りやすく、説教くさい部分が見え隠れしてしまいます。そうしたものが作中では極めて少なく、むしろ等身大の一人の言葉としての重みがありました。アンリエットやオーベリソン、ジスカールなど。いかにもな背景を持つ人物たちを用意しながらも、素朴な印象も併せた誇張しすぎない品格が、大人物の魅力を引き立てていたのは間違いないかと思います。各章ごとの物語を個別に完結させつつの描写なので、とても一朝一夕には獲得できない練度のはずです。
そのうえで物語が大団円を迎えるのには、ほどよい意外性がありました。王道であり予定調和もあったという点は完全には拭えませんが、安易に名前付きの登場人物を脱落させなかったのは作り手が示す一つの覚悟だともいえます。散るにしても花道を用意するなど、なんらかの意味を与える。この姿勢を貫くのは簡単なことではありません。特に詭計と因縁に満ちた作風で流儀を通すのは至難の業です。諸々の違和感を一読者の主観レベルにまで抑え、広げた風呂敷を綺麗に畳んだ行為自体が称賛に値するといっても過言ではないでしょう。それをあたかも当然の如くにこなす力量たるや、本作は生まれるべくして生まれたと思わされるほどでした。瑕疵については後述しますが、それらの存在を希釈するくらいに高水準な内容でした。
では続いて、いくつかの瑕疵に触れていきます。
大きく分けて以下の三つです。
➀視点の移り変わりと逸脱
➁作品の構造上の弱点
➂シェラドゥルーガの軟化
まずは一つ目、視点の移り変わりと逸脱。
作中では地の文における、三人称一元視点から一人称視点への推移、及び混在が多くの場面でみられました。特に前者は独白調の語りをきっかけに、一人称視点に変化していく傾向が目立ちました。おそらくは作者様が格式張ったものに縛られない柔軟な地の文を意識されているがゆえに生まれた状況なのでしょうが、一つの章の中で頻繁に視点とその保持者を変えるのは悪手ともいえます。読者によっては混乱してしまい、焦点の当たっている人物の読み違いにつながる恐れもあります。そうなったときには各エピソードの冒頭に立ち返る必要があるので、意欲的な読書の阻害というリスクも抱えることになります。
そういった懸念を踏まえると、視点とその保持者はなるべく固定するのが好ましいです。各章で取り扱う殺人犯の心情、のちの伏線となるヴィルピン、エーミールなどの絶対に外せない人物たちの掘り下げを除き、全体が三人称一元視点で描写されていたのならより綺麗に収まっていたのではと思います。とはいえ改稿を強いるつもりはありませんし、現状の形式が作品の魅力を大きく損なっているわけではありません。以降の指摘にも共通しますが、読者のいくらかが感じるかもしれない違和感、その一部を客観的に取り上げているだけですので、少し意識を向けてみてもよい一側面くらいに捉えていただければ幸いです。
次に二つ目、作品の構造上の弱点。
こちらは本作が「連作短編集の性質を持っている」という仮定を前提に、話を進めさせていただきます。たとえ終盤であっても一応、読もうと思えばどの章からでも入っていける構成。作中世界の雰囲気を短編感覚で味わえるのは本作の醍醐味の一つです。ただし通読するつもりで読み進めていくと、いくつかの躓きが浮き彫りになります。まずは説明の重複。前述した視点の問題により、同一の状況や人物相関図の説明が単一、複数の章内で繰り返されます。これは読者への情報の浸透と整理を促す反面、文章そのものの冗長さも色濃くさせてしまいます。割り切るのが正解なのも肯ける一方、省略ないしは圧縮する余地が残されているとも考えられます。たとえば巻頭に簡易的な登場人物一覧表を設ける、または各々の年齢や役職、関係を登場人物たちの間で話題にさせて台詞で短くまとめるなど。地の文での説明は注目を集めやすいですが、似たようなパターンが頻出すると単調さにつながるので要注意です。
他には読者の関心の分散も挙げられます。特定の人物のみを光らせる構成とは異なり、本作は読者に物語の流れ全体を楽しんでもらうための構造が確立されています。よって登場人物たちの中で活躍させるうえでの明確な優先順位はなく、バランスよく個々の成長が描かれていました。しかしながら同時に、これが本作の弱点でもあります。満遍なく登場人物たちを取り扱う都合、読者が個々への関心を持ちながらも「広く浅く」の状態に陥る危険があります。物語の進行具合に、登場人物たちの掘り下げが伴っていないといったミスマッチが生じる場合も。終盤におけるぺルグランとダンクルベールが精神的な親子となる場面はそれが顕著でした。それまでの一連の流れを追えば当然の結果なのですが、十分に両者の心情を掬っていたのかどうかは感じ方が分かれるであろう部分であり、物語の終着点を含めて予定調和と受け取られる可能性も否定はできません。すべては作品の構成上の弱点であり、どんな形を使おうとも必ず綻びはあります。そこをどのように緩和するか、補えるかが重要となります。ぺルグランについては、成長の過程をより丁寧に拾い上げてみるのも効果的だと思います。
そして三つ目、シェラドゥルーガの軟化。
物語の要となる存在。その一言で表せない複雑怪奇なイメージは章を経るにつれて覆ります。良くいえば人間的。悪くいえば俗っぽさが際立ちます。序章のインパクトが強すぎたせいもあるのでしょうが、中盤以降のダンクルベールや捜査官たちとのやり取りには妙な安心感さえも付き纏っていました。内容から推察するに、こちらの落ち着いた印象こそが作者様の意図したシェラドゥルーガ像なのでしょう。そうなると、やはり序章の傍若無人ぶりが掴み以上の意味を持たなかったとも解釈できます。バラチエ司祭への接し方には当人とヴァーヌ聖教会との因縁が表れていたのかもしれませんが、このある意味での「危なっかしさ」は維持してもよかった部分だったのではと考えています。あるいはこれが暴走であったのならば、怒れるダンクルベールから銃撃を受けた際に「つい熱が入った」と釈明させて、同情を誘いつつも伏線を張る流れにして人物像の矯正とするのはいかがでしょうか。
あとは監獄襲撃の章。こちらでは精神的な軟化がありました。疑心暗鬼と闇の恐怖で死が伝播していく監獄内。そこでのシェラドゥルーガは不自然なほどに弱々しく、示された彼女の心情と照らし合わせても少しばかり説得力に欠けます。当人の機転で場面を盛り上げるための下準備、もしくは心の脆さを露呈させる仕掛けだったのだとしても些か強引な描写と思われます。怒りの前に怯えがあったのが要因の一つかと。これが反転していた場合、軟化のイメージは払拭されていました。あらゆる状況の枷となる常識を破る存在であるため、より大胆で繊細な性格を読者に定着させる必要があります。その名を冠した作品タイトルが付けられているほどですので、人物造形には拘れるだけの価値があります。軟化を本質への歩み寄りへと昇華させるのは、作者様の技量を以てすれば容易なはずです。
最後に約物ルールと、誤植をまとめておきます。
前者に関しては、疑問符のあとの一字空けがされていませんでした。他の約物ルールにおいては徹底されていたので、なにか理由があってのことならご容赦ください。後者に関しても同様に目についたものは記載していますが、作中では当て字の類や意図的な漢字の振り当ても含まれていたので、その例に該当するものは軽く流していただければ幸いです。
1ー2より
・おもむろにダンクルベールが訪ねてきた。→訊ねてきた。
1ー4より
・「~~、あたしどもも感謝に耐えません」→堪えません。
・本来であれば口を聞くのも憚られる、天上の人である。→口を利く。
1ー6より
・「~~。一才、容赦するなよ」→一切。
1ー7より
・女だてらに肝が据わっていて、何より目が効く。→目が利く。
・六発全部、打ち切ったのだろう。→撃ち切った。
1ー9より
・「~~。私ってば、気が効くだろう?」→気が利く。
2ー1より
・「~~。女の子に手を挙げる殿方なんて。~~」→手を上げる。
3ー3より
・「~~。だから、自身を持ちなさい」→自信。
4ー1より
・心の機敏。→機微?
4ー5より
・あれだけ強いものを煽っても酒臭さはなかったし、~~。→呷って。
・~~、それを煽りはじめた。→呷り。
・ボトルのまま、何回も煽った。→呷った。
4ー7より
・そう言って、瞼を閉じた→句点の付け忘れ。
4ー9より
・だから、お殿さまか局長さまに合わせてほしい。→会わせて。
5ー1より
・古い建築様式の協会や城塞なども遺っており、歴史的価値も高いだろう。→教会。
5ー2より
・スーリの行ったことが事実になったのは、その日の夕方だった。→言ったこと。
6ー2より
・一才の証拠を残さず、~~。→一切。
6ー3より
・「~~、あいつが生きていること事態が許せん」→自体。
6ー4より
・作り物、そのもの笑み。→そのものの笑み。
・ぬるくなった珈琲を煽っても、喉の乾きは収まらなかった。→呷っても。
6ー5より
・変な匂いがする。堆肥というか、糞尿の匂い。→臭い。
・それともうひとつ、卵の腐ったような匂い。→臭い。
6ー6より
・~~、さらには硫黄の匂いまで一緒になっている、~~。→臭い。
6ー14より
・胸元から紙巻を取り出し、加える。→咥える。
8ー1より
・全部を話てはくれなかったが、~~。→話して。
8ー2より
・才覚に自身と自負がありすぎるし、~~。→自信。
8ー3より
・そうしてインパチエンスに一礼の後、さっとそれを煽ってみせた。→呷ってみせた。
・何年か前に、操作現場に勝手に乗り込んできてダンクルベールに推理勝負を挑んだのを、~~。→捜査現場。
9ー4より
・ダンクルベールとビアトリクスは、そう感じて、~~。→セルヴァン?
・ウインクひとつ、グラスを煽った。→呷った。
9ー6より
・~~、あるいは酒を持ち込んで煽っていた。→呷っていた。
10ー2より
・大きな手のひらが、両方に乗った。→両肩。
10ー5より
・視線を戻し、防止を被り直した。→帽子。
10ー6より
・当たりを見た。→辺り。
11ー3より
・しかしそれを傘に着ることのない、~~。→笠に着る。
11ー4より
・~~、家柄を傘に着ることのない、~~。→笠に着る。
・ようやく、そういうものに着づけるようになってきた。→気づける。
以上になります。
ここに記したことが、作者様の創作活動の一助となればなによりです。
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