英雄よ、我等の刃にて死ね / Yujin23Duo 様

 作品名:英雄よ、我等の刃にて死ね

 作者名:Yujin23Duo

 URL:https://kakuyomu.jp/works/16818093094574900467

 ジャンル:異世界ファンタジー

 コメント記入年月日:2025年9月6日


 以下、コメント全文。


 この度は『自作品にさらなる輝きを』企画にご参加いただき、ありがとうございました。

 主催者の島流しにされた男爵イモです。作品の方は、本日時点で公開されている内容はすべて拝読いたしました。


 物語はまだ序盤ではあるものの、読みやすさを重視した文体と華麗なアクション要素は、対象とされている読者層にとっては心を掴まれるものなのではと感じました。世界観や必要な情報をこまめにまとめて、読者が何度も話を読み返さなくても済むようにした構成は実に親切でした。加えて前述したアクション要素は、進行の中弛みを防ぐカンフル剤としても機能していたかと思います。まるで九十分ほどのアクション映画を彷彿とさせる、闘いを主軸においた展開の数々。その取っ付きやすさは諸刃の剣ではあります。しかしながら同時に、それは本作の売りでもあるはずなので曲げずに貫き通してもらいたい美点です。


 世界観に関しては独特な趣向が凝らされていました。ファンタジーではお馴染みのゴブリンやオーガ、エルフなどの種族や勇者を登場させつつも、そこに近代的な都市と兵器を組み合わせた異色の世界観。そんな既存の枠に縛られない設定には、作者様が作品の方向性を模索されていたことが窺えました。最初の舞台となるエル・パッソ・シティのとある地区には、ファヴェーラのような雰囲気が漂っていて作風とも合致していました。その他の地区との対比にもなっており、広大な国の表裏を端的に説明する材料となっていたと思います。


 主人公のグランツは今のところ不透明な部分が多いですが、今後の物語が広がっていく過程で掘り下げができるくらいには興味深い背景がありました。従軍経験と身体的特徴は、伏線として活用する余地もあります。多くを語らず、かといって情がないわけではない性格は好印象です。アウトローさの中にハードボイルドな素顔が同居しており、小悪党の括りに入れられないための個性を読み取ることができました。彼の扱う珍妙な武器については、一種のトレードマークの役割を果たしていた印象です。行動を共にする他の登場人物たちの武器と差別化する点でも、十分な存在感を示していました。


 では、次に気になった点を記していきます。

 以下の五点です。

 ➀世界観に対する表現と説明の不足

 ➁登場人物たちの書き分け

 ➂肩慣らしにもならないレジスタンスたち

 ➃敵としての勇者像

 ➄非効率なチヴォウォの戦い


 一つ目、世界観に対する表現と説明の不足。

 先に述べたように世界観の発想には斬新さを感じる反面、その維持が疎かになっているふうに見受けられます。たとえば登場人物の容姿を説明する際に、作中世界とは関係のない実在の国名や俳優名が使われているのは釈然としません。あとは転生者の仕組みと日系人が対象となる理由の不明瞭さであったり、多種族が存在する前提があまり生かされない近代的な戦闘が繰り広げられたりするのは惜しい部分です。転生者の仕組みについては、この手のジャンルでは暗黙の了解を得ているのかもしれません。ですが後者の戦闘では客観的にみても「この世界観でなくとも書ける内容ではないか」という疑問を拭えませんでした。現状では折角の世界観が飾りに近いものとなっています。


 やはり一度、世界観を構築されたからには、それをなるべく損なわずに守っていくことが大切です。簡単な例だと作中世界でカメラや携帯、インカムとなる「魔石」をメタ的に地の文で解説せず、「魔石に声を発すると文様が浮かび、音の一つ一つを真似た独特な響きがあちらとこちらを行き来する」など、独自の設定で説明してみるのも没入感の演出につながります。


 戦闘でいえばオーガであるリッキーの大胆さに、輪をかけて描写するのはいかがでしょうか。武器を嫌い、己の肉体のみを信じる。強者とあらば、仲間だろうと目をつけて「いつかはお前と仕合がしてえなあ」と冗談まじりに口にする。そうした種族特有の好戦的な性格を押し出しても面白いと思います。もう一人、例を挙げるならエルフのマクスウェル。彼は効率と安全に重きをおく姿勢が目立つので、落ち着きと打算的な一面を持った賢者として描写してもよいでしょう。単に皆がプロ、曲者と伝えるだけでなく、種族にちなんだ性質や特徴を足すと一層世界観の意味に深みが生まれてくると思います。


 二つ目、登場人物たちの書き分け。

 ➀の後半部分を補足する形となりますが、まずは『第四話 顔合わせ』に触れさせていただきます。こちらでは主要な登場人物たちの容姿と様子が話の前半で、名前が後半で明かされる構成となっています。それ自体は構わないのですが、前半と後半とで解説していく面子の順番が一致していません。これでは内容を対にしている効果が薄くなり、読者の読み違いにもつながる恐れもあります。リッキー、リドゥナと来たなら、その順に後半でも明かしていくのが無難です。


 そして本題の部分。現状、リッキーとスミタニ以外の登場人物たちは上手く書き分けができていない印象を受けます。もちろんグランツも例に漏れないので、そこが一番悩ましいところともいえます。主人公よりも個性の強い人物が現れ、主役が魅せるはずの場面を横取りしてしまっているのですから。この問題を解消するには、個々の人物の性格や信条にスポットを当てなければなりません。地の文で細かく記してもいいですし、台詞で簡潔にまとめるのもアリです。


 なぜ、今回の作戦に参加しているのか。報酬のため、戦闘狂、義理、勇者との因縁。理由は考えればいくらでも浮かぶはずです。それをそれぞれの人物に割り当て、タイミングを見計らって書いていく。工程だけを想像すると大変な作業に感じるかもしれませんが、コツを掴めば応用も利く便利な手段です。また、口癖や歩き方、姿勢などを個別に用意してもよいでしょう。あえて度々同じ描写を挟み、人物名とリンクさせることで人物像を定着させるのです。そうすれば読者は早い段階から登場人物たちを把握できます。表面上の性格のみならず、行動原理を紐解くのも書き分けをするときには重要なポイントになってきます。


 三つ目、肩慣らしにもならないレジスタンスたち。

 レジスタンスたちとの初戦である波止場の強襲は、手応えのなさが際立ってしまっています。要因としてはレジスタンス側が弱すぎる一点に尽きます。主人公側の完璧な仕事ぶりを書くのが作者様の目的だったと窺える一方で、両陣営を立てるためにも善戦ムードがほしくはあります。たとえばコボルドは、リッキーとグランツの二人を相手取って奮闘するがフォーサの暗器に沈む。リーダーの女はフォーサの使った薬に昏倒しつつも気力で反撃、スミタニを人質にしようとするがマクスウェルに始末されるなど。大元の勇者への足掛かりとなる以上、レジスタンス側があまりに弱いと勇者の格まで落ちてしまいます。場面全体に新たな側面を設けるという観点からしても、なにかしらのアレンジをオススメします。


 四つ目、敵としての勇者像。

 かつての大戦を終結に導いた勇者が、ときを経てある国のレジスタンスの一員となっていた。そう作品冒頭では綴られており、字面だけで判断すると彼の行動は理に適っています。これでは大義は彼にあり、暗殺の命を受けた主人公らに読者が共感しづらいのではと懸念を抱きました。インパクトの面でもさほど驚く内容ではなく、弱きに手を差し伸べる勇者の姿勢は理想的で至極真っ当です。物語が進むにつれてこの認識は覆るのかもしれませんが、最新話まで拝読した限りでは主人公たちの行動は読者にとっては疑問の種そのものに見える可能性が高いです。


 これが仮に「勇者は圧政を敷く政府に与している」、「勇者は栄華を極めた国家でテロ活動を行っている」などであれば依頼主や世界情勢の背景はともかく、自然な流れで物語を始めることができます。そうしないのには作者様の意図を感じるので、余計な口出しは控えます。ただし、勇者の人物像を出し渋っていたのは賛同できかねます。情報を温存しておくにしても、あまりに寝かせすぎると読者の関心が続かなくなってしまいます。書き方によっては、今の物語の展開を壊さずに機会を差し込むのは容易です。


 たとえば波止場でのレジスタンスとギャングの取引場面。ここでギャング側の下っ端が些細な理由で、レジスタンスのコボルドに因縁をつける。これに対してコボルドは下っ端を殴殺して「大義のためならば、貴様らのような下衆との取引にも応じよう。だが、憚りもせず己の愚劣さを晒す連中には、こちらも手段は選ばない。生憎と俺は、かの勇者ほど寛容ではないのでな」と口にして、勇者の人となりを表す。あるいはチヴォウォの戦いで戦死した仲間を、勇者が手厚く弔う描写を入れる。こうした場面の隙間で勇者の人物像を縁取りすると、実際に登場させるまでの尺を無駄なく使えます。あくまでも上記の内容は一例にすぎないので、アイデアの一つくらいに思っていただければ幸いです。


 五つ目、非効率なチヴォウォの戦い。

 本文中にもあるように盤石な政府軍基地に、頭数でも装備でも劣るレジスタンスが正面突破を図るのは無謀です。弱体化した勇者の弾除けが目的だとしても、欠員補充と装備の消耗を考えると割に合いません。おそらくは泥臭くも勇ましい戦闘を演出するのが作者様の狙いなのでしょうが、その代償としてかなり不自然な戦いの様相となっています。全盛期ほどではなくとも勇者は物理攻撃を無効化できるのですから、彼こそが囮となって正面の兵士たちの注意を引く方が妥当です。


 あるいは部隊を三つに分けて兵士たちを攪乱、守りの薄くなった区画を勇者が突破する。そうすればレジスタンスの命をいたずらに犠牲にせず、基地を落とすことができるでしょう。勇者の異質さもより際立つはずです。ようは合理性のある作戦でなければ、読者目線では違和感ばかりが増すのです。満を持しての勇者の登場であるだけに、ここに至ってはより繊細な話の舵取りが求められるかと思います。


 最後に目に入った範囲での誤植をまとめておきます。

 ご参照ください。


 ※別途で文中に「エル・パッソ・シティ」と「エル・パッソシティ」の表記の乱れあり。


 第一話より

 ・どうやらこれはのここの世界での電話のようだ。→「の」が一つ余分。


 ・「そこまで急かすって一体どこの依頼から」→どこからの依頼で。


 ・火の元との距離はそこそこ離れているが、このまま突っ立ってたら巻き込まれそうだ。→突っ立っていたら。



 第三話より

 ・既に五人が座っており、開いてる椅子は真ん中にある一つだけだ。→空いている。



 第五話より

 ・岸にはカラフルな小型船が何台か停まっている。→何隻。


 ・「今回は遠方支援以外は今回は控えて貰う、~~」→今回の重複。


 ・不意に求められたスミタニは、思わずはにかんだ笑み浮かべながらも同様に手を出し、握り返す。→はにかんだ笑みを。


 ・珍しく自身に満ちた表情で頷いた。→自信。



 第六話より

 ・目には様々な思いが巡り、悶々としている用に見えた。→ように。


 ・軍人は一気に立ち上がり、話を流れをぶった切ると、逃げるように向こうの方へ歩いていく。→話の流れを。



 第八話より

 ・誰もかれもがせっせこせっせこ荷物を運ぶ中、一人の男こっそりとレジスタンス一派の元へ近づく。→一人の男が。


 ・すると視界が動き、そのサブマシンガンど真ん中で捉える。→サブマシンガンを。



 第九話より

 ・スコープを除きながらも吐く息は一定の感覚で長く、静かに。→覗きながら。


 ・無駄が無くリラックスしてる様はプロフェッショナルそのものだ。→リラックスしている。



 第十一話より

 ・ルカスは勢いままに三人目の男へと肉薄。→勢いのままに。



 第十四話より

 ・辛うじて標準を向け撃つ者もいたが、サンチョ達は容易に銃弾の嵐をくぐり抜けていく。→照準。


 ・弾幕を張りながらドッシリ構えるエル・パッソ軍、弾幕を張りながら徐々に距離を詰めるレジスタンス←句点の付け忘れ。



 第十五話より

 ・馬に乗って広大な駆け抜けながらサブマシンガンをばら撒き、あっという間に制圧していく。→広大な敷地を?


 ・「確かに酷い冗談だが、可能性が無いじゃない」→無いわけじゃない?


 ・映像内では勇者が軍の高官へと壁へと叩きつけ、一瞬で首の骨を折る様が流れている。→軍の高官を。



 第十六話より

 ・明かりは無く、唯一の光源は窓から刺す光だけの、恐ろしく簡素な寝室だ。→窓から差す。


 ・窓から刺す光は極限まで鍛えられた肉体の……焼け跡の如く刻まれた傷跡をこれでもかと照らす。→窓から差す。


 以上になります。

 ここで述べたことが、作者様にとってなにかしらの気づきとなったのなら幸いです。

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