異世界ファンタジー

西のカルデラ戦記➀-風の舞う地- / もってぃ 様

 作品名:西のカルデラ戦記➀-風の舞う地-

 作者名:もってぃ

 URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354054918616771

 ジャンル:異世界ファンタジー

 コメント記入年月日:2024年7月25日


 以下、コメント全文。


 作品の方を拝読致しました。

 ハイファンタジーに策謀と動乱を掛け合わせた作風は、アイデアの足し算が上手く機能していたことを感じさせるものでした。もってぃ様の作品にこれで三作、目を通した方としては「これくらいの出来は当然」と思えてしまいますが、それなりのクオリティの作品を連発するのは、そう容易いことではないでしょう。のちに気になった点を述べますが、それを差し引いても十分に読者を魅了するものはあったと思います。


 文章も理路整然としており、物語が複雑なわりには目が滑ることはありませんでした。淡々とした語りで進みつつ、それでいて必要な描写は適度に挟む。好みによる意見の違いこそあれど、少なくとも不足にみえる箇所はなかったです。単語選びや人物たちの台詞も老成しており、作中世界の雰囲気は丁寧に形作られていた印象です。先日、近況ノートにいただいたコメントへの返信にもなりますが、世界観は一級品でした。本作は大きな構想のほんの一幕に過ぎないのでしょうが、それでも明かされた範囲の世界観はまさに王道で、ターゲットとされているのであろう読者層の望むものをすべて取り揃えていたふうに読めました。


 そうした点と軍記物としての作品構造は、上手く噛み合っていたのではないでしょうか。おそらく対象としている読者の年齢層は高めという前提で考えると、本作は一般的なエンタメ作品とは一味違った深みをもっていることがわかります。ある種のリアルさ、その中にある不条理とフィクションの調和ですかね。リアル志向ゆえに話が暗くなりすぎることはなく、かといって都合の良さが全面に押し出された展開にも傾かない。そんなバランス重視の作風によって、本作ならではの深みが醸成されていた印象です。


 ストレスフリーな作品を好む読者には合わないであろう一方、一定のストレス下に晒されたあとのカタルシスを好む読者とは相性がいいといえます。『皇女と候補生と~~』とはまた異なった角度からの、中道を行くという姿勢を感じ取れました。それが中途半端ゆえの結果ではなく、あえての選択だというのは作品の練度が物語っています。


 また策謀という部分に関しては、情勢の解説や視点移動を駆使して、丁寧に描写されていたように思います。通読後に振り返ると単純な道筋ではあったものの、そこに関わる、あるいは巻き込まれた人物たちの最期や葛藤はそう単純ではありませんでした。そう読後に思わせるのが、作家として上手いところなのだろうと得心しました。群像劇では、作者が好きな場面だけを切り貼りしてしまうことが往々にして起こります。しかし、作中では「好き」よりも「必要」が先行しており、それが意味のある場面作りにつながっていたのだと、これを書きながら確信した次第です。


 では、続いては気になった点を述べていきます。

 最初に数字を振って、整理しておきます。

 ➀掴みの弱さ

 ➁情報の厳選

 ➂登場人物たちの作り込み


 まずは➀、掴みの弱さについて。

 作中では三人称視点、その中でも神の視点が使われています。これは物語の特性上、理に適っているといえます。しかしながら、同時に話の掴みを弱くしていると考えられます。一般的な小説の場合は、主人公や起点となる出来事をはじめに書くことで掴みにできます。一方で神の視点は、同じことをしても同等の結果は必ずしも得られません。


 理由は第一に、主人公以外の心を覗くことができるためです。満遍なく人物を書くことができるということは、裏を返すと特定の人物のみ特別視することができなくなるということです。誰が主人公なのかが、わわりづらくなってしまう。しかも、本作には主人公格の人物が複数人います。


 第二に、話の軸が見えづらいこと。前述の理由から、どの出来事を中心に据えて作品を読むべきか、序盤では読者に伝わりづらくなります。こうした読者からすれば不確定要素の応酬、作者からすれば物語を動かす下準備、という構造が神の視点では生じやすいです。


 そのために序盤では、掴みが弱くなる(そう見える)のです。本作の内容を照らし合わせると、これから壮大な物語が始まるということの匂わせに留まっている、といった感じです。これも掴みではありますが、やや抽象的ではないでしょうか。「物語はわからないが、雰囲気が好き」、「とにかくある程度まで読む気だよ」という読者には些末事でしょうが、ふらりと立ち寄った程度の読者を引き込めるのかという問いには、自信をもって首を縦に振れない部分ではあります。


 本作は視点の制約上、掴みの種類が限定されています。その中で効果的な掴みを挙げるとするなら、終盤のワンシーンを序盤に持ってくるというものです。ベタな手法ですが、とにかく印象的なシーンで読者を圧倒し、そこに至るまでになにがあったのだろうと想像させる。そのあとに個々の人物を掘り下げれば、読者の関心を長く維持できるはずです。


 とりわけ本作は世界観や人物相関図が複雑なため、序盤はあえてザックリと進めた方が読者はついてきやすいでしょう。細かな説明で内容を固める前に、派手な描写でまずは関心を集める。どうして、の答えを先回りして出さず、まずは読者に好きに想像させてから答えを出す。そうした手法を、よろしければご一考いただければと思います。


 次に➁、情報の厳選。

 先に記したように神の視点による群像劇形式には、多くの人物にスポットを当てられる反面、作者が物語をしっかりとガイドしなければ、読者の関心が散逸してしまうというデメリットがあります。本作はシリーズの第一部ということで、未回収を含む伏線や主要人物たちの掘り下げといった下準備に多くの字数を割かなければならないことはわかります。とはいえ、物語の筋道をまだ綺麗にする余地は残されているように思いました。


 具体的にいうと、第一部で提示しておかなければならない情報の厳選です。極端な話、第一部で活躍する、もしくは退場する人物以外の情報は、そこまで重要ではありません。表層のみのシンプルな説明で済ませてもいいですし、わざと伏せておいて伏線にもせず謎のまま残しても問題ありません。そうした視点で考えると、現状では少し肉付けが過ぎるようにみえないでしょうか。これは、もってぃ様の「登場人物全員の心情や背景を、丁寧に汲み取りたい」という想いが裏目に出た結果だと推測しています。


 書きすぎるということは、軍記物としての側面を考慮してもあまりお勧めできません。一の問いに十や百で返されることが当たり前になれば、読者は能動的に読み進める意欲を失ってしまいます。やはり想像してこその読書なので、ときには作者側ですべての疑問を補完せず、各々の想像に委ねることも一つの手です。


 そして➂、人物たちの作り込み。

 こちらも近況ノートへのコメントの返信になる部分ですね。世界観については申し分はなかったのですが、人物たちの作り込みには気になるものがありました。やはり主要人物たちが皆、聡明すぎることでしょうか。リアリティという観点では至極当然な味付けだと思うのですが、似通った口調も相まって中盤まではどの人物も平板にみえてしまいます。なにも一人一人の性格を別物にすることはないとはいえ、一工夫を加えてみても面白いのではと思います。


 たとえば個々の人物の習慣を描写してみたり、口癖、自然風景に対する見方の違いなどを軽く添えてみたりなど。そうした雰囲気から人となりを察せられる材料が細かく散りばめられていれば、表面上は皆が似た空気をまとっていても、差別化することはできるはずです。視点の特性上、場面を俯瞰することが多いので、そのことを逆手にとって客観的な情報で人物にイメージを付け足してみてはいかがでしょうか。


 さらに作り込みという点では、パウラこそ第一部では掘り下げるべきではないかと思い至りました。彼女はもってぃ様が書くうえで不得意とされている狂人、トラブルメーカー。その無邪気な残虐性は、彼女の背景を明かさないことで真価を発揮しているようにも捉えられますが、その側近である名の無い女の方が強調されるあまり、噛ませ犬に近い印象を抱いてしまいます。パウラは恐ろしい人物なのだろうけれども、真に恐ろしいのはその手綱を握っている名の無い女の方ではないかと。


 こればかりは意図的なものを感じるので深くは言及しません。それでも敵方、パウラやルーベンの行動目的や生い立ちを補強することは作中世界での視野の広がりにつながると思うので、一つの見方として頭の片隅にでも留め置いていただければ幸いです。


 最後に、誤字などの報告になります。


 風の子ら 2(前編)より:「云いがかりに注ぐ云いがかり。~~」→次ぐ。

 暁風 1より:盟約により軍役を果たせなくなくなれば、~~。→「なく」の重複。

 暁風 2より:タルデリがのんびりと質した→句点の付け忘れ。

 禍つ風 2より:~~、寸でのところで踏み止まることが出来た。→既、すんで。

 禍つ風 3より:アレシオ・リーノ声に〝殺気〟に近いものが混じり込んだ。→リーノの。

        :アレシオの目に殺意が宿っているのを見て、パウラ引き下がることにした。→パウラは。

 凪 2より:~~、鎖を張って岩場に繋ぎ固定しまった。→固定してしまった。

 風早 2より:~~、座乗艇の舳を翻し悠然と自軍の陣列のと引き返して行った。→陣列へと。

 嵐気 2より:アティリオが外連を利かせた声を表情で続ける。→声と表情?

 嵐気 3より:~~、路地に置き捨てられたソニアが置き上がろうとするのを見て、~~。→起き上がろうとするのを見て、

       :いつものアロイジウスと違う〝何処か後ろ暗い感じ〟が、確かに有った。。→句点の重複。

 嵐気 4より:だが状況は好転しそうにあかった。→好転しそうになかった。

 嵐気 5より:だがアロイジウスは、寸でのところでその思いを改めた。→既、すんで。

 炸風 6より:~~何とか速度を落とぬようワイバーンを操っていると、~~。→速度を落とさぬよう。


 以上になります。

 ここで述べたことが作者様の創作活動の糧となったのなら、なによりです。

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