歴史・時代・伝奇

連作短編集 徘徊紀行 / 市枝蒔次 様

 作品名:連作短編集 徘徊紀行

 作者名:市枝蒔次

 URL:https://kakuyomu.jp/works/16818023211910611118

 ジャンル:歴史・時代・伝奇

 コメント記入年月日:2024年2月19日


 以下、コメント全文。


 はじめまして。

 この度は『レビュー、もしくは感想を書きます』企画にご参加いただき、ありがとうございました。主催者の島流しにされた男爵イモです。


 作品を拝読致しました。

 大まかな内容への私見はレビューで触れているので、こちらでは主観強めの感想を書いていきたいと思います。まずは三つの短編、すべてに共通する事柄から。やはり、どの話も「絵になる」と感じました。どれも日常の一部を切り取ったものなのですが、そこから言外の意味が読み取れるのは楽しい部分でした。また一部を除いて、そこに明確な答えがなかったのも嬉しかったです。解釈の幅が広く、描写の意味のとり方によって場面の意味も変わってくる構成には唸らされました。十人十色、読者の数だけ解釈があると言っても過言ではないように思います。


 日常の一部を切り取った作品は、その切り取り方の巧妙さや平凡な日常の中にある情緒を売りにしたものが多いですが、本作はそこに想像の余白が多分に含まれていたことで他の類似作品との差別化が図られていたと考えます。作中で語られない部分を無意識に想像して補完してしまう、読者にそんな働きかけをする描写や台詞回しには驚かされました。これは是非とも見習いたい部分です。ちなみに私は、第2話が特にお気に入りです。楽園の意味するところの考察は面白く、二人のやり取りはそれだけで絵になっていました。二人で一人の人間の栄枯を表している、と勝手な考察をしながら二周目を読みました。


 総じてレベルが高く、作品は完成されている印象です。自分の好みとほとんど一致していたという主観を取り払っても、その完成度はプロの作品に比肩するかと思います。書店に並んでいてもなんら不思議ではありません。願わくばもう少しボリュームがあった方が嬉しかったですが、その内容の短さこそが余韻につながっているため、難しい部分なのでしょう。


 気になった点は一つ、ハード面の話です。

 作中では「」の文章の字下げ、その反対に改行後の地の文の下げ忘れが散見されます。これはおそらく文章作成ソフトの原稿を、カクヨムに貼り付けたときに生じるズレかと思います。たとえば、第1話の「珈琲を頂戴」からの台詞と地の文など。文章の貼り付けをした際の行頭のズレは、カクヨムではよくあります。私も何度か経験しています。これらのズレが意図的なものでないのなら、整えることをお勧めします。ご存知かもしれませんが、PCからの場合は小説の編集画面(実際に文字を打つ画面)の左上「編集サイドバーを表示」をクリック、「記法と整形」にある「段落先頭を字下げ」を押してもらえれば、そのエピソード内の文章の行頭を一括で字下げすることができます。「」の行頭に関しては、適宜手動で直す必要があります。小説の基本ルールに沿って書かれた作品だったので、細かな点が気になった次第です。


 それでは以上になります。




 以下、レビュー全文。


 巡る環を走って、転げて


 命ある限り誰もが進む、不思議な道。

 まっすぐ続くかと思えば曲がりくねって、それでも先は続いていたり、途中で真っ暗闇になっていたり。それが環だと気づくのは、いつになるのやら。もしかしたら気づくことなんて永遠にないのかもしれない。だって、道を進むだけでも精一杯なんだから。


 三つの短編からなる、徘徊紀行。

 それはまさしく徘徊であり、それぞれの生きた足跡でもあるのです。なにげない日常と、そこから覗くあり得たかもしれない道の数々。そこには多くの想い出と、喜怒哀楽が眠っています。それらを横目に今を生きる人物たちの背中に、貴方は得も言われぬものを感じ取ることでしょう。もちろん、解は無数にあります。あるいは、それを解と呼ぶこと自体が間違いなのかも。まずは構えずに、文章そのものを楽しんでみてください。


 その次に自分なりの考察を思い描くのです。最初は難しいかもしれませんが、すぐに慣れてくるはずです。なにせ本作は、考察しやすい構成が強みなので。きっと考察の先に、自分だけの感動の形を見つけられるはずです。みんな形の違う人生という名の環。その環を進む人物たちに、貴方はなにを思うのでしょうか。巧緻な文章で紡がれる人間ドラマを楽しみたい方にオススメの一作です。

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